自分で積み立てる年金サービス、iDeCoへの参入が増えてきました。昨日は、KDDIがiDeCoサービスの提供を始め、銀行や証券会社だけでなく、通信キャリアも含めた盛り上がりです。40、50代は30%程度が加入していますが、20代の加入が4.6%とたいへん少ないのは気になりますが。
一方で、iDeCoの説明の中で、ちょっと気になる点があります。なぜiDeCoが重要かというロジックが、「これまでの年金制度では老後の生活がまかなえません。それをカバーするためにiDeCoが必要です」となっているのです。
確かに、平均寿命が伸びて、その分総額では老後に必要なお金はたくさん必要になります。これまでは、それを公的年金と、定年退職した際の退職金と、住宅ローンを返し終わった持ち家で、老後をカバーするというのが標準的なシナリオでした。
しかし、公的年金はどんどん支給開始年齢が遅くなり、現在は65歳。さらに、70歳とか75歳からの支給さえ検討されています。公的年金は、生きている限りもらい続けられるという制度ですから、実は寿命が伸びたからといって、受け取る人にとってはお金が足りなくなるということはないはずです。老後に向けたお金が必要なのは、公的年金の受給年齢がどんどん遅くなっていることが原因のひとつです。
受給年齢を遅くするのであれば、公的年金のあり方も含めて、国民の間でしっかりとした議論が必要でしょう。ところが、iDeCoの説明の仕方を見ると、「公的年金では老後の生活がまかなえない」のが、すでに前提になっています。その上で、だから自分で用意しましょうと。
iDeCo自体は悪くない制度だと思いますが、いつの間にか、年金についても「自己責任論」が刷り込まれつつあります。
「年金を減らします」という議論を先に始めたら、確かに大問題になるでしょう。制度を最初に作った際の不手際も指摘されるでしょうし、政権にも影響が出るかもしれません。ところが、「老後の生活は自己責任です。自分で積み立てるための制度もiDeCoというのを用意しました」というところから始めれば、「そうだよね、積み立てておかないのがいけないよね」と国民感情が穏やかに変わっていくわけです。ムードを作るのが、iDeCoという制度のひとつの狙いだよね、と邪推さえしてしまいます。
なかなかうまいですね。
そもそも年金が相互扶助の仕組みならば、掛け金に応じた受給額とか、所属する組織によって年金の仕組みが違うとか(いわゆる2階建てとか3階建てとか)、そんな複雑な仕組みにして事務処理コストをかけるより、税金化して税金から一律で払えばいいはずです。
※複雑な年金の仕組み(スルガ銀行より)
自分の老後に向けて積み立てておくための仕組みならば、各自が勝手にやればいいものです。生きている限りずっと受給できる、いわゆるトンチン保険もいくつか出てきていますし。
何より、あまりに複雑な仕組みになっていて、いくら払ったらいくらもらえるのか、全くわからないところが最大の課題です。何が約束されていて、何が変更される可能性があるのかも分かりません。これでは、年金保険料を払いたくない気持ちもよく分かります。iDeCoのような制度のほうがまだいいですね。