僕は現状ETFを中心に資産運用しているのですが、今後の投資商品を見直すにあたり、ETFでいくのか投資信託にするのかは大きな問題です。かつての投資信託は、いくつかの問題を抱えていました。
- 購入時手数料が高い
- 信託報酬が高い
- 投資先(地域やセクター)が限られる
ところが、金融庁の指導もあってか、これらの問題は次第にクリアされ、購入手数料は無料の「ノーロード」が登場。モーニングスターで検索すると、5025件中540件がノーロードです*1。
信託報酬も、かつてはETFが絶対的に安かったのですが、投資信託でもコスト低下が進み、年間0.1%台がゴロゴロあるようになりました。中には、「eMAXIS Slimシリーズ」のように、他社の状況を見ながら信託報酬低下に追随することをうたっているものもあり、信託報酬の違いからETFを選ぶ理由もなくなってきました。
投資先が限られるという点は、実は意外な盲点です。何千本とある投資信託なのに、投資対象は国内が中心で、海外への投資だと急に数が減ります。例えば、ノーロード、信託報酬が1%以下、北米株式への投資という条件でモーニングスターで調べると、なんと下記の3種類しかありません。
- 楽天・米国高配当株式インデックス・ファンド (信託報酬0.21%)
- 楽天・全米株式インデックス・ファンド(信託報酬0.17%)
- eMAXIS Slim米国株式(S&P500) (信託報酬0.17%)
海外のさまざまな株式に投資するには、国内の投資信託では選択肢が少ないように思います。
投資信託のもう1つのメリット 無分配
実は投資信託にはもう1つのメリットがあります。投資先からの配当を、ファンド受益者に分配金として出さずに、内部で再投資に回す投資信託が増えてきていることです。
なぜ分配金を出さないほうがいいかというと、それは税金です。分配金には20.315%の税金がかかってしまいますが、投資信託で内部的に再投資に回した場合この税金がかからないのです。
もちろんこの税金を払わないで済むわけではなく、将来売却した際に払うのでいわゆる課税の先送りなのですが、そのあいだ税金分も運用でき複利の力を活かすことができます。
この無分配による税メリットをどのように評価するか、試算しようとしたのですがけっこう複雑でしたので、数式ベースで計算されていた下記のサイトを紹介します。
こちらでは税の先送りメリットを判断する場合の数式も出してくれています。r は想定リターン、c は経費率、rd は分配利回り、t は税率として、
それぞれのファンドで (1+r−c−rd×t)を計算し、0.3%以上無分配投資信託の数値が大きければ無分配投資信託が有利、そうでなければETFが有利。
となっています。この場合の(1+r−c−rd×t)は1年あたりの資産増加率です。
このように、税の先送りの効果はけっこうあって、配当を出さざるを得ないETFよりも、内部で再投資してくれる投資信託のほうが効率がよくなるわけです。
米国ETFの配当二重課税問題
この配当への税金問題は複雑で、米国ETFにはもう一つ税金にまつわるデメリットがあります。それは配当に対する二重課税問題です。外国税額控除の記事で書いたように、米国ETFからの配当には日本の源泉税(20.315%)と米国の源泉税(10%)の両方がかかります。
この米国税部分は二重課税なので、確定申告の外国税額控除によって取り返せるのですが、大きく次の2つの問題があります。
- 自分の実行所得税率が10%を超えないと、全額は取り返せない
- NISA口座では、取り返せない
所得税単体での実行所得税10%超えはけっこうな収入がないと実は難しく、外国税額控除で全額を取り返せる人は一部でしょう。米国ETFには、こうした二重の税金に関する課題があるわけです。
投資信託ならば問題は解消?
