ぼくの投資は年10%の利回りをターゲットに安定してコツコツと積み上げることです。いくつかハイリスクな投資も行っていますが、重要なのは5%程度の確度の高い利回りを持つ商品です。
今回は米5%前後の分配金を安定して出しているETFの「PFF」についてまとめてみます。
PFFはBlackrockが運用するiシェアーズブランドのETFで、ドル建てで取引されています。国内大手ネット証券ではほとんどで取り扱いがあります(取り扱い一覧)。
優先株とは?
PFFが組み入れている優先株とは、配当などを普通の株式よりも優先して出すという特徴を持った株式です。議決権もなく、配当率も決まっており、償還期限がなく、さらに繰り上げ償還権も発行側にあり、かなり発行側に有利な内容になっています。そのため、配当の利回りが高いというのが特徴です。一般的には、株式と債券の間に位置すると言われます。
PFFには、具体的には米国の金融機関が出す優先出資証券が組み入れられています。米国比率は84%となっています。法的にも税務的にも債券ではありませんが、実態は社債に近いものです。ただし発行元である金融機関が破綻した際には、社債、劣後債、優先出資証券の順になりますので、社債よりもリスクが高いと考えられます。
米国の金融機関がこの優先出資証券を発行しているわけですが、なぜこんなものをわざわざ発行しているのでしょうか? 金融機関はBIS規制により自己資本比率を8%以上に維持することが求められています。しかし、株式を発行して自己資本を増強しようとすると既存株の価値が希薄化します。
そこで、編み出されたのが、優先出資証券や劣後債で分子(自己資本)を増やすという苦肉の策なのです。勘の良い人は、銀行や普通預金や短期金融市場から資金を調達できるのに、なぜ高い金利を支払ってまでこれらの債券を発行してお金を集めなければならないのか。と考えたと思いますが、それに対する答えがBIS規制による自己資本規制なのです。
『「海外投資」7つの方法』より
この優先出資証券は債券に近い性質ですが自己資本に組み入れられてよいとされているようで、そのため金融機関が高い配当利回りを出しながら発行しているというわけです。
分配金利回りは4〜6%
PFFの分配金利回りは高く、直近で6.02%、過去12ヶ月で5.62%となっています。具体的な分配金は2007年春からの平均で毎月1株あたり0.211ドルです。
現在(2018/04/17)1株37.24ドル程度で、年間平均分配金が2.53ドルですから、利回りでいうと6.7%だということが分かります。この1年くらいは0.175ドル/月まで分配金が減っているので、5.6%まで利回りが下がっています。
ちなみに毎月分配といっても、一時期問題になった自己資本から配当するいわゆるタコ足配当をしているファンドではないので、税金の面を除けば毎月分配がいけないというわけではありません。
金融株比率が高く金融危機に注意
PFFは米国を中心とした金融機関の優先出資証券を200種類以上組み入れており、組み込み比率が最も大きいHSBCでも2.63%にすぎません(2018/04/17)。数多くの金融機関に分散を図ることでリスクを減らしています。
しかし、ほとんどが金融機関だということには注意が必要です。リーマンショックのときのような金融危機が起きると、一気に価格が下落するリスクがあるからです。
こちらは、S&P500(赤線)とPFF(青線)の価格推移を、2007年からプロットしたものです。S&Pが87%上昇したのに対し、PFFは26%の下落です。特に、2008年のリーマンショックの際は下落が激しく、実に70%も下落しています。
その後2009年からは価格は横ばいで推移しており、税引き前分配金を再投資したと仮定した10年間のトータルリターンは74%に達しており、S&P500とも遜色ないものだと思います。ただしこれは「税引き前」数値であり、実際は分配金に対しては都度税金がかかるため、リターンは悪化します。
とはいえ、過去3年のボラティリティは4.08%と小さく(S&P500に連動するETF IVVは10.26%)、S&P500との価格の連動性を示すベータ値は-0.12となっており、S&P500の価格影響をほぼ受けない状況が続いています。リスクが小さく、安定して分配金が得られる点では優秀なETFだといえます。
ただし、金融危機の際には投資先が金融機関だということもあり、大きな価格下落に陥る可能性があることだけは注意が必要です。ここが債券との大きな違いだといえるでしょう。
米ETF配当は外国税額控除を
最後に、PFFの魅力は大きな分配金ですが、ここにかかる税金には注意が必要です。まずこちらは米国株式になるため、日本の税制では外国株配当となります。最初に米国で10%が課税され、さらに日本で申告分離課税として20%が課税されます。申告分離課税分は証券会社で源泉課税されるのですが、この米国での課税分を取り返すには、確定申告を行って「外国税額控除」という手続きをしなくてはなりません。
これは少々面倒ですが、ものすごくハードルが高いわけでもありません。
もう一つ、NISA口座は配当に対する課税もないというメリットがある口座ですが、実は外国税額控除の対象になりません。つまり、10%は必ず取られてしまうというわけです。そのため、PFFはNISA口座で買うことはおすすめしません。
准債券投資として面白いPFF。ただし金融危機には注意
そのようなわけで、日本にはなかなかない面白い投資先がPFFです。金融危機のときだけはかなりの価格リスクが生まれますが、実際は200以上の金融機関に分散投資しているため、1つや2つがたとえ破綻しても影響は限定的です。逆に、情勢が大きく変わらないのであれば仕込み時だともいえるかもしれません。
【2018年12月の状況を追記】
1点注意なのは、最新のBIS規制であるバーゼルIIIでは、優先出資証券の扱いが変わることです。
優先出資証券は、バーゼル銀行監督委員会の定めた金融機関に対する自己資本比率(BIS規制)の算定において基本項目(Tier Ⅰ:業務継続ベースの自己資本)(2012年7月末現在)に算入されるため、多くの大手金融機関が自己資本の充実のために発行してきました。ただし、2018年以降に導入が予定されている最新の自己資本規制(バーゼルⅢ)においては、優先出資証券は補完的項目(Tier Ⅱ:破綻時を想定した自己資本)となる見通しです。(投信資料館)
バーゼルIIIは2019年から全面適用といわれており、その際にはPFFにも影響があるかもしれません。
ぼくは現在のところ、総資産の3.3%をPFFに充てています。