FIRE: 投資でセミリタイアする九条日記

九条です。資産からの不労所得で経済的独立を手に入れ、自由な生き方を実現するセミリタイア、FIREを実現しました。米国株、優待クロス、クリプト、太陽光、オプションなどなどを行うインデックス投資家で、リバタリアン。ロジックとエビデンスを大事に、確率と不確実性を愛しています。

書評:『生涯投資家』

村上ファンドで有名な村上世彰の自伝的な著書、『生涯投資家』を読みました。自身の半生についてや、いわゆる村上事件についての説明は、自慢ぽくって読み流す感じでしたが、日本の株式市場に株主重視を根付かせようという主張は、まったく賛成です。

生涯投資家

生涯投資家

 

堀江氏の答えは、今でも忘れることができない。

「上場するというのは公器になったということであり、誰でも市場で株式を購入できる状態になること。ファンドにしても、安ければ買う、高ければ売るのはビジネス上当たり前。上場している以上は、誰が大株主になっても、自分はその株主の下で企業価値を向上させ、会社を運営していく」

村上氏がつきあいのあった堀江氏の発言を書いています。村上ファンドが話題になったのは東京スタイル事件のころからですから、かれこれ15年ほど前。いまでこそ、投資家にとっては、上記の堀江氏の発言は「当たり前でしょう」という感じです。でも、当時はこれがたいへん奇異な発言に見えたことでしょう。

 

さらに、いまでも会社を我が物だと思っており、株主を制度上仕方のない邪魔者、くらいに思っている経営者は数多くいるんじゃないかと思っています。僕が思い出したのは、クックパッドの内紛劇です。

 

このときは、株の一部は持っていたものの雇われ社長だった穐田誉輝氏が、株の43%超をもつ創業者の佐野陽光氏と対立し、解任されるという出来事がおきました。ぼくはたまたまクックパッドの株を持っていたので株主総会にも出てみたのですが、穐田氏と佐野氏の会社に対する認識が極端に違うことに驚いた記憶があります。

 

穐田氏は、会社に批判的なことも主張する外部役員を複数そろえ、外部役員は少数株主の意見を代弁して活動していました。株主総会でも、外部役員が佐野氏の行動を批判する書状をわざわざ用意し、机を叩いて主張するという、シャンシャン総会とはまったく違う、エキサイティングなやりとりでした。

 

一方で、佐野氏は事業方針や中期計画を明らかにすることもなく、単に大株主であるという一点だけで会社の人事や運営方針を決めようとしていました。会場の株主からもいくつも質問がありましたが、「自分は思ったとおりにやる。反省もしていないし、次同じようなことがあっても、同様にやる」という趣旨の返答をしたことに驚きました。これが資本の論理かと。

 

企業価値の向上という視点から納得のできる回答を得られない場合、その次のステップとして、私は三つの提案をする。第一に、より多くのリターンを生み出して企業価値を上げるべく、M&Aなどの事業投資を行うことを検討し、中期経営計画などに盛り込んで、きちんと情報開示してほしいということ。第二に、もしこの先数年、有効な事業投資が見込めないのであれば、配当や自己株取得などによる株主還元を行うべき、ということ。そして第三に、どちらの選択も行いたくないのなら、MBOなどにより上場をやめるべき、という提案だ。

 村上氏は本書で、このように書いています。佐野氏は大株主ではありますが、クックパッドの経営者でもあります。正直、佐野氏には企業価値を向上させるという視点は感じられず、自分の思ったようにやりたいという意思しか感じられません。株主やメディアでも、そうならば上場を取りやめてMBOすればいいという意見がありましたが、43%を押さえれば、ほかの株主の意向は無視されてしまうのが日本のコーポレート・ガバナンスの限界なのでしょう。

 

その後佐野氏は、外部の独立性のある役員をすべて自分の「おともだち役員」に入れ替え、独裁体制を整えました。これが会社を私物化する社長なのか、とつくづく思った一幕です。

 

企業とその経営者にとって、上場には二つのメリットがある。ひとつは、株式の流動性が上がること。すなわち、株式が換金しやすくなることだ。もうひとつは、資金調達がしやすくなることだ。逆にいえば、この二つが必要ない場合には上場する必要もない、と私は考えている。

最近でも、この会社って何のために上場するの? と思う場合があります。たとえば2017年の夏に上場したウォンテッドリーは、時価総額40億円ながら、IPOによって調達したのはわずか4000万円です。しかも調達資金はオフィスの増設に使うそうです。

