FIRE: 投資でセミリタイアする九条日記

九条です。資産からの不労所得で経済的独立を手に入れ、自由な生き方を実現するセミリタイア、FIREを実現しました。米国株、優待クロス、クリプト、太陽光、オプションなどなどを行うインデックス投資家で、リバタリアン。ロジックとエビデンスを大事に、確率と不確実性を愛しています。

無からお金を生み出せるのは政府と銀行だけ 信用創造の不思議

最近、「信用創造」という言葉に関心を持っています。これは銀行が「貸し出し」を通じて、世の中にあるお金を増やすことができるという不思議な行いのことです。

貸し出しでお金が増える不思議

世の中にあるお金の量はどうやって決まるのでしょう? 一つは政府が新たにお金を発行することですね。正確には、政府が国債を発行して、それを民間の銀行が引き受けます。つまり、政府にお金を払います。この時点ではお金の量は増えません。

 

しかしその後、その国債を日銀が買い取ります。日銀は、支払いに必要なお金をゼロから作り出すことができます。つまりここで、世の中のお金が増えて、一方で日銀は国債という負債を抱えることになるわけです。

 

日銀のバランスシートをみると、負債の部合計が547兆円となっていますが、これが日銀が新たに生み出したお金だとみることができるでしょう。

f:id:kuzyo:20191001143513j:plain ※日本銀行より

日本国の借金は1105兆円といわれており、その半分程度が日銀の負債として計上されているのが分かります。

通貨発行権=シニョレッジ

こうした無からお金を発行する権利は、シニョレッジと呼ばれ、古くから国に特権となってきました。大昔には、戦費を調達するためにお金を発行しまくった結果、財政が破綻し、正確には「返せないだろう」と思われて通貨の価値が激減したこともありました。つまり、超インフレです。

 

現在の金融の世界では、こうしたことから国が無制限にお金を発行することを制限する法律が作られています。日本では、政府が発行した国債を直接日銀が引き受けることを禁じ、いったん市場を介さなければいけません。市場を介することで、適切な値段がつき、例えば「誰も買いたがらない」「安くないと買わない(=長期金利増大)」などのコントロールが効くと考えられているようです。

民間銀行が持つシニョレッジ=信用創造

ところがお金を無から作り出せるのは国だけではありません。実は銀行もそれが可能です。このことを信用創造といいます。最初に100万円持っているAさんがいたとします。AさんはA銀行にその100万円を預け入れました。

 

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A銀行は、預かった100万円を元に、Bさんに100万円を貸し出します。Bさんは100万円を現金のまま手元においておくわけではなく、商売の在庫を購入したり家を買ったりし、代金をB銀行に払い込みます。

 

入金のあったB銀行は、今度はCさんに100万円を貸し出します。ここで全体を見てみると、そもそも100万円しかなかったのに、貸し出しを通じて、この時点で300万円が各口座の合計として存在していることが分かります。

 

このような「信用創造」機能は、実は無からお金を作り出すものです。経済において流通するお金の量は大きな影響を及ぼすので、金融機関の貸し出しに対する考え方や規制が重要になります。

 

例えば不況期の「信用収縮」というのは、銀行が貸し出し枠を小さくしたり、融資条件を厳格化して貸し出しを減らすことです。これが起こると、実質的に信用創造の逆回転が起こり、お金の量が減少するわけです。

 法定準備預金

ちなみに、預かった100万円を全部出しだしてしまうと、もしAさんがお金を引き出したいと思ったときに、返すためのお金がなくなってしまいます。実際に引き出しを行わなくても、「あの銀行には引き出せるお金がないらしいぞ」と噂になれば、取り付け騒ぎにもなりかねません。

 

そのため、国内金融機関には、「受け入れている預金の一定比率以上を、日本銀行に預け入れること」が義務付けられています。これを準備預金制度といい、預ける最低金額を「法定準備預金額」と呼びます。現在は預金の種類や額によって違い、0.05〜1.3%を預け入れる必要があります。

