FIRE: 投資でセミリタイアする九条日記

九条です。資産からの不労所得で経済的独立を手に入れ、自由な生き方を実現するセミリタイア、FIREを実現しました。米国株、優待クロス、クリプト、太陽光、オプションなどなどを行うインデックス投資家で、リバタリアン。ロジックとエビデンスを大事に、確率と不確実性を愛しています。

年金は破綻するのか? 『人生100年時代の年金戦略』その2

たびたび週刊誌などが「年金破綻」について書きますね。それはどこまでリアルなのかも『人生100年時代の年金戦略』では書いています。前回に続き、本書の内容を読み解いていこうと思います。

人生100年時代の年金戦略

人生100年時代の年金戦略

 

 

 気になるポイント1 財源

まずは財源です。年金の財源は、税金+仕送り方式の保険料+積立金という組み合わせです。過去の保険料の余りが積立金として運用されています。いわゆるGPIFによる運用です。GPIFは2006年からの組織なんですね。

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幸いなことに、積み立てたお金を受け取る方式ではなく、世代間の仕送り方式のため、積立金が底をついたとしても保険料は入ってきます。国が強制的に保険料を召し上げるために成り立っていることが分かります。この状況を見ると、まあなんとかなるという感じです。

 

厚生労働省では、積立金を100年かけて使っていくという想定を立てており、本当にそうなるかどうかは別として、かなりもたせる計画です。逆にいうと、積立金がゼロにならないように、保険料を上げたり、給付額を減らしたり、給付開始年齢を上げたりするのですね。

 

財源に余裕はないが、年金の改悪を行って破綻はしないようにする。またそれで破綻は免れることが可能、というのが実態のようです。

気になるポイント2 未納者はどのくらいいる? 

世間でよく言われるのが、「年金を払っていない人がたくさんいるから破綻する」というものです。ただしこれは誤解であることが本書でも説明されています。国民年金は、直接払っている人(第1号)と、厚生年金を払いそこから国民年金相当分を払う人(第2号)、そしてそもそも払わない専業主婦(第3号)があります。

 

このうち、未納者というのは第1号のうちの一部なのです。全体からすると2.3%でしかありません。

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さらに、「免除・猶予」者の場合、支払いも免除ですが受取額もそれに応じて減ります。「未納」の人の場合、本来税金から支払われるべき額ももらえなくなるので、支払いが大きく減ります。

 

そういう意味では、未納の人たちを払っている人が支えているわけではありません。

 

ただ、本書には言及がありませんが、仕送り方式だということには影響があると思います。自分で払った分を自分でもらうならたしかに問題はないのですが、世代間仕送り方式の仕組みでは、未納者が増えると現在年金を受け取っている受給者に影響がでざるを得ないでしょう。

気になるポイント3 積み立て金はどこまで減る?

さて使うと減ってしまう積立金は、どのくらいのペースで減る可能性があるのか? です。

 

政府は、経済成長率(GDP)と、物価上昇率、名目賃金上昇率の3つのパラメータを元に、ケースA〜Hを出して計算しているようです。Aが最良ケース、Hが最悪ケースですね。

 

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この中で、ケースE、G、Hについて、国民年金と厚生年金の両方について積立金の推移見通しが試算されています。

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年金積立金の見通し | いっしょに検証! 公的年金 | 厚生労働省

GDPマイナス成長が続くという最悪シナリオの場合は2055年には国民年金の積立金が底をつきます。逆にいうと、それ意外のケースではまぁなんとかなるという計算です。 

気になるポイント4 もらえる年金はどのくらい減るのか?

 では改悪は免れないとして、もらえる年金はどのくらい減るのか? です。まず前提として、「金額がこのくらい減る」という議論はされていないことに注意です。というのは、年金はインフレを加味して、物価上昇が起きると増額されるように設計されているからです。

 

そのため、出てくるのは「所得代替率」という言葉です。これは現役世代の所得の何%を年金として支払うかという率になります。50%なら、現役世代の半分の額が支払われることになります。

 

その所得代替率は、各ケースによって違いますが、39〜51%です。ちなみに2014年は63%でした。これが39〜51%まで減少するということです。

2~3割の減少というのは、あくまで所得代替率の話なのですが、世の中一般には年金額そのものの減少と受け取られているのです

 著者はこう書いています。試算ケースでは、名目賃金が年率1.9%で伸びていく前提なので収入が増加します。そのうちの39〜51%なので、必ずしも金額額面が減るわけではないと言っています。

 

ただちょっと本書の議論の進め方に疑念も持ちます。名目である額面がどう変化するかは本質的には意味のないものです。物価水準と比べて年金額がどうかが、生活するためには重要だからです。ここで名目賃金に対する比率が出てくる理由が、本書を読んだだけでは分かりませんでした。

 

そもそも、物価水準の上昇よりも名目賃金のほうが上昇するというのは普通なのでしょうか? はい。確かにそれは普通でした。物価の上昇率より賃金上昇率のほうが高いから、生活は楽に、豊かになっていくんですね。普通は。

 

ところが、政府官邸の資料からもってきたのが下記の図です。各国がその「普通」の状態なのに対し、日本は2000年以降、物価も下落(いわゆるデフレ)ですが、それ以上に名目賃金が下落しているのです。これは生活がどんどん苦しくなるはずです。厚労省のケースでは最低でも1.3%の名目賃金の伸びがあると仮定されていますが、伸びるどころか減ってきたのが日本の現状なわけです。

 

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https://www.kantei.go.jp/jp/singi/seirousi/dai2/siryo3.pdf

 気になるポイント5 マクロ経済スライドって?

本書には「年金を破綻させないための仕組みとして、マクロ経済スライドが重要」とたびたび出てきます。このあたりから、ちょっと???という思いが読んでいて出てきます。

 

このマクロ経済スライドとは何なのでしょう? 本書ではわざとなのかボカして書いているのですが、ざっくりいうと、現役世代が減ったり、平均寿命が伸びると年金財政が苦しいので、受給額を計算で減らす仕組みです。

 

これを本書では、つぎのように書いています。

毎年の受給額を自動的に調整する「マクロ経済スライド」という仕組みが、既に2004年に導入されていることです。既に指摘したようにデフレに弱い仕組みなので過去は十分に機能しませんでしたが、経済状況の好転で2019年度はフル適用が期待されています。

 文脈上、「年金は破綻するとみんな困る」→「調整する仕組み、マクロ経済スライドがあるので大丈夫」→「2019年度はフル適用が期待!」という流れです。わからなくはないのですが、ここには「これによって受給額が減るので、破綻しないよ」という説明されない重要な点が省かれているのです。

 

こちらの日経新聞(著者も日経新聞の記者ですが)の記事のほうが素直に分かりやすい説明です。物価が上昇すれば年金受給額も増えることになっているが、マクロ経済スライドの仕組みによって増加分が減りました、と書かれています。

www.nikkei.com

 

増加分が減るというと、仕方ないなんて思ってしまう人もいるかもしれません。いや、重要なのは名目の金額額面ではなく、物価に対する金額です。そうでないと、インフレが進むだけで年金は簡単に無意味なものになってしまうからです。

 

それを防ぐために、物価に連動して受給額を変動するように設計されているのに、物価が上がっても受給額は増やさないよ、というのがマクロ経済スライドです。名目額面が減るわけではないので、国民の拒否感は少ないでしょう。だからこそ導入できた、いわゆるインフレ税の1つじゃないかとも思います。

 

【『人生100年時代の年金戦略』書評の1本目です】 

www.kuzyofire.com

【書評の続き、第3回です】

www.kuzyofire.com