先日、ある保険の加入者たちの話を聞く機会がありました。そこですごく感じたのは、「保障がこれだけじゃ、足りない!」という意見を持つ人が、かなりの数に上ったことです。もっと保険を、もっと保険を。
公的保険でかなりカバーされる実態
これは医療保険でした。主に、大きなリスクとしてみんな気にするのは「がん」の場合ですが、よく言われる通り、日本は医療に関しては非常に充実した健康保険制度があります。
かかる確率の高いがんでも、入院日数は20日程度、入院費用は3割負担の場合で20〜30万円。差額ベット代を入れても、50万円で足ります。
※がん保険は必要?不要?保険とお金のプロが教えます - SBI損保のがん保険
これは平均だよね? もっとお金がかかるがんもあるよね? そうです。そのために高額医療制度があります。これは、自己負担額の上限を決めて、それ以上はかからないという制度です。
どう計算しても、そんなに大きな額にはなりません。いや、がんになったら入院して、働けなくなる。そんな怖さもあります。
病気や怪我で働けないときの傷病手当金
そんなときのために、傷病手当金というものがあります。これは、病気や怪我で働けない期間の収入を、3分の2まで、最大1年6カ月支給するというものです。確かに収入減少ではありますが、生活ができないというレベルではありません。
ただし、これは中小企業加入の「協会けんぽ」、大企業加入の「組合健保」、公務員などの「共済組合」が対象で、自営業やフリーランスの人が加入する「国民健康保険」には傷病手当金が設けられていません。自営業やフリーランスなら、病気のときの保険は考えるべきだと思います。
保険に入らず貯金したら?
いやいやそれでもお金はかかる。保険に入っておけば安心。こう考える人はいます。ただ、やはり疑問なのは、それは貯金で賄えないのか? ということです。最もポピュラーながん保険として、アフラックの「生きるためのがん保険」のシミュレーションを見てみます。下記は、おすすめプランデフォルトでの月額保険料です。
- 30歳 男性 3005円 女性 2380円
- 35歳 男性 3659円 女性 2919円
- 40歳 男性 4538円 女性 3658円
- 45歳 男性 5764円 女性 4699円
- 50歳 男性 7585円 女性 6275円
- 55歳 男性 1万0154円 女性 8534円
この金額を高いと見るか、保険としては一般的と見るかはいろいろです。月額3000円くらいなら、「いざというときの安心代と思えば誤差のようなもの」だと感じるかもしれません。
では、この金額をそのまま貯蓄に回したときの、60歳時の貯蓄額がどうなっているか計算してみます。面白いのは、保険料は年を取るごとに上がっていきますが、60歳までの総払込額は大して変わらないことです。逆に、50歳を超えてから入れば、多少安くなります。
この金額は、男性で100万円超、女性でも80万円後半になります。なるほど、これだけの金額があれば、傷病手当金の代わりにはなりませんが、医療費+差額ベット代には十分です。
さらに、単なる貯蓄ではなく、1%および3%で積立運用した場合にどうなるか、見てみます。男性30歳の場合、3%運用でなんと175万円です。1%運用でも126万円となりました。これは、30歳でがん保険に入らずその分を貯金に回したら、108万〜175万(3%運用時)の金額が、60歳のときにあるということです。
そうはいってもがんになったら……
そうはいっても、もしがんになってしまったら、入っておいてよかったと思うはず。それはそうですね。でも、どのくらいの確率でがんになるのでしょうか。国立がん研究センターのデータによると、2016年のがんの罹患率は、10万人あたり、男性で917人、女性で657人です。ざっくり男性で1.8%、女性で1.3%です。大きくはありませんが、無視できるほどでもありません。
では年齢別ではどうでしょうか。こちらは2015年のデータになってしまいますが、がん患者の年代別の罹患率です。60歳までは、がんにかかる可能性は年間で0.5%程度だということが分かります*1。
仮に、単純な計算として30歳から60歳までの新規罹患確率を合計しても、8.9%。これは、「60歳までにがんになる確率は10人に1人」という通説とも一致します。この確率は、けっこう高く、がんは身近な病気だといえますね。
がん保険の意味合いは?
がんにかかる費用、そしてどのくらいの確率でがんにかかるかを見てみました。ここからどんなことが分かるでしょう。まず、がんにかかる費用はそれほど多くなく、貯蓄で十分にまかなえる額だということが一つ。そして、がんにかかる人は、けっこう多いということです。
「がんになる確率が高いから、保険に入っておこう」。こう考える気持ちは分かりますが、これは保険の意味合い的には、微妙な考え方です。そもそも保険は、「起こる可能性は低いけれど、もし起こってしまったら壊滅的な出来事」に備えるものだからです。例えば、自動車人身事故や、自らの死亡などです。
起こる可能性が高い出来事については、もらえる保険金に対して、保険料は割高になります。それはそうです。保険会社もビジネスとしてやっていますから。それでも、もしもの時への対策が貯金で対応できないほどならば、保険に入る意義がありますが、がんのレベルの場合、貯金で十分に対応可能です。
それでも、がん保険に入る意味がないとはいいません。心の平穏が買えるからです。もしもがんになってしまっても、身体のことはともかく、金銭的な心配は小さくなる。そのために、追加のコストを払ってもいいと考えるなら、ありでしょう。
でもこれは心の問題だと思っています。人間の心にはさまざまなバイアスがあり、本来心配すべきではないことも心配に感じてしまいます。それを解消するためのコストだということです。
やはり、ぼくはがん保険には入らないですね。合理的に考えれば、そのぶん貯金したほうが有利だと思うからです。自分が死んでも家族が暮らせていける資産に到達したために、生命保険も解約しました。ただし、自動車は任意保険に入っています。そういうことですね。
*1:これは新規罹患なので、累積だともっと増えることには注意が必要です。また、男女でも違います。