FIRE: 投資でセミリタイアする九条日記

九条です。資産からの不労所得で経済的独立を手に入れ、自由な生き方を実現するセミリタイア、FIREを実現しました。米国株、優待クロス、クリプト、太陽光、オプションなどなどを行うインデックス投資家で、リバタリアン。ロジックとエビデンスを大事に、確率と不確実性を愛しています。

保険は罪悪感のない売り物なのか

昨日、喫茶店で仕事をしていたら、隣の席で保険の勧誘をしているグループがいました。聞き耳を立てたわけではないのですが、それなりに席が近いので、どうしても会話の内容が耳に入ってきてしまいます。

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え、ドル建て変額保険を勧めるの?

妙にフレンドリーな営業さんだなぁ……と思っていたら、どうやら二人は元同級生らしく、女性の営業さんが男性に保険の契約を勧めていました。

 

さすがに数字の詳細は聞かないようにしましたが、やれ、年収はどのくらいかとか、子供は何人ほしいのか(そんなの聞かれてもわかるわけない)、自分の葬式代がいくらかかるか知っているか、高度障害になってしまう人が何人くらいいるか知っているか、etc。

 

金銭周りやライフプランの概要を聞いた上で、「こんなリスクがあるけど、対応しておかなくて大丈夫?」というお決まりのセールストークです。

 

そんな中で、気になったのはドル建て変額保険を勧めていたこと。掛け捨ての保険はともかく、貯蓄性の保険は現在非常に厳しいことになっています。預かった掛け金を保険会社が運用し、その一部を解約返戻金として戻してあげるのが貯蓄性保険。

 

積み立て形式で資産が構築でき、税制優遇もあり、さらには何かあったときの保障も付いてくる! これが基本的なウリ文句です。一方で、細かく言わないこととしては、長期間経たないと返戻金はプラスにならない、満期時や解約時の返戻金で利益が出た場合は、一時所得の所得税がかかる*1といったこと。

 

ところが、昨今の低金利状態の中、保険会社が契約者に約束する予定利率は下がりまくり。2020年1月、つまり今月にはついに、一時払い終身保険の予定利率が0%となりました。

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利回りがゼロでは契約者が貯蓄性保険を買うはずもなく、プラス利回りを約束すれば利益が圧迫されます。結果、各社は一時払い終身保険の販売休止などを始めています。

 

代わりに売っているのが、高い利回りが期待できる外貨建保険です。米国債は2%程度の利回りがありますので、ドル建て保険ならプラス予定利率を提案できるわけです。

 

さらに提案が増えているのが、変額保険です。これは、保険料の一部を別枠において、保険会社が株式や外国債券、不動産などで運用していくものです。いわば、掛け捨て保険と投資信託の組み合わせですが、残念ながら手数料開示などは投資信託に比べてお粗末なレベルです。

 

そして外貨建保険や変額保険は、保険なのに、契約者が為替リスクや資産変動リスクを負う形になります。それでもこうした商品を売るしかない、そういう状況なのでしょう。

保険は売るのはあなたのためだけど、投資商品は罪悪感がある

話の最後に、営業さんがふと言いました。私は自分の仕事に誇りを持っている。株などの投資商品は、買ってもらって値上がりしたらいいけど、下がってしまったら責任を感じる。でも、保険は何かあったときに役に立つもの。良い商品を提供できてうれしい、と。

 

ものすごくロジカルに言えば、何かあったときに貯蓄だけでは対応できない状況になることをカバーするのが保険です。例えば、子供がまだ小さいのに稼ぎ柱が死んでしまうとか、自動車で事故を起こしてしまい数億円もの慰謝料や損害賠償を請求されたり。

 

ただそのためならば、掛け捨ての保険が最もリーゾナブルですし、生命保険なら補償額が一定の割合で減っていく逓減型が合理的でしょう。実際、自動車保険では掛け捨てが普通です。でも、保険の営業さんがこうした保険を勧めることは少なく、いろいろな特約を付けたり、貯蓄性を絡めたりして、複雑で高額の商品を提案されることがしばしばです。

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保険の営業もビジネスですから、契約者の利益と保険会社の利益(つまり営業さんの給料)がどちらも増加するような商品を売ろうとするのは分かります。ただ、それは本当に契約者の利益になるのか。そもそも、営業さんは何が契約者の利益なのか、真剣に自分で考えたことがあるのか。そんなことをふと思ってしまいました。

 心の平穏を売るビジネス

なるほど、ぼく自身も保険に加入しているので分かるのですが、保険は損得を売っているのではなく、「安心感」という心の平穏を売っている商品です。自動車保険に入るとき、例え全損しても買い直せるキャッシュがあるのなら、車両保険には入らないというのがロジカルな解です。でも、たぶん全損してしまったとき、ものすごく心が辛いだろうし、買い直すためにお金が出ていくことは、そこにさらに追い打ちをかけます。

 

車両保険に入れば、事故自体は辛くても、少なくとも金銭面では保険がカバーしてくれるという心の平穏が得られるわけです。がん保険なども、同じような理屈ですね。

 

有利か不利か、損か得か、そういう話ではなく買った人が満足すればOK。買った人の心が満たされればOK。そう考えれば、たしかに「その保険は……」なんて外野が考える必要はありません。

 

でもふと思ったのは、これって中世の「免罪符」を売るビジネスみたいだな、ということ。死後、地獄に行きたくなければこの免罪符を買いましょう。あなたはそれによって救われます、と。

 

ここに損得はなく、この取引で相手がどれほど儲けようとも関係ありません。もしかしたら内容は全く同じでも、高いほうを買ったほうが心が救われるのかもしれませんから。

 

保険の社会的意義は、リスクコントロール、リスクの移転といわれます。でも個人向けの保険については、売る方も買う方も、リスクへの対応というより、心の平穏を買っているんだなぁと考えた一幕でした。

*1:一時受け取りの場合。利益から50万円を引いて半分にしたものに対して、総合課税の累進所得税率