久しぶりに衝撃的な本に出会いました。何度か書いたように、ぼくの投資スタイルはモダンポートフォリオ理論に従って、効率的市場仮説がある程度成り立っていることを前提に、インデックス投資と分散投資によって、世界の経済成長に伴った投資リターンを得ていくというものです。
ところが、市場は実際には効率的ではなく、さまざまなアノマリー(歪み)が存在しています。このアノマリーをうまく使うことで、市場平均(β)を超えたアルファ(α)を得ることができます。
ではどんなアノマリーがあるかというと、その最大のものが「モメンタム」なのです。
※『ウォール街のランダム・ウォーカー』をもじった邦題ですが原著は『Dual Momentum Investing: An Innovative Strategy for Higher Returns with Lower Risk』となっており、「デュアルモメンタム投資:ハイリターン・ローリスクの投資戦略」という意味合いです
- モメンタムとはなにか?
- モメンタムはなぜ機能するのか?
- モメンタム投資の実際の手法:絶対モメンタム
- モメンタム投資の実際の手法:相対モメンタム
- 本書のお勧め手法:絶対モメンタム
- 本書のお勧め手法:グローバル・エクイティ・モメンタム(GEM)
- モメンタムは今後も続くのか?
- 今後、ぼく自身はどうするか?
モメンタムとはなにか?
『ウォール街のモメンタムウォーカー』によると、モメンタムとは、下記のことを指します。
投資においてパフォーマンスが継続することを言う。パフォーマンスの良い投資は良いパフォーマンスが続き、パフォーマンスの悪い投資は悪いパフォーマンスが続く。
要は、上がっている株はもっと上がる、下がっている株はもっと下がる、こういうことです。効率的市場仮説の創始者であるユージーン・ファーマとケネス・フレンチも、「モメンタムはトップレベルのアノマリー」だとしています。
モメンタムは、米国株、外国株、業種グループ、株価指数、世界の国債、社債、コモディティ、通貨、住宅不動産といったあらゆる市場で、アノマリーとして機能しているといいます。さらに、そのほかにも小型株、割安株などのアノマリーが有名ですが、それらは発見後、徐々に効果が薄れていきました。一方で、モメンタムだけは今でも有効なアノマリーとなっています。
モメンタムはなぜ機能するのか?
過去の歴史というエビデンスでは、モメンタムというアノマリーが存在しているのは確実のようです。では、なぜこんなアノマリーが生まれるのでしょう? 『ウォール街のモメンタムウォーカー』ではいくつかの仮説を紹介しています。
モメンタムの大きな利益は大きなリスクをとったことに対する見返り、というものだ。(略)しかし、サイズやバリューといった普通のリスクファクターではモメンタムの説明がつかないため、まだ発見されていない新しいリスクファクターを見つける必要がある。
つまり、大きなリスクを取れば大きなリターンがあるというのは効率的市場の考え方の通りですが、ではモメンタムのリスクとはなにか? というとそれが見つかっていないということです。
リターンに相当するリスクがないのだとすると、人間の非合理性からこのアノマリーが生まれているのかもしれません。
投資家がシステマティックかつ予想可能な方法で、予想外で非合理的な振る舞いをするからというものだ。
行動経済学でいわれる、「アンカリング」「確証バイアス」「代表性」「自信過剰」「情報の遅い拡散」などによって、非合理的な行動を投資家がとることが原因だということです。
トレーダーは価格が上昇すれば書い、下落すれば売る。これによって価格の過剰反応が起こり、その結果モメンタムの利益が得られるというわけだ。(略)下落トレンドで売り、上昇トレンドで買う損切り注文といった過去の価格を使ったリスクマネジメント手法を明らかにした。これは価格にトレンドがあることを裏付けるものだ。
なるほど。トレーディングをしている人の間では、「損切り」はたいへん重要なリスク管理手法だと言われています。ところが、この損切りとは、過去の価格に比べて◯%下落したら売る、というような方法を指します。過去の価格を参照点にしていて、かつ下落によって売り注文を出すわけですからさらに下げ圧力がかかります。これによって価格にトレンド、つまりモメンタムが生まれるということです。
さらに別の仮説もあります。情報の遅い拡散です。
価格の動きがのろいのは、ニュースの拡散がゆっくり進むためというよりも、投資家が無関心であるためと主張する。レラティブストレングス・モメンタムが6カ月から12カ月にわたって最もうまく機能するのは、アナリストがニュースからの情報を更新するのにそれだけの時間がかかるためであると言う。
モメンタム投資の実際の手法:絶対モメンタム
エビデンスにおいても原因に対する仮説でも、モメンタムというアノマリーが存在しそうです。では、実際にはどのようにモメンタム投資はなりたつのでしょうか? 『ウォール街のモメンタムウォーカー』では、いくつかの手法を紹介しています。
ひとつは「絶対モメンタム」というものです。これは、ある投資先の過去と現在を比較して、未来の価格を予想するというものです。つまり、過去上昇しているなら、未来も上昇するというシンプルな考え方です。
