初心者向けに投資をすすめる記事で必ず出てくるのは、「失っても困らない金額」で行いましょう、という言葉です。でも以前から、失っても困らない金額っていったいいくらのことなんだろう? と疑問でした。
- 生活防衛資金+老後資金を除いた金額が「失っても困らない金額」?
- 1年間で貯金できる金額が「失っても困らない金額」?
- あぶく銭は「失っても困らない金額」?
- 総資産の10%は「失っても困らない金額」?
- ケリー基準で考える「失っても困らない金額」
生活防衛資金+老後資金を除いた金額が「失っても困らない金額」?
1つの考え方は、(根拠は微妙に不明ですが)生活費の3ヶ月分にあたるという「生活防衛資金」と、老後に向けた貯蓄、この2つを超えた分は「失っても困らない金額」だというものです。
例えば月30万円で暮らしている人なら生活防衛資金は90万円、老後資金は年齢によりますが現在45歳で定年まで働くとして3000万円くらいでしょうか。そこで貯蓄が5000万円あるなら、約1900万円は「失っても困らない金額」だという考え方です。
うーん、どうもしっくりきません。この資産構成で1900万を仮に失ったら、さすがに夜眠れなくなりそうです。そして、1900万円を失う可能性のある投資につぎ込むことも、誰も勧めないでしょう。
1年間で貯金できる金額が「失っても困らない金額」?
こちらは、給与からの貯蓄や投資から得られるリターンの1年間の合計分を「失っても困らない金額」と考えるものです。
例えば、年間で200万円給与から貯金ができ、金利や配当、株の含み益増分が年間で100万円あったとします。この場合、約300万円は「失っても困らない金額」だという考え方です。
ぼくはこの考え方が意外にしっくりきます。もし失っても、1年たてば取り戻せると思うと、多少リスキーな投資でもありかなと思えます。
あぶく銭は「失っても困らない金額」?
ギャンブルがたまたまあたって得たお金や、臨時のボーナス、仮想通貨や株の含み益、そうしたあぶく銭(?)は、「失っても困らない金額」でしょうか? これはいわゆるメンタルアカウンティングの話です。
よく「お金に色はない」と言われますが、それが格言になるくらい、実際はお金に色をつけて考えがちです。「あぶく銭」という色をつけたから失っても困らないと心の中で思えるわけです。
行動経済学でもこの手の話はよく出てきますが、合理的に考えるとおかしいというのはすぐ分かります。100万円で買った株が1000万円になったとして、メンタルアカウンティング的には900万円は「あぶく銭」のように感じるかもしれません。株価が急落して500万円になっても、まぁ仕方ないくらいに思うでしょう。ところが、この株をいったん売却して現金1000万円としたら感じ方が変わってきます。ここから500万円のリスキーな投資をするのはけっこうな勇気がいるのではないでしょうか。
ただし「失っても困らない」の意味が、精神的に堪えないということなら、メンタルアカウンティングを有効活用するのも一案です。投資をやめてしまう人は、破産してしまうか、一気に大金を失って気力を失うのが理由であることが多いからです。「あぶく銭」理論をうまく使えば、大金を失ったとしても心は平静でいられるかもしれません。
総資産の10%は「失っても困らない金額」?
特に10%に根拠はないのですが、総資産の10%というのはリスキーな投資につぎ込んでもなんとかなるように思っています。1億円なら1000万円、5000万円なら500万円、2000万円なら200万円、1000万円なら100万円という感じです。
株式投資なら期待リターンが8%くらいですし、米国債なら3%くらいのリターンが出ます。つまり10%を仮に失っても、1年半から3年で挽回できるという感じです。
この考え方をもう少し推し進めると、経済学でいう「対数関数的効用」を当てはめることもできます。ダニエル・ベルヌーイが提唱した効用の考え方で、金銭的な利得の価値は、すでに所有している富の大きさに反比例するというものです。つまり、次の引用文の意味になります。
自分より2倍金持ちの友人であれば、100ドルの賭けに勝ったときのうれしさは、自分が勝った場合の半分だけということになる。食事代をおごることになっても、痛みも半分というわけだ。
- 作者: ウィリアムパウンドストーン,William Poundstone,松浦俊輔
- 出版社/メーカー: 青土社
- 発売日: 2006/11/01
- メディア: 単行本
- 購入: 8人 クリック: 85回
- この商品を含むブログ (30件) を見る
この効用の考え方を当てはめると、(10%が適切かどうかはともかく)総資産の◯%は失っても困らない金額というのもありそうです。
ケリー基準で考える「失っても困らない金額」
最後にもう1つ。ある投資先があるとして、総資産の何%を1回につぎ込むのが、破産せずに最大のリターンを得るために最適なのかを導き出す、ケリー基準という法則があります。例えば、60%の確率で2倍になり、40%の確率で0になる投資先があったとして、資産の何パーセントを1回の投資に充てるのがよいかを数学的に計算したものです。
直感的にわかるとおり、この投資の期待リターンは120%であり行うべき投資です。ただし、持ち金をすべて1回につぎ込んでしまったら、40%の確率で破産してしまいます。逆に、持ち金の1%しか投資しない場合、総資産に対する期待リターンは1.2%に減少してしまいます。
数学的に最適な投資割合はどのくらいになるのでしょうか? あのクロード・シャノンといっしょにベル研究所で活躍したジョン・ケリー二世による、ケリー基準(ケリーの公式)によると次のとおりです。
f* = (P × (b + 1) – 1) ÷ b
f* は投資すべき資産の比率
P は勝つ確率
b は勝ったときに得られる利益
例えば先の例なら、Pは0.6、bは1ですので、f*は0.2=20%となります。つまり、資産の20%を投資するのが最適解ということです。
このケリー基準、背景や根本的な考え方は先の『天才数学者はこう賭ける―誰も語らなかった株とギャンブルの話』に詳しく載っています。ただし、数式は基本的に出てこないので正確な分析はむずかしいです。そこで、調べていたら、ケリー基準を解説するとともに投資にも適用する解説を下記に見つけました。
しかし、残念ながらケリー基準を応用して「失っても困らない金額」を計算するのは、ぼくの数学力ではまだちょっと無理です。引き続き、勉強したいと思います。