インデックス投資有効論は多くの書籍やブログ、識者が語っています。各社を細かく分析して投資するかどうかを決める、いわゆるアクティブファンドよりも、歴史的にインデックスファンドのほうがリターンが高いというものです。ぼくがこれまで読んできた本の多くも、分析すればリターンが上がるというのは幻想だ、ということを過去のエビデンスとともに説いてきました。
でもこれは、オルタナティブ投資まで幅を広げると、インデックス有利とはいえないようです。ちょうど読んでいた『21世紀の資本』の中に、米国の私立大学の基金運用に関する成果が比較されていました。
その結果は驚くべきものでした。ハーバード大学やイェール大学の基金の運用成績は、S&P500のリターンを継続的に上回っており、インフレ補正後で年平均10%を超えるリターンとなっています。
注目すべきは、資産規模が大きくなるほどリターンも上昇していることです。下記は『21世紀の資本』からの引用ですが、明らかな相関関係があるのが分かります。
- 全大学(850校) 8.2%
- ハーバード、イェール、プリンストン 10.2%
- 10億ドル以上の基金(60校) 8.8%
- 5〜10億ドルの基金(66校) 7.8%
- 1〜5億ドルの基金(226校) 7.1%
- 1億ドル未満の基金(498校) 6.2%
- ※1980年〜2010年の年平均実質収益率(インフレ2.4%補正済み、管理費用および金融費用差し引き後)
資産規模としては、2010年台前半のタイミンングで、ハーバードは300億ドル(2018年では371億ドル)、イェールは200億ドル、プリンストン、スタンフォードは150億ドル超ということです。
ではなぜ、資産規模が大きくなるほどリターンが上昇しているのでしょうか? 『21世紀の資本』では、高額な専門金融アドバイザーの有無を理由の候補に挙げています。それぞれアドバイザー費用として、資産の0.1%程度を拠出していますが、0.1%といっても100億ドルを超える各大学では1000万ドル=10億円強となります。これだけの金額を費やすことで優秀なアドバイザーを獲得することがリターンの上昇につながっているのではないかということです。
しかし、このことだけでは、高額な信託報酬を取るアクティブファンドのリターンが、インデックスに負けているというエビデンスと相反します。過去のリターンを見ると、高額な報酬で優秀なファンドマネージャーを雇ったからといって、インデックスを継続的に超えることはないというのがエビデンスでした。
もう一つ、パフォーマンスが良い大学のポートフォリオを見ると、オルタナティブ投資=代替投資の比率が高いことが分かります。
さまざまな「代替投資」のポートフォリオの重要性を検討してみると、これらが基金規模5000万ユーロ未満の大学が持つポートフォリオの10%にすぎないことに気づく。5000万−1億ユーロの大学では25%、1億−5億ユーロの大学では35%、5億−10億ユーロの大学では45%、10億ユーロ超の大学では60%超に達する。
実際のハーバード大学基金の2018年のアセットアロケーションは下記のようになります。公開株と債権は合わせても39%。未公開株=プライベート・エクイティや、ヘッジファンドに多くが投資されています。結果、年間のリターンは10%でした。
もっとも、2018年だけでみればこの運用は成功とは言い難いでしょう。誰でも投資できる公開株のリターンが14%に達したのに対し、ヘッジファンドは6%しかリターンを上げられていません。不動産も9%です。ただし、未公開株は21%と高いリターンを挙げています。
ヘッジファンドや未公開株が必ずしも高リターンとは限りません。しかし、これまでの実績と、高リターンを出してきた基金ほどオルタナティブ投資比率が高いことを考えると、高リターンの源泉は未公開株やヘッジファンドの可能性が高いと考えられます。また、伝統的な株や債券とは異なる値動きをすることは確かなようなので、ポートフォリオ理論によれば、これらを組み入れることでポートフォリオ全体のリスクは減少し、リターンは上昇する可能性が高いでしょう。
少なくとも、富裕層だからこそ組み入れることのできるアセットクラスというのは存在するようです。