よく株価について「将来の価値を織り込んでいる」なんていいます。つまり、将来のキャッシュフローや純利益を見込んで、現在の株価が決まっているということですね。だから、現在が赤字の企業でも、将来の大きな黒字を織り込んで高株価がついたりするわけです。
でも将来の価値が織り込まれているのなら、どうしてその企業の株価は上昇するのでしょうか? 変化がないはずでは?
「将来の成長予測が当初より加速したから」。こんな理由もあるでしょう。でもちょっと待ってください。将来の業績計画が全く変わらなくても、徐々に株価は上昇するものなのです。その理由を、株価算出のやりかたの一つ、DCFから探ってみます。
DCFは将来のキャッシュフローを「割り引いて」足し合わせたもの
DCFとは、Discount Cash Flowの略で、企業の価値を算定するときに将来稼ぐであろうキャッシュフローを合計して計算する手法です。ポイントは「Discount」にあります。今年の1万円と来年の1万円の価値は違います。国債を買えば3%くらい利息が付きますし(期待利回り)、来年になってみたらもらえなくなっているかもしれません(リスク)。
こうした理由から、将来のキャッシュは「Discoumt」つまり「割り引いて」計算します。期待利回りはリスクフリーレート(国債利回り)にすることが多いですが、リスクのほうは事業によってまちまちです。
例えば、毎年100の利益を稼ぐ企業があったとします。キャッシュフローは毎年変わりませんが、割引率を6%と考えると、割引後のキャッシュフローは赤棒のようになります。
将来のキャッシュフローを20年分足し合わせると2000ですが、このように割り引いて足し合わせると1112に減るわけです。
ここに手持ちの現金や借入金を足したものを、企業価値とします。例えば、現金が100あったとしたら、DCF法でざっくり算出したこの企業の価値は1212ですね。
1年経ったらどうなるか
では、1年たったらこの企業の価値はどうなるでしょうか? この先20年間のキャッシュフローは変わりません。つまり割り引いた合計値も1112のままです。ところが、1年分のキャッシュフローが実現して100入ってきて、現金が200に増えています。つまり、企業価値は1112+200で1312。企業価値が増加しました。
これはつまり、株価が8%ほど増加したということを意味します。別に将来の成長期待が変わったわけでもなく、単に1年過ぎただけで株価が上昇するのです。
当たり前でもあり意外でもある
これは当たり前といえば当たり前です。将来の利益が不確定(リスク)なために割引率を設定するのですから、リスクにもかかわらず計画通りのキャッシュフローが上がればその分株価が上昇してしかるべきです。
また期待利回りが存在するのですから、その分は株価が上昇するなり配当がでなければ、国債を買っておいたほうがいいということになります。
一方で、これは意外なことでもあります。上記のことを別の観点で見ると、将来の見通しが全く変わらなければ、期待利回り分は株価は毎年上昇するということでもあります。また織り込んで割り引いていた分、リスクの高い企業の場合は特にリスクプレミアム分だけ株価が上昇します。
スタートアップ企業などは、当初はリスクプレミアムが大きく、かなりの将来キャッシュフローが割り引かれています。にもかかわらず、計画通りに事業が進捗すれば、リスクプレミアム分は株価が上昇することになります。さらに実績を積み上げることで、リスクプレミアムが減少し、つまり割引率が小さくなっていきます。すると将来キャッシュフローの割引率が減少し、企業価値が増大、これも株価の上昇につながります。
しかし、ではなぜ新興国株式など、リスクが高く高成長がうたわれている株式は、それを実現していっても株価が上がらないのでしょう?
こちらのグラフは、S&P500(青)と新興国株式インデックスETF(EEM)との、リーマンショック前夜からの株価推移です。米国が大きく成長したのに対し、新興国株式はずっと横ばいが続いています。
新興国株式のほうがリスクが高く、割引率も大きかったはずですが、年数を経てもそれが株価に反映されていません。しばしば、「新興国は高い成長率が株価に織り込まれている。だからそもそも割高だ」と言われます。でも、単に将来の成長率に基づいたキャッシュフローが割り引かれて現在の株価に反映されているのなら、それが現実化した時点で随時株価上昇に反映されるはずです。
これは織り込まれているというより、将来への期待を高く見積もり過ぎているというべきなのではないでしょうか?