過去データの分析によると、ここでいう「過去」とは12ヶ月間が最も機能することが分かりました。つまり、過去12ヶ月間上昇していたら、今後も上昇する可能性が高いということです。
モメンタム投資の実際の手法:相対モメンタム
もう一つの方法が「相対モメンタム」です。これは古典的でかつ普通の投資家が普通に考える手法で、要は「ほかより伸びている銘柄を買って、ほかより下がっている銘柄を売る」というものです。相対的に勢いのあるものを買う、という手法ですね。
著者は、バックテストの結果、相対モメンタムよりも絶対モメンタムのほうがリターンが大きいとしています。
本書のお勧め手法:絶対モメンタム
こうした中で、絶対モメンタムを使った投資法を提唱しています。順を追って手順を見ていきましょう。
- 過去12カ月、S&P500が正の超過リターンを示せば、S&P500インデックスに投資し続ける
- 過去12カ月、S&P500が負の超過リターンになったら、S&P500インデックスを売り、バークレイズ・US・アグリゲート・ボンド・インデックスに投資する
これだけです。過去のデータでは、30%の時間はS&P500ではなくアグリゲート・ボンドという要は債券のインデックスに投資していることになります。
なるほど、S&P500が不調なタイミングを見事に債券がカバーして、全体としてはS&P500を上回るリターンを出していることが分かります。
本書のお勧め手法:グローバル・エクイティ・モメンタム(GEM)
さらに、ここに相対モメンタムも加えたのが、グローバル・エクイティ・モメンタム(GEM)です。これはS&P500のほかにMSCI ACWIを使います。SCWIは、オール・カントリー・ワールド・インデックスの略で、先進国および新興市場の株式に投資するインデックスです。ACWIも50%は米国株(=S&P500)へ投資しています。
- 過去12ヶ月の、S&P500とACWI、Tビル(米国短期国債)の超過リターンを比べます
- 最もパフォーマンスが高かったものに全額投資します。Tビルの場合はアグリゲート・ボンドに投資します
- このプロセスを毎月繰り返します
バックテストでのGEMのパフォーマンスは目をみはるものがあります。ACWIや絶対モメンタム、相対モメンタム(ACWI非米国株とS&P500を比較してパフォーマンスが高い方に投資する手法)よりも、GEMリスクが小さくリターンが大きいことが分かります。
こんなシンプルでいいのか? という感じですが、別の言い方をすれば、市場の調子がいいときは株に投資して、調子が悪くなったら債券に移りましょう、といっているのと同じです。調子が悪くなったかどうかは過去12カ月のリターンで判断するというやり方です。
モメンタムは今後も続くのか?
過去のデータでは、素晴らしい成績を収めたモメンタム投資ですが、今後もこれが続くのかは疑問が残ります。ただし、下記の説明にぼくは納得感がありました。
もちろん、どんなアノマリーでも多くの人がそれを発見すれば収益性は減少する。しかし、モメンタムの背景にある行動バイアスは根強く、人間の本質というものはそんなに簡単に変わるものではない。
また人間には慣性力というものがあり、無知も延年と続くため、大部分の人が突然目覚め、熱心なモメンタム投資家になるとも思えない。
それにしても、このモメンタムというアノマリーは、これまでのぼくのスタイルとはかけ離れています。だって、これは「チャートを見れば将来の価格が分かる」というチャーティストのロジックなのですから。
ただし、本多静六の「価格が2倍に上昇したら半分を利喰え」というアドバイスも、「損切が重要」という教えも、どちらも過去の価格をアンカーとして判断しろといっているわけです。これも広くみるとチャーティストですね。
タイミング投資はうまくいかない、ということが多くの金融理論でいわれてきました。一方で、投資の格言はタイミングと過去の価格に依拠した話が多く、さらにモメンタムにはアノマリーが存在するという多くのエビデンスがあります。
今後、ぼく自身はどうするか?
『ウォール街のモメンタムウォーカー』を読んで、コアのインデックス投資から、モメンタムを見て株と債券を切り替えるスタイルに全面移行できるかというと、まだぼくにはその覚悟はありません。ところが、著者はそんな人が多いこともお見通しのようです。
私がデュアルモメンタムを説明した人の中には、デュアルモメンタムを「最大のアノマリー」とは考えず、コア投資戦略というよりニッチとして捉える人もいる。(略)
(これは)新しいものに対してはアンカリングや保守性バイアスといった行動バイアスが働くのが普通だからだ。投資家は学習速度が遅く、よく知らないものよりもよく知っているものを好む傾向がある。それに懐疑主義もある。
ちなみにS&P500は過去12ヶ月のリターンがマイナスになっています。2018年の12月半ばに、過去12ヶ月のリターンがマイナスに突入しました。モメンタムウォーカーのロジックに従うなら、ここからさらに下落するはずで、すべてのS&P500を売り払って、債券に移行すべきということになります。
これはたまたまでしょうが12月の大きな落ち込みから1月は大きく戻しました。それでも現時点での過去12ヶ月のパフォーマンスは-5.8%です。このタイミングでモメンタム派に乗り換えて、一気に債券中心のポートフォリオに移行するのも選択肢のひとつですが、さて。