投資家として有名なウォーレン・バフェットと、起業家として有名なイーロン・マスク。どちらも大きな成功者ですが、その考え方や行動指針は真逆のところがたくさんあります。
バフェットは、安定して利益が出る成熟したビジネスを行っている企業を、割安なタイミングで買うバリュー投資タイプ。優秀な経営陣を評価しますが、「バカでも経営できる企業を買え」という彼の言葉は、どこに着目して投資先を選ぶかを的確に示しています。
バフェットはそうした企業を称して「エコノミック・モート(堀)を持っている」という表現をしています。
エコノミック・モートとは,競争優位を保ちうる「壕」がどれだけ幅広いかを表す指数であり,モートが広ければ広いほど難攻不落な企業というわけです。
・ワイド・モート(壕が広い)であれば圧倒的な競争優位があるポジションを確立している
・ナロウ・モート(壕が狭い)であれば競争優位はあるが,限られている
・ノー・モート(壕がない)であれば競争優位はなく,過酷な競争を強いられる
競争相手が少なく、確固としたブランドを持ち、特許などで高いスイッチングコストを持っている企業。 バフェット銘柄の代表としてよく言われるコカ・コーラは典型でしょう。
ぼくはコカ・コーラが好きでしょっちゅう飲んでいます。そして今の味に満足しており変なリニューアルや新製品を出す必要はないと思っています。ほかと比べて同価格なら、基本的にコーラです。こう思っている人がたくさんいるとしたら、すごく広いモートなわけです。
そして、どんな場所でも確実に冷えたコーラが飲めることがぼくにとって重要です。それに対して、コカ・コーラは飲食店への営業活動や、自動販売機の展開に力を入れています。実は、国内の自動販売機設置台数トップはコカ・コーラの83万台。国内清涼飲料水の自販機は213万台とされており、このあたりもモートです。
こうしたエコノミック・モートを築いた企業のビジネスの注力ポイントは、いかにモートを深く広くするかになります。つまり、広告などでブランド価値を上げる、営業活動で商流を広く深くする、大規模化や機械化で生産力を上げコスト競争力を上げるなどです。
こうした業界にとっては、ビジネスの根幹をひっくり返すイノベーション、特にディスラプションと呼ばれる破壊的イノベーションは敵です。今のままの業界構造を維持することが利益を生み出す鍵であり、もしそうしたベンチャーが出てきたら小さいうちに買収して芽をつんでしまうという戦略もよく取られます*1。
いわゆる大企業は、成長しているかどうかは別として、このエコノミック・モートを糧にキャッシュを生み出し続けます。国内では、携帯事業3社がまさにそうですね。大規模なテレビCMでブランド力を上げ、キャリアショップを各地に展開して量販店などには販売インセンティブで商流を強化する。そもそも、電波という公共資産を使って事業を行っているわけで、規制という強力なモートがあるわけです。料金体系は他社と横並びとし、談合はしないまでも実質的なカルテル状態です。
ユーザーには安心感を提供し、投資家には安定した利益を提供する。これはこれで、ひとつの素晴らしいモデルだと思います。ただし、世の中をより良くするという意味ではどうでしょう?
大企業や業界内である程度の地位を築いた企業で働いたことがあるなら、既存事業と新規事業なら既存事業が優先されるという現実を目の当たりにした人も多いと思います。収益をきっちり上げる既存事業は、事業の屋台骨であり、爆発的な成長はせずとも安定して利益を上げてくれます。その判断は、事業としては間違っていない場合も多いでしょう。ただ、働いている人の実感として、世の中を良い方向に変えているという実感が薄くなっていくのではないでしょうか。
投資においても、本当にキャッシュ、投資資金を必要としているのはこうしたモートを築いている企業ではなく、イノベーションを起こして世界を変えようとしている企業のはずです。そこにこそ、リスクマネーの、さらに言うなら金融の重要なミッションがあるように思います。
そして、現在その代表格だとぼくが考えるのがイーロン・マスク率いるTeslaです。(続く)
*1:GoogleやFacebookがイノベーティブな企業を小さいうちに買収してしまうのはよく知られていますね