FIRE: 投資でセミリタイアする九条日記

九条です。資産からの不労所得で経済的独立を手に入れ、自由な生き方を実現するセミリタイア、FIREを実現しました。米国株、優待クロス、クリプト、太陽光、オプションなどなどを行うインデックス投資家で、リバタリアン。ロジックとエビデンスを大事に、確率と不確実性を愛しています。

書評:『投資と金融にまつわる12の致命的な誤解について』〜リスクプレミアムの謎

『投資と金融にまつわる12の致命的な誤解について』を読みました。著者の田渕直也氏は先日読んだ『ファイナンス理論全史』の著者でもあり、なかなかフェアで読み応えがある一冊でした。

投資と金融にまつわる12の致命的な誤解について

投資と金融にまつわる12の致命的な誤解について

 

 

 

誤解1:プロや学者も市場の予測はできない

市場が弱いながらも効率的市場仮説に基づいているなら、プロや学者であっても予測することはできない、というのはこのブログでも繰り返し書いてきました。この章でもファイナンス理論全史を簡単になぞるように、それが説明されています。

 

面白いのは、新聞や経済誌の相場解説に関する内容でした。

「投資家のリスクオン姿勢が強まったため、安全通貨である円が売られた」とか、「発表された企業業績が失望売りを呼んだ」というような専門家のコメントは、大体がほぼ後講釈である。さらに、そうしたコメントの大半がパターン化されたものであり、相場が上がったか下がったかという事実に合わせてパターンに当てはめているだけに過ぎない。 

まったくもってそのとおりで、市場の動きを一定の因果関係をもって説明しようというところに無理があります。でも、ならばなぜこうした、なにかを説明しているようで説明していないコメントが出続けるのでしょうか?

 

行動ファイナンスの大家の一人であるダニエル・カーネマンによれば、人は単純明快な因果関係による説明を好み、それを真実だと思い込むようにできている。誰か全てを理解していそうな人に、わかりやすい説明をしてもらいたいというニーズがあるからこそ、専門家は、それが本当であるかどうかは別として、単純明快な説明を試みるのである。

企業業績などもそうですね。業績はなにか一つの原因で上下するようなものではなく、複合的な要因が、しかもカオス的に絡み合って影響します。ただ、うまくいったにせよ、失敗したにせよ、その最大の原因は何なのか? を人は知りたがります。経営者しかり、投資家しかり。

誤解2:ファンダメンタルズはすでに相場に織り込まれている 

同じく効率的市場仮説によれば、企業の財務分析といったファンダメンタルズは、すでに株価に織り込まれています。なので、素人が一生懸命ファンダメンタルズ分析を行っても、割安の株とか割高な株とかはわかるものではありません。

 

この章で面白かったのは、リスクプレミアムです。リスクプレミアムは、投資対象に対する信用の度合いを示したもので、信用が低いほど、高いリスクプレミアムを上乗せする計算が行われます。安定した大企業よりも、不安定な中小企業の株を買うときは、計算で求められる期待リターンに加えて、リスクプレミアムを上乗せした超過リターンが期待されるというわけです。

 

ファンダメンタルズから導き出す株価の公式としては、EPS ÷ (r(金利)+g(EPS成長率)+p(リスクプレミアム))があります。このリスクプレミアムが大きいほど、株価が割り引かれた評価になるわけです。CAPMによる期待リターン評価でも、リスクフリーレート(通常国債)+β × リスクプレミアム となります。ほかにも、例えばDCF法で企業価値を求める場合にも、リスクプレミアムを使いますね。

 

ところが、

効率的市場仮説の世界では、価格は単純に期待値のみで決まって、その期待値の不確かさは関係がないので、リスクプレミアムはゼロと想定されている。現実の市場では、リスクプレミアムは存在するとみられるものの、それがどのくらいかは明確ではなく、実証的には4〜7%くらいだと言われている。 

なるほど、リスクプレミアムはアカデミックに定義されていないものだったのですね。よく言われるコングロマリット・ディスカウントについても、

 

 複数の異なる事業を傘下に抱える企業(コングロマリット)は、その各事業の価値を合計したものよりも割安に評価される。これも、リスクプレミアムが高く見積もられる事例だ。もっとも、収益源が分散化しているほうがリスクは小さくなると考えられるため、なぜリスクプレミアムが大きくなのかは自明ではない。

リスクプレミアムはPERの変化を説明する

このリスクプレミアムを見ていくと、なかなか面白い結論が出てきます。 先の株価の公式、EPS ÷ (r(金利)+g(EPS成長率)+p(リスクプレミアム))によると、全企業のgの平均は経済全体の期待成長率に近くなるはずです。経済全体よりgのほうが成長率が高いとすれば、GDPにおける企業取り分が上昇しているということを表すからです。さらにr も、経済全体の成長率に近づきます。これは中央銀行がそのように誘導するからです。

 

ところが、市場全体の株式価値は増えたり減ったりします。別の言い方をすれば、PERがものすごく下がったり、ものすごく上がったりします。先の公式でいうと、バブル期のPER60倍というのは、r=gだとすると、リスクプレミアムは1.67%まで小さくなっていたことになります。一方で、PER10倍まで下がった場合、同じくpは10%ということになります。

 

リスクプレミアムがアカデミックに定義されない以上、pの変動は、人々の楽観ムード、悲観ムードをそのまま表していると考えていいでしょう。つまり株価の割高、割安は、絶対的な価格ではなく、PERの倍率がどの水準かで見ればいいわけです。そして、PERは(r=gという仮定なら)pの値そのものを表しています。

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こちらは日経平均のPERの推移です。実は現在、5年平均を下回るPERとなっており、株価上昇がリスクプレミアムの下降、つまり人々の楽観ムードがもたらしたものではなく、企業業績の向上によって起きたことがわかります。

 

一方で、米国のS&P500とナスダックのPER推移はこちらです。過去3年のデータになりますが、かなり高くまでPERが上昇しており、楽観ムードからリスクプレミアムが縮小、それがPER上昇をもたらしたと見ることができます。

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growrichslowly.net

この流れでいうと、なにかの出来事をきっかけに人々の楽観ムードが反転すると、リスクプレミアムが急上昇し、PERが大きく下落、株価も暴落ということがあり得ますね。株価水準というのがいかに人々のムードに依存するかがよくわかります。

 

書評は誤解3以降も続きます。