前回に続き、『AI時代の新・ベーシックインカム論』についてです。ベーシックインカムを導入しようと考えた場合、「働かない怠け者にも一律でお金を渡すのはいけない」という反論が想定されます。筆者はこれを、リベラル・リバタリアンの立場から「怠け者にも渡すべき」だと主張します。
労働意欲が低いのも意志が弱いのも、全てはハンディキャップの一種であり、怠け者は究極のところ運が悪いのである。怠け者になるかどうかは、全て遺伝と環境(と偶然)によって決定される。だから、本来であれば障害者や重い病気の人同様に幸福に生きる権利があり、救済が必要だ。
ジョン・ロールズという『正義論』という分厚い本の著者がいます。彼は「無知のヴェール」という思考実験をしました。自分が生まれる前だとして、資産家の子供として生まれるか、発展途上国の貧しい農村の子として生まれるか、ハンディキャップを負って生まれるか、知恵遅れで生まれるか、分からない状態だとします。これを「無知のヴェール」といいます。この状態で、どんな境遇に生まれても納得できるフェアな社会でなければならないということです。

- 作者: ジョン・ロールズ,川本 隆史,福間 聡,神島 裕子
- 出版社/メーカー: 紀伊國屋書店
- 発売日: 2010/11/18
- メディア: 単行本
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たまたま遺伝的に頭脳明晰に生まれ、たまたまよい教育を受けられ、たまたまその知性を活かすことができる社会に生まれた。そんなふうに考えると、能力があるからといって高い収入があるということは、当たり前とはなりません。
人は人生の中で、挫折とまではいかなくても、「あぁこの人にはかなわないなぁ」「ぼくはそこまで頭が回らないなぁ」と思うできごとに遭遇すると思います。これを、ならば努力しようと思い、勉強に励むのはよいことですが、根本的に頭の出来が違うと感じざるをえないこともあります。
スポーツをやっていた人なら、このことがよく分かると思います。どんなに努力して練習しても、生まれ持った才能にはかなわない。これを何歳くらいで現実として受け止めるかで、その人のものの見方が決まるようにも思います。
世の中には、才能で多くのことが決まるものと、努力の幅が大きいものと、運の要素が大きいものがあります。これをうまく見極めないと、無駄な努力に一生を費やしたり、単なる不運なのにチャレンジをやめてしまったりしてしまいます。
そんなわけで、最低限の生活ができるレベルのお金をベーシックインカムとして渡すというのは納得できる制度だと思うわけです。