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信用創造とはお金の借り手がいて成り立つ

ここまでの内容をまとめてみます。量的緩和(QE)などと聞くと、日銀や政府がお金を刷ってばらまくようなイメージを持ちがちですが、そのばら撒き方は簡単ではありません。

 

確かに政府や銀行は、信用創造を通じて新たなお金を生み出すことができますが、その背景にはお金の借り手が必要だからです。政府の場合、政府自体が国債という借金をすることで、市場を介し日銀が買い入れてお金が創造されます。銀行の場合、預かったお金の一部(法定準備、部分準備)を残して、誰かに貸すことでお金が創造されます。

 

つまり、政府はともかくとして借り手がいなければ民間では信用創造は成り立たないことになります。

 

日本を始め、世界各国が量的緩和を進める傾向にありますが、これは民間にお金を供給することで経済を活性化させるのが狙いです。言い換えると、「頼むからみんな借金してくれ」ということです。借金をすれば信用創造でお金が生み出され、出回るお金の量が増えるわけです。

 

シンプルにいえば、お金の量が増えるとその価値が減り、それはつまり物価の上昇であり、インフレになるわけです。

 

日銀はずっとインフレ目標に向けた政策をとってきていますが、なぜインフレにならないかというと、国以外に借金したいという存在が少ないからですね。

 定常経済のための100%準備銀行制度

景気のコントロールのために、信用創造を通じたお金の量を増減させるのは良さそうな考えです。もしそれが効果があるのならですが。

 

一方で、信用創造とはお金の借り手を増やすことであり、別の表現をすると「信用というバブル」を膨らませることでもあります。そして信用バブルは大きく膨らんでは崩壊し、奈落の底から再び膨らむというサイクルを繰り返してきました。

 

このことをヘッジファンドを運営するレイ・ダリオは「債務サイクル」と呼んでいます。

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彼の理論によると、信用の拡大と縮小は経済を安定させるというよりも、バブルの拡大と崩壊によって経済変動を引き起こしているともいえます。

 

ではどうすればいいか? そもそも経済成長が永遠に続くと考えることがおかしくて、人類はそろそろ定常経済へと移行しなくてはならない。そんなことを説く経済学者がいます。元世界銀行チーフエコノミストのハーマン・デイリーが有名ですね。

「定常経済」は可能だ! (岩波ブックレット)

「定常経済」は可能だ! (岩波ブックレット)

 

 この本の中で、ハーマン・デイリーは「定常経済へ移行するための10の政策」をまとめており、その中の一つが、「部分準備銀行制度から、100%準備銀行制度へ」というものになります。

 

100%準備銀行というのは、つまり預かったお金をすべて残しておくということになります。

 お金の循環に最初にお金を投入することを「シニョレージ」と言います。通貨を発行することで得る利益です。現在は、このシニョレージの権利を、民間銀行に与えているのです。おかしなことです。

 ですから、部分準備銀行制度から100%の準備金制度に変えていくべきです。すべての貨幣は政府が発行し、シニョレージは政府が得て、それを公共財に投資をしていく。そうすれば、お金は、現在のように私的な金利を持った負債ではなく、金利を持たない公共財として機能することになります。

ハーマン・デイリー、「定常経済について語る」

これは結構ドラスティックな提案です。先の記述を振り返れば、銀行から信用創造の権利を取り上げて、つまり貸出をさせないという意味になります。そうすれば、あたかもあるのが当たり前だった金利という概念が、お金から消えるということを言っているように読み取れました。

 

トマ・ピケティは「21世紀の資本」で、

体系的に資本収益率が成長率よりも高くなる大きな理由はあるのか? はっきり言っておくが、私はこれを論理的必然ではなく、歴史的事実と考えている。

p.368 

21世紀の資本

21世紀の資本

 

 と書いています。資本の利益率である r は、金利に密接に関連した概念に違いありません。でも、ではなぜ金利の値が決まってくるのかは、たいへん不思議です。このあたり、もう少し調べたり、勉強したいと思っています。