自分のポートフォリオを入力しておくと、リアルタイムで損益が分かるアプリやサービスがあります。これって、便利なようでいて、実は害しかないと思っています。
そもそも何のために投資するのか
そもそも投資をする目的はなんでしょうか? お小遣いを稼ぎたい、クルマや家などを買う資金を貯めたい、老後資産を用意したい、セミリタイアしたい……いろいろだと思います。いずれにしても、その目的に対して重要なのは、総資産がいくらになったかです。間違っても、重要なのは投資額に対して利益がいくらとか損失がいくらか、ではありません。
また総資産の推移グラフもきれいに表示してくれるサービスがいろいろありますが、これも意味があるものではありません。右肩上がりに増えているなら気分はよくなりますが、反面下落傾向にあるときにこんなものを見たら、嫌な気持ちになってしまいます。積立投資のいいところは、投資損益がマイナスでも、多少ならば積み立てによってグラフが右肩上がりになることです。もしグラフを見たいなら、積立投資ならば心理バイアス的に心が支えてもらえるでしょう。
このように、この損益表示が、今回のコロナショックのようなときに心が折れてしまう最大の原因なんじゃないかと思っています。
過去の推移より未来への指針を
こうしたアプリやサービスに求めたいのは、過去の推移ではなく、現在のポートフォリオで運用を続けた場合、将来の資産がどのくらいになっていそうかという未来のグラフです。
300万円のクルマを買いたいなら、このまま続けたら1年後に買える確率はどのくらいなのか。このまま運用していったら、退職後に2000万円貯まっている可能性はどのくらいあるのか。あと何年後にセミリタイアできるのか。そうしたことを表示してくれるべきですね。
いわゆるゴールベースアプローチです。
損益をチェックすべきとき
それでも損益をチェックするべきポイントは2つあります。
1つは税金です。税金は確定させた利益に対してかかるものなので、年末のタイミングで年間損益をチェックしておくことには意味があるでしょう。場合によっては利益に損失をぶつけて、課税を先送りできるかもしれません*1。もっとも、基本的に長期投資であれば利益も損失も確定していない含み状態でしょうから、その必要さえない可能性が高いです。
2つ目は、短期、あるいは事業的投資の手法の見直しです。事業計画を作ったことのある人なら分かるように、まず想定リターンを決めて、予算を策定し、実行プランに落とし込みます。その上で、定期的に計画と実績に差異がないかをチェックして、修正予算を作る、また手法の見直しを行います。そのためには、想定した損益に達しているのかどうかの確認は必要になります。
いずれにせよ、長期投資でインデックスメインの場合、どちらも必要ありませんね。唯一インデックス投資で必要なのは定期的なリバランスですが、いくつかバックテストをしてみると年1回で十分な感じですし、ここには資産額は必要ですがやはり損益は不要です。リアルタイムどころか、月に1回見る必要さえありません。
過去ではなく未来を見る
そもそも含み益であっても含み損であっても、それを加味した時価評価額が、現在の資産です。よく「含み益も確定しなければ現実の利益ではない」なんて聞くこともありますが、これって短期売買を前提とした見方ですよね。同じ理屈で「含み損も確定しなければ現実の損失ではない」と言えるわけで、これは損失を損失として認識したくないという心理バイアスです。
減ろうと増えようが、その資産額が未来にとって必要なのか不足しているのかが重要なわけです。過去の損失はサンクコストであり、取り戻そうなどとは絶対考えてはいけません。過去の利益も逆サンクコストで、「含み益だから減ってもいい」と考えるのは、メンタルアカウンティングの心理バイアスにつながります。
そもそも、いまはまだ落ち着いているインフレが、日本でも出てきたらどうでしょうか。含み益があっても、資産全体の購買力はどんどん目減りしていきます。含み益が増えているはずなのに、実質的な購買力は低下している。そんなことにもなりかねません。あくまで重要なのは、現在の資産がゴールに向けて足りているのか足りないのか、このリスク水準(期待リターン)で大丈夫なのか。そこにあります。
パフォーマンスは確認するが損益は見ない
そんなわけで、ぼくの場合、月次でパフォーマンスは確認しますが、損益については把握していません。メイン口座の楽天証券を開くと、求めていないのに勝手に含み損益が出てきてイヤなのですが、やめてほしいものです。ここを表示させないスクリプトでも書こうかとさえ思います。
資産運用のゴールを考えれば、月次パフォーマンスさえ不要なのですが、何がどのような成績だったのかを見るのは楽しいので、やっている感じです。とにかく投資額に対する損益さえ見なければ、こうした相場のときに心折れて撤退してしまうこともないはずです。
*1:課税は無くせるのではなくて先送りできるだけです。先送りした間の、税金部分の運用益がそのメリットです。損出しの取引で、これを超える手数料を支払ってしまっては本末転倒です。