オプション取引の手法の中でも、安定感があってポピュラーなものの一つが「カバードコール」(Coverd Call Writing)です。これは、現物を保有し、かつその現物のコールを売るという組み合わせのポジションを取ることを指します。
コールの売りは、原資産が値上がりすると損失が青天井で膨らむオプションですが、同量の現物を保有することでそのリスクをなくします。値段が動かなければ売ったプレミアム分だけ利益、値段が行使価格を超えて上がればやはりプレミアム分だけ利益、値段が下がったときだけ同量の損失が発生します。
※青線の現物と赤線のコール売りの損益曲線を合成すると、黄色のカバードコールになります。
つまり、大きな値上がりのチャンスを捨てて、確実なプレミアムを取るという戦略です。カバードコール戦略についてまるまる一冊解説している書籍が下記の『東大卒医師が実践する株式より有利な科学的トレード法』になります。
さて、気になるのは、本来ゼロサムゲームであるオプションで、果たしてカバードコールは利益が出るのか? つまり、カバードコールにアルファはあるのか? ということです。上記の書籍では、過去の実績や研究をもとに、カバードコールに超過リターンがあるというエビデンスがあるとしています。
togetterの講演まとめより
そんなことを考えていたら、ちょうど「アルファの源泉としてのカバードコール戦略」という講演のまとめをtogetterに見つけたので、内容を自分なりにまとめてみます。
まず、オプションのプレミアムが決まる最大のポイントは価格の変動量、ボラティリティだということです。そしてオプションでは2つのボラティリティがあります。
1つは、過去の価格変動から導き出したボラティリティで、ヒストリカルボラティリティ(HV)と呼ばれます。ただし、これはあくまで過去の話であって、これからも同様のボラティリティかはわかりません。
2つ目は、オプションを取引している参加者が予想しているボラティリティです。実際には、プレミアム価格から逆算して「みんなボラティリティはこのくらいだろうと想定しているんだ」という値になります。これはオプション価格に埋め込まれているという意味でインプライド・ボラティリティ(IV)と呼ばれます。オプションで単に「ボラティリティ」といった場合、このIVを指します。
さて、コールのボラティリティを見ると、実際、IVのほうがHVよりも高いということが過去の実績から見て取れるそうです。オプションではボラティリティが高いほうがプレミアムは高くなります。IVによってプレミアム価格は決まり、HVが現物資産のボラティリティですから、コール売りで高いプレミアムを売り、HVである現物資産をホールドしますので、その差分が優位にリターンとなるわけです。
つまり、IV-HVの差が、カバードコールにおけるアルファだということです。講演では、IV-HVをVariance Risk Premium (VPR) と呼んでいたようです。
VPRが上がるとき
ではどんなときにVPRが上昇するのかというと、経済環境の先行きが不透明な場合だといいます。
ちなみに、米国株式市場全体を表すインデックス指数だるS&P500には、VIXという便利な指標があります。VIXはS&P500のオプションのOTM価格をベースに算出されます。つまり、VIXとはS&P500のIVだということです。
VIXが高いということは経済環境の先行きが不透明だということで、それはHVとのスプレッドが開いている、つまりVPRが高く、カバードコールにおいてアルファが大きくなるということを意味します。
一般にカバードコールでは、どの行使価格でコールを売るかが戦略上の選択肢になります。OTMになるほど現物の値動きとリターンが近くなり、よりハイリスク、ATMを売るのはローリスクとなります。
リスクを抑えてリターンを増やす
講演でも「カバードコールではリスク量を元の40%にしつつ、リターンは元の45%になるのが良い所だ」と話していたようです。通常、リスクとリターンは連動しますので、リスクを抑えながらリターンを増やせるというのは、そこにアルファがあるということになります。
日本の証券会社ではオプションの取り扱いが限られているので、カバードコール戦略を取れる銘柄は限られています。一般的には日経225先物と日経225オプションの組み合わせが有名です。
ぼくは、銀CFDと銀オプション、またドル現物とドルオプションの組み合わせでカバードコールをやってみた経験があります。