FIRE: 投資でセミリタイアする九条日記

九条です。資産からの不労所得で経済的独立を手に入れ、自由な生き方を実現するセミリタイア、FIREを実現しました。米国株、優待クロス、クリプト、太陽光、オプションなどなどを行うインデックス投資家で、リバタリアン。ロジックとエビデンスを大事に、確率と不確実性を愛しています。

「時間分散」の本当の意味 積み立てではないということ

金融庁がよく言うように、長期・分散・積み立てが、投資の王道です。ただし、この「積み立て」については、いろいろと誤解も多く、投資関係の専門家でも「あれ?」というような説明をすることが多いので、改めて調べてみました。

時間分散とは積み立てのことではない

よく時間分散というと、積み立て投資のことだと言われる場合があります。一気に資金を投じるのではなく、少しずつ資金を投資に回す手法です。手持ちの資金がなく、給与などから積み立てる場合は、選択の余地なく積立投資になりますが、これが一括投資よりも「時間分散になるから有利」というロジックを聞きます*1

 

しかし、時間分散の定義にもよりますが、何を分散させるのかという点で考えた場合、これはちょっと本当かな? と思っていたところがありました。ちょうど、下記の書籍を読んでいたら、そのものズバリの解説が出ていましたので、紹介しつつ考察してみます*2

この時間分散効果というのは、株式を5000株買い付けるとき、1000株単位で時間をずらして発注することではない。ときどきそういう解釈を見つけるが、それは誤解だ。 

銘柄分散させるか時間分散させるか

筆者は、時間分散の意味合いをしっかり理解するために、銘柄分散と対比させて説明しています。100万円で株式を買うとして、時間分散は100万円分の株式を5年分保有する(500万円年、というのがいいでしょうか)。そして、銘柄分散は100万円の株式を5種類、1年間だけ保有する(こちらも500万円年ですね)ことを意味します。

 

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これが比較対象となるにはちょっと前提があります。下記が書籍内の説明ですが、要は、株式A〜Eの間に相関がないというのが1つ。それぞれに相関のない資産を組み合わせることで分散効果が働きリスクが低減するという、ポピュラーな説明です。さらに、「時系列の相関がゼロ」、つまり株式Aについて、1年目、2年目、3年目とそれぞれの年ごとのリターンにも相関がないということです。これによって、同じ株式Aであっても、銘柄分散と同様の分散効果を得ることができます。

すべての銘柄の期待リターンが年率10%、その標準偏差は20%で正規分布するものとし、銘柄間の相関および時系列の相関を0と仮定する。そして、ある銘柄に100万円を5年間投資する時間分散戦略と、5つの銘柄に100万円ずつ合計500万円ずつ合計500万円を1年間投資する銘柄分散戦略の投資成果を比較したのが、次の図表 

 

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この発想は面白いですね。確かにこういう仮定を置くと、どちらも平均収益額が同じになります。標準偏差も、エクスポージャに対しては同じです。つまり、「時系列の相関がゼロ」ならば、時間分散と銘柄分散は同じ効果を持つということです。

時間分散=長期投資はリスクもリターンも大きくなる

ただし、銘柄分散は一度に500万円が必要ですが、時間分散ならば100万円で済みます。このことは、少ない資金で大きなリターンを得られるともいえますし、逆にリスクもリターンも大きいともいえます。

 

このことについて、筆者は「長期投資のほうがリスクもリターンも大きい」と言い切っています。

このように、長期投資の成果は短期の投資と比べてリターンもリスクも大きくなる。(略)

かなり大きな損失を被る可能性は長期投資のほうが高いということが分かる。実は、これが時間分散、つまり長期投資の大きな問題点なのである。 

これを意外と思う人もいれば、当然と思う人もいるかもしれません。理論的に計算した場合、長期投資のほうがリスクが高まります。よく「長期投資はリスクが下がる」という専門家がいますが、その真意は、「長期に投資することで、年平均リターンが平均化して安定してくる」という意味になります。リターンの平均値や中央値は、たしかに長期投資によって改善します。

 

しかし、純粋に確率論的にいえば、ものすごい大損害を被るリスクも増すのは間違いありません。文系的にいえば「隕石が落ちてきて経済が壊滅し、株価がほぼゼロになるリスクは長期になるほど高くなる」という表現になるでしょうし、理系的にいえば「確率密度関数を描くと、分布は収益プラスにシフトするが、尖度は小さくなる」という感じでしょうか。

長期投資はリスクを減らすのか増やすのか

長期投資はリスクを減らすのか増やすのか。確率論が言っているのは、平均値や中央値は改善するが、ばらつきという意味でのリスクは増え、大損害を受ける可能性も増すということです。

実は時間分散については論争が存在し、それは時間分散のリスク低減効果を擁護する、主として実務家で構成されるグループと、その効果に懐疑的な、主に学者からなるグループの間で交わされてきた。 

