自分の過去の投資履歴を振り返って、パフォーマンスを見ようとしてみたのですが、どうやらリターンにはいくつかの種類があるようです。例えば、毎年下記のようなリターン(利益/総資産)だったとしましょう。
- +10%
- -5%
- +15%
- +5%
- -20%
算術平均は使わない
これら毎年のリターンを、全部足しあわせて年数の5で割ったものを「算術平均」(相加平均)と言います。(10-5+15+5-20)/5 →1%となります。ただし、投資のリターンを考えるときは、このような算術平均は使いません*1。
例えば、元金が100万円だったとすると、毎年1%で増加するなら、105.1万円になっているはずですが、実際には、
- +10% 110万円
- -5% 104.5万円
- +15% 120.175万円
- +5% 126.18万円
- -20% 100.94万円
となってしまい、105.1万円にはならないからです。これは、毎年のリターンが変動する、つまりリスクがあるからです。
幾何平均を使う
このようなとき、「幾何平均」(相乗平均)というものを使います。これは、毎年のリターンをかけ合わせて、そのn乗根を取るというものです。今回でいえば、(1.1 x -1.05 x 1.15 x 1.05 x -1.2)^ (1/5) となります。計算すると約0.18%です*2。これが年平均リターンになります。
100万円が毎年0.18%増えると、5年後にはちょうど100.94万円になっているのが分かります。計算が合いますね。
一般に、算術平均 > 幾何平均 となり、リターンの上下のばらつき(リスク)が大きいほど、差が広がります。これが、リターンが上下にばらつくときのリターンの計算の基本になります。
期間中にお金の出入りがある場合は?
ややこしくなってくるのはここからです。一定の元本をずっと運用し続けているなら話は簡単なのですが、積み立て投資をしていたり、たまに資金を取り崩して使っていたり、お金の出入りがある場合はリターンをどう評価したらいいのでしょうか?
現金の出入りを都度総資産から取り除いて、元本が投資によってどのくらいの比率だけ増えたのかをリターンとして考えるのが、「時間加重リターン」です。これは、投資ファンドなどのパフォーマンス評価に使われ、「トータルリターン(Total Return)」などと呼ばれるようです。
一方で、不動産投資などの場合、初期に一気に元本を投入しますが、その後、収益からキャッシュフローが生まれてきます。そして売却時には一気に大きなキャッシュフローが生まれます。このように、毎年リターンを評価することが難しく、複数年経ってから最終的なリターンが定まる場合は、時間加重リターンはふさわしくありません。
ここで使われるのが「金額加重リターン」です。別の言い方では、内部収益率(IRR)と言います。IRRを使うと、次の3点のメリットがあると言われています*3。
- 割引率の反映 早期のキャッシュフローが高く評価される
- キャッシュフローがばらついても計算できる
- プロジェクト期間の異なる投資を比較評価できる
このIRRは、事業などのプロジェクトの利益率を評価するときにも使うので、インベスターリターン(Investor Return)とも呼ばれます。
運用テクニック=Total Return、家計資産収益率はInvestor Return
運用テクニックはTotal Returnを、入出金がある家計資産の収益率を見るときはIRR(Investor Return)を使うのが適していると言われています。
確かに、過去の入出金や資産額の推移を見て、リターンを計算すると、Total ReturnとInvestor Returnで結果がけっこう違ってきます。この2つのリターンを直接比較することはできないので、資産運用の巧拙を語るならTotal Return同士で、金融資産全体がどのくらいのペースで伸ばせているかを見るときはInvestor Returnで見るのが正しいのでしょう。
ちなみに過去12年のリターンを計算してみたところ、ストックオプション(SO)込のTotal Returnは9%でしたが、SOを除くと7.6%に下がりました。Investor Returnはどうかというと、SO込で11.3%という結果になりました。
インベスターリターンからトータルリターンを引いた差を「インベスターギャップ」として定義し、その数値を見てみよう。インベスターギャップの値が大きいということは、一般的に投資家がトータルリターンとして目にするファンドの“実力”よりも、実態として投資家は儲かっていることを意味する。つまり、高値掴みではなく、いいタイミングで購入している投資家が多いということになる
モーニングスター [ アナリストの視点(ファンド) 投資家の本当の“儲け”が分かる「インベスターリターン」とは? 2014-11-13]
Total ReturnよりInvestor Returnのほうが大きい場合、「インベスターギャップ」が大きいということで、「実態として投資家が儲かっている」そうです。
これは、入金がたくさんあって資産規模が大きくなっている時にTotal Returnが大きいと、ファンド全体の儲け額も大きくなり、逆に資産規模が小さいときはTotal Returnが小さくてもファンド全体の儲け額にあまり影響しないということを指しています。
上記はひふみプラスのトータルリターンとインベスターリターンのグラフをモーニングスターで表示したものです。ファンドの場合、パフォーマンスとは別に投資家からの入出金があるので、その増減がインベスターリターンに影響します。このように、トータルリターンがプラスなのに、インベスターリターンがマイナスということもあるわけです。
これが、金融資産全体ではInvestor Returnで見たほうがいい理由ですね。ファンドを家計金融資産全体と見立てた場合、積み立ては入金に、取り崩しは出金に当たるからです。
僕の場合、SO込のTotal Return 9%に対して、SO込のInvestor Returnは11.3%と大きいため、インベスターギャップがかなり大きい形になります。つまり、いいタイミングで積み立てて、それをうまく運用できたということになりそうです。