投資でセミリタイアする九条日記

セミリタイアを実現したサラリーマン。ETF投資を中心に、太陽光投資や不動産投資、オプション、VIX、FX、CFDまで使って資産運用をしています。

書評:『エンダウメント投資戦略』ガンマロングを目指す

『エンダウメント投資戦略』を読みました。エンダウメントとは、米国の大学財団を指します。特に、イェール大学、ハーバード大学ですね。以前に記事で書いたとおり、インデックスを大きく上回るパフォーマンスを上げているのが、このエンダウメントです。

kuzyo.hatenablog.com

 本書では、このエンダウメントがどのような戦略で投資をし、どうやってインデックスを上回るパフォーマンスを上げているのかを解説しています。 

エンダウメント投資戦略

エンダウメント投資戦略

 

 

 エンダウメントと個人投資の共通点

まず、年金基金GPIFのような機関投資家とエンダウメントの大きな違いが書かれています。GPIFなどが人から預かったお金を運用しているのに対し、エンダウメントの原資は寄付金であり、返却の必要がないというのが最大の違いです。

 

そのため、年金のように支払い義務がなく、本当の意味で長期で投資が可能です。そして著者は、これは個人の投資と同じだとしています。つい先日も、GPIFが四半期で14兆円の運用損(ドローダウン)に見舞われたという記事が世を騒がせていました。

www.nikkei.com

 株式を組み入れている以上、長期では上昇するが短期的には大きな下落の可能性があります。にもかかわらず、こうして記事になるように、世間一般の認識では「14兆も損失だ、たいへんだ」となるわけです。たいがいの記事では「債券運用は黒字だった」と書いており、それは当たり前だろうとぼくは思うわけですが、赤字になるような株式運用ではなく黒字が確定している債券で運用するほうがいいよね、と読む人をミスリードしていろとも感じます。

 

エンダウメントはこうした報道に悩まされることなく、想定されるリスクをたんたんと取り、一時的なドローダウンに見舞われてもアセットアロケーションを守ることでしっかり回復を果たしています。

f:id:kuzyo:20190211172225j:plain

エンダウメント アセットアロケーションの秘密

それにしても、エンダウメントのパフォーマンスは圧倒的です。イェール大学でいえば、1994年からの20年間の年平均リターンはなんと13.9%。ハーバードも10%を超えるリターンです。これは当然S&P500のリターンを大きく上回ります。

f:id:kuzyo:20190211172544j:plain

一体なにがこのパフォーマンスの差を生み出しているのか。

リターンの良し悪しを決定する最大のかぎは資産配分であると結論づけられています。リターンの80%は資産配分で決まる、というのです。それだけ重要な作業だということになります。

資産配分とはアセットアロケーションです。インデックスに対してこれだけ大きなリターンの違いを生み出しているのは、アセットアロケーションが大きく異なる点にあります。

 

ではそのアセットアロケーションはどうなっているのでしょうか? 実に面白いことに、オルタナティブ投資に資産の50%以上を割り当てているのです。

f:id:kuzyo:20190211133521j:plain

このオルタナティブとは英語で「代替」の意味です。伝統的な株式や債券の代替となる投資先という意味です。

オルタナティブ投資とは

たとえばプライベート・エクイティです。いわゆる未公開株ですね。これは大きなリターンを生む可能性がありますが、最大の課題はリターンを得るために長い時間がかかることです。そして流動性も極めて低いので、途中で売却することが難しくなっています。同様に、不動産やインフラ(空港・港湾や高速道路などの社会資本)など実物資産への投資も、流動性が低く、リターンを得るのに時間がかかります。これらがオルタナティブ資産です。

 

そしてもう一つのオルタナティブが、ヘッジファンドです。こちらはオルタナティブ戦略と呼ばれます。ヘッジファンドが運用している資産は、実は株や債券、またそのデリバティブで、実は流動性の高いペーパーアセットです。ただし、アクティブ運用がインデックスに対してプラスのリターンを得ることを目標にしているのに対し、ヘッジファンドは「絶対収益」重視です。市況が良くても悪くても大きなリターンを目指すというものです。

 

絶対収益と聞くと、ものすごいリターンのように思えますが、実際には株式の上昇相場ではS&P500にリターンで負けることもあります。下記は、世界最大のヘッジファンド、レイ・ダリオのBridgewaterのPure Alphaファンドのパフォーマンスです。

f:id:kuzyo:20190211181425p:plain

Bridgewater – Star Magnolia Capital Outlook

 S&P500と比べたときに際立つのは、株価下落相場でも安定して資産規模が増加していることです。逆に上昇相場ではS&P500にアンダーパフォームしています。これが「絶対収益」の意味です。

オルタナティブを組み込んだ場合のリスクとリターン

ヘッジファンドは普通は投資できない特殊な投資先と見られがちですが、いくつかは国内の証券会社でも投資信託として購入が可能になっています。とはいえ、国内にまともなヘッジファンドはほぼなく、海外のヘッジファンドを輸入しているのが現状です。そして輸入の際に、複数社が入ることで手数料が取られ、リターンは大きく下がります。