ではこうした二重課税問題は投資信託ならば起こらないかといえば、それは逆です。大和総研は2017年末のレポートで「外国税額控除の改正で投信のリターンが改善する」として、投信でも外国税額控除が使えるようになることを書いています。
個人投資家が(投資信託を経由せずに)直接外国株式の配当を受け取る場合は、源泉徴収の段階では二重課税となるが、確定申告の際に外国税額控除を受けて二重課税の調整を受けることができる。しかし、投資信託から支払われる分配金については、そのうちいくらが外国税額であるのか不明なため、現状、確定申告においても外国税額控除を受けることはできない。
https://www.dir.co.jp/report/research/law-research/tax/20171229_012629.pdf
つまり、ETFでも投資信託でも外国税の二重課税は発生しているが、ETFの場合は確定申告で取り戻すことができ、投資信託では取り返す方法がまったくないということです。実は投資信託のほうが問題の根は深いのでした。
ただし、税制の変更でこちらも多少は緩和されるようです。
大綱では、2020(平成 32)年 1 月 1 日以後に支払われる配当等から、投資信託が分配金を支払う際に(支払の取扱者である証券会社等が)、分配金にかかる所得税額からその投資信託が外国で納めた外国税額を差し引くしくみを導入するとした。
1年後の2020年からは外国税額が差し引かれるように変わるようです。
ETFの最大の魅力は透明性
このように見ていくと、投資信託というのがいかに不透明な仕組みなのかが分かります。例えば、多くの投資信託はベンチマークと自身の基準価格の推移を表したグラフを表示しています。
こちらは低コストで魅力のあるeMAXIS Slim 国内株式(TOPIX)の月次レポート掲載のチャートです。ベンチマークは当然TOPIXで、基準価格は「信託報酬控除後」と記載されています。信託報酬を払ってもベンチマークを超えていて、これはいい! と思いがちですが、実は分配金実績はゼロです。つまり基準価格は配当が組み入れられたものになっています。
当然TOPIX指数には配当金は入っていません。ということは、配当金があるので、基準価格がベンチマークを上回って当然ともいえます。注意書きとしても、「ファンドとベンチマークの騰落率の差異には、配当金要因が含まれている点にご留意ください」とあります。
しかし、どの部分が信託報酬によるマイナス部分で、どの部分が配当によるプラス部分で、買い付け手法などによるトラッキング・エラーがどのくらいなのかは不透明なままだともいえます。
米国ETFでは、投資先から得た配当金は、そのまま分配金として出す形になっているので、税制面では不利ですが、ETF価格とベンチマーク指数とを直接比較することができます。ある意味、たいへん透明性のある内容です。
ETFはスプレッドに注意
さらにETFと投資信託を比べてみましょう。投資信託は、売るときの値段が分からないという問題があります。ブラインド方式と呼ばれ、解約を申し込んだあとに計算される基準価格で売却されます。自分の好きな値段で売れない、いくらで売れるのか分からないという問題はあります。これも投資信託が不透明な部分です。
ETFはどうでしょう 株と同じように指値も可能ですし、板を見ることができるのでいくらで売れるのか確認できます。ところが、流動性の小ささによるスプレッドの大きさという大きな問題があります。
これは東証がまさに「流動性コスト」として説明しています。下記のように、流動性の少ない銘柄だと、売り注文と買い注文の値段が大きく開いてしまい、それが売買コストとなってしまうわけです。
ETFが買いやすくなる「マーケットメイク」とは? | 東証マネ部!
東証はこの問題を解決するために、「マーケットメイク制度」を2018年7月に導入しました。売買注文を増やして流動性を提供してくれるマーケットメイカーを、東証自身がコストを払うことで呼び込むというものです。
逆にいえばそれだけ東証のETFは流動性が低いということです。つまり見えない売買コストがあります。下記は、2019年1月に各ETFで取引が行われた日数をグラフにしたものです。
1月の営業日数は19日だったので6割方のETFが毎日取引されていましたが、なんと全体の3〜4割程度の銘柄は、取引が成立しなかった日があることが分かります。トップの「キンゾクETF」では、1月の取引成立日数(値付日数)はわずか1日、売買高は2口でした。
今度は売買高ですが、ごく一部のETFが圧倒的な売買高だということが分かります。トップは「日経ダブルインバース(1357)」で2位以下は「日経レバETF(1570)」、「ガスETF(1689)」「TOPIX投(1306)」「ダブルインバース日経(1360)」と続きます。長期投資用というより、完全にハイリスクなトレーダー向け銘柄ですね。
現時点での結論
いくつか調べた結果として、次のような結論に至りました。
- 配当の再投資のとき、税金部分の複利効果が得られる投資信託は有利
- 外国税額控除の問題が解決されると、さらに投資信託が有利
- 信託報酬もETFと投資信託で大差がなくなってきた
- ただし、内容の透明性でETF有利
- 内容が同様なら、投資信託を購入
- ただし、投資信託で買えない内容は引き続きETFで
*1:というか、ノーロードが10%くらいしかないことに驚きました