なるほど、実際の市場に向き合ってきた実務家は、「長期投資すればリスクは減るに決まってるじゃん」という感じで、数学的に見る学者は「いや、大損害の確率が上がってる」という感じでしょうか。この論争は、「何をリスクと見るか」が焦点です。

 

筆者は学者陣営の主張を、「なるほど損害が発生する確率は小さくなるが、でも潜在的な損失額は大きくなるぞ」と表現しています。その上で、これは経済学ではなくリスク学の枠組みで見るものだとしています。

 

たとえば、原子力について考えてみましょう。一般の人が原子力は破局の確率は小さいが潜在的な破局の程度は大きいことから、非常に恐ろしいリスクと見るようになっています。一方、原子力の専門家は、主に年間の死亡者数に基づいて原子力を比較的小さいリスクとみなしています。

 一般の人にとって、リスクは自分や身内に起きたら嫌だという感情移入の対象であるのに対し、専門家にとってのリスクは、他のリスク要因との比較の対象、観察対象であって、感情移入の対象ではないということだろう。

 こう考えると、長期投資がもたらすリスクは、原発リスクや航空機事故のリスクに似ています。滅多に起きないが起きたら破局的。これはいわゆるロジカルに考えれば、確率論的には取るべきリスクです。平均値や中央値では改善するのですから。

 

一方で、確率がどうであれもしそれが自分に起こった場合のことを考えるとリスクだ、と考えるならば、長期投資は危険なリスクを取っているとも言えます。

 

ただし、実務家が主張しているように、歴史的には長期で見た場合、そんな壊滅的な破局は起こっておらず、統計でいう平均値に近いところに結果が出ています。これをモデルが考慮していないパラメータがあると考えるのか、単にこれまでの株式投資の歴史が短すぎて、潜在的な破局が単に起こっていないだけと考えるか、それは人によって違うのでしょう。

そもそものモデルの仮定をどう見るか

モデルが考慮していないパラメータがあるという点では、そもそもの仮定「時系列の相関がゼロ」というところにもポイントがありそうです。これは、言い方を変えれば、1年目のリターンと2年めのリターンは独立していて、相互に関係がないという話です。

 

でも、人間が行う投資ですから、心理的な歪みが存在しています。例えば、上がった相場は続けて上がるというモメンタムのアノマリーでいうなら、1年目が上がったら2年目も上がる可能性が高く、そこには正の相関が生まれます。

 

また上がりすぎた相場は、じきに反転して平均回帰するというミーンリバーサルのアノマリーでいうなら、1年目が上がったら2年目は下がるはずで、この場合負の相関があることになります。

 

別の言い方をすると、過去の値動きが将来の値動きに影響を与えるかどうかという話で、自己相関性などともいいます。そしてこれは、日本か米国かといった市場の違い、株なのか別の資産なのかという資産の違い、90年代か00年代かなどの時期の違いで、それぞれいろいろな実証研究結果があり、これという正解はないようです。

 

つまり、「時系列の相関がゼロ」という仮定は、あくまで仮定であって、現実にそうなのかは怪しいものがあります。さらに、超長期においてミーンリバーサルの関係が成り立つなら、確率論的なモデルがいうほどの壊滅的な破局が起こる可能性は低いともいえます。

 

実際、モデルに従ってモンテカルロ・シミュレーションを行うと、30年間の長期投資でも元本割れする可能性が5%程度ありますが、実際の市場では過去200年にわたって20年以上投資すれば元本を割れるということはなかったと、こちらのサイトのシミュレーション結果には出ています。

統計の専門家でも経済の専門家でも無い著者には定かなことは言えませんが、個人的な意見としては、この原因はおそらく株価の長期推移は正規分布が当てはまらない、数学的に言うと株価は年単位では独立事象ではないということだと思います。

そして、そうなる理由としては、長期的に指数関数的な右肩上がりになるように「平均回帰の法則」という名の見えざるチカラが働いているためだと考えます。

米国株式市場での長期リターンのモンテカルロシミュレーション | 理系の錬金術

ぼくもモンテカルロ法を使ったセミリタイアシミュレーターを作りましたが、やはり悪い結果となる確率が、感覚的に現実より高い感じがしていました。

www.kuzyofire.com

 

 時間分散の本当の意味から、長期投資のリスクまでいろいろと考えてみました。投資の「専門家」と言われている人の話でも、その理屈が過去データの実証に基づいているのか、モデルによる計算に基づいているのか、さらにそのモデルの前提は何なのか、よく確認した上で聞くことが大事だと実感しています。そうしないと、議論が噛み合わないこともよくありますので。

 

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*1:結果的にドルコスト平均法になるから、有利だとか不利だとかいう話は、また別の話として。

*2:この書籍、図書館でふと手に取ったものですが、意外や意外(失礼)。思ったよりもすごく良書で、難しい話にロジカルに回答を出しています。こういう巡り合いもあるんですね。