 

なるほど、株式の7割を持つ社長にとっては株式の換金性を上げるというメリットがあったのでしょう。また、HR系の事業では上場による知名度や安心感が重要だという点もあるのでしょう。でもそうならば、この会社の株を買っても、経営者が企業価値を上げるために真摯に努力するのかは疑問です。 

 

普段から資金を手元に積み上げておかなくても、必要になった時に市場から調達できるのは上場企業の大きなメリットだし、そもそもそのための上場であるはずだ。資金を積極的に新規事業や設備投資に使って業績を拡大していくこともせず、株主に還元することもせず、手元に過剰に溜め込んで執着している経営者こそ、将来的かつ長期的な企業の成長を望んでいない張本人である。

会社経営のゲームをしていると、手元資金の重要さ、切実さを本当に感じます。売上が急拡大すると入金と支払いタイミングの違いから資金がショートしてしまうとか、赤字販売になっても在庫を叩き売って資金を作らなければいけないタイミングがあるとか、そういうことが分かります。なので手元資金の多寡は、事業チャンスを逃さないためには非常に重要なものになります。

 

なので、上場することで増資などにより資金を調達できることや、信用がまして銀行からの借り入れが容易になることは大きなメリットです。それは手持ち資金がなくても新事業への投資ができるからです。

 

なのにIPOで調達した資金を後生大事に抱えておくのは、経営者の怠慢を超えて、会社の私物化だと思います。新事業に資金がかかるのであれば、市場からなり銀行からなり調達すればいいのですから。

 

ではなぜ調達ではなく手元資金を使おうと思うのか。それは、市場の判断や銀行の判断を信頼せず、自分の独断で投資をしたいがためなのではないかと思うのです。会社のお金は経営者のものではなく株主のものです。でも、自分が自由に使えるお金だと考えている経営者はものすごく多いように思っています。

 

ソフトバンクの孫社長がいい例ですが、彼は株主や銀行を納得させてお金を調達しています。自社で抱えている内部留保を独断で使うのではなく、外部のステークホルダーの理解を得て投資をしているという点で、たいへん素晴らしい経営者だと思います。ぼく自身は、あまりにリスクテイクするのでソフトバンクの株を持ちたいとは思いませんが。

そもそも私は、上場企業が買収されることを悪いとは思っていないし、そうした動きが積極的にあったほうがいいとむしろ思っている。なぜならば、米国のように、乗っ取られたり敵対的に買収される局面を経れば、上場企業が望まぬ買収を防ぐためにそれぞれ企業価値の向上にまい進するようになり、市場が活性化し、資金の循環が促されるからだ。

 米国では、このように企業買収が根付きました。取締役も「株主の利益を考えると、このM&A提案を断れない」という判断をするようです。本音は違うのかもしれませんが、建前ではそうなっています。

 

日本でもこのような考えが根付くのでしょうか? ぼくは、創業社長は上場後も会社を私物だと思っている意識が強いと思いますし、サラリーマン社長は会社を従業員のものだと考えがちだと思っています。米国企業のように考えられるようになるには、プロ経営者というのものが日本でも当たり前になることが重要なのでしょう。

 

世界の投資家が指標として最も重視しているのは、ROEだ。しかし日本では、ROE重視の経営が行われてこなかった。先に述べた通り、デッドガバナンス中心の時代が長く、成長性や投資家へのリターンよりも財務の健全性が指標として優先されてきたことが影響している。

  

本書では、MicrosoftやAppleがいかに純資産を減らしてROEを高めることに努力しているかを、実際の数字をもって説明しています。正直、この10年でAppleの純資産が全く増えていないのには驚きました。株主のことを考えるなら、安定して利益が出る事業を運営しているのならば、利益は純資産の増加に使うのではなく株主に還元すべきです。そのような会社ならば、資金需要は借り入れで十分賄えるのですから。

 

生涯投資家

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ちなみに、本書や表に出ている情報を見る限りでは、村上ファンドがおこなったことがインサイダー取引だったのかはやっぱり疑問です。しかし、検察側の意見を細かく聞いたわけでもないので、これが国策捜査だったと言い切る自信はありません。

 

あらためて、当時のやりとりをしらべつつ、インサイダー取引の難しさを実感した感じです。

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