 

著者自身がヘッジファンドの運営者ということもあり、ヘッジファンドを過大に評価して書いている嫌いはあります。

 

ただし、ヘッジファンドのようなオルタナティブ運用を組み込むことにメリットはあります。それは、昨今株式と債券が連動して動くようになってきているためです。現代金融理論では、相互に相関しない複数資産を組み込んだポートフォリオを作ることで、リスクを低下させてリターンが上がるとされています。それは、各資産が逆の動きをするため、合成するとリスクが減少するためです。ところが、過去、逆の動きをするとされていた株式と債券が連動して動くようになると、リスクを低下させる仕組みがうまく働かなくなるのです。

 

ここに絶対収益を目指すヘッジファンドを組み入れると、株式と値動きが連動しないので、リスクが抑えられるというわけです。

 

伝統的な、株式7:債券3、または株式3:債券7のポートフォリオと、REITを10%、オルタナティブ戦略30%を組み込んだ、「エンダウメント型」のポートフォリオを比べたのが次の表です。

f:id:kuzyo:20190211133749j:plain

オルタナティブ戦略(=ヘッジファンド)を組み込んだエンダウメント型は、想定リターンが極端に大きいわけではありません。注目すべきは、リスクが株式中心型に対して低いこと、そのためリスクあたりのリターン(シャープレシオ)が高いことです。また、下方リスクだけを取り出してリターンとの比を取ったソルティノレシオも良好です。

 

これがヘッジファンドを組み込むことのメリットになります。

オプションの効果

著者の運営するヘッジファンドでは、オプションの考え方を投資に組み込んでいます。ここはおそらく意図的にざっくり書かれていますが、なかなかおもしろい内容です。

私の考える理想的な投資は、12ヶ月を1勝11分け、その1勝で大勝するというものだと申し上げました。

・市場が上下大きく変動するときに、大きな収益を上げることができるオプション買いの特性をもつ(ポジティブ・コンベキシティ=ガンマ・ロング)

・オプション買いの保険料支払いに相当するコストがかからず、平穏な市場でもむしろ多少のプラスが期待できる(ポジティブ・キャリー)

このポジティブ・コンベキシティは、要はオプション買いです。オプションの買いは、最初に保険料に相当するコストがかかりますが、市場が上下に大きく動くと青天井のリターンをもたらします。著者のファンドでは、このオプション料支払いを削減するために、さまざまな資産を組み合わせることでガンマ・ロングに相当するポジションを作り出すそうです。

 

ガンマ・ロングとはオプションの用語の1つで、簡単にいうと資産価格が大きく動いたときに利益が出るポジションのことです。オプションの用語ですが、複数の資産を組み合わせることでガンマ・ロングに相当するポジションを作ることができます。

kuzyo.hatenablog.com

 退屈な運用方針を守り抜く

 ヘッジファンドというと、独特な運用方針なのかと思いきや意外や意外、一般的な投資理論に近い方針を語っています。

 

1 (債券ではなく)株式を中心に据えて長期投資する

2 分散を図る

3 節税につとめる

4 休まない

しかしながら、この原則は、一般にはなかなか守られていないように思います。巷にあふれる投資関連の情報の多くは、

・いかに底値で買って、高値で売り抜けるか

・今後の相場は上か下か

・次の目玉となる銘柄は何か

といった刺激的な話題に溢れていますが、長期的に、着実に資産形成を図っていくには、一見退屈な運用方針を守り抜く姿勢のほうがはるかに重要なのです。

 この退屈な運用方針を守り抜くというのは、実はたいへんなことです。個人投資家ならば、ついギャンブル的な取引をしたくなってしまうからです。そして特に「休まない」というのは深い意味合いを持っています。

 

「いまは高値圏だから、暴落してから投資しよう」。ついこんなふうに考えがちですが、これは「タイミングを読む」という投資行為であって、「今後の相場は下落だ」という判断に基づいて投資をやっているからです。

 

実際は、現在が高いか安いかという判断を挟まず、「休まずに」投資を継続することが大事だということです。これはなかなかできないんですけど。

まとめ

著者の主張は、

  • うまくオルタナティブ資産を組み込むことでリスクを下げる
  • ガンマロングのポジションを心がける
  • 退屈な運用方針を守り抜く

という感じです。個人が投資できるオルタナティブは、REITか金くらいしか現実的ではありませんが、株と債券価格の相関性が高まっているいま、他の資産を検討するのは大事でしょう。

 

ガンマロングのポジションは、普通の個人投資家には難しいですね。あえていえば「オプション売り」のポジションはガンマショートになるので取らない、ということでしょうか。日経225のオプションは比較的流動性があるので、保険としてプットを買うなどはありかもしれません。

 

エンダウメント投資戦略

エンダウメント投資戦略