よく「レバレッジETFは減価する」ので損という話があります。この減価とはどういう意味なのか、少し考察してみます。
- レバレッジETFの仕組み
- 米NASDAQのQQQとTECLでは?
- なぜ素直に2倍、3倍にならないのか
- リバランスしない先物レバレッジなら?
- リターンが2倍、3倍ではなく、レバレッジ比率が2倍、3倍というカラクリ
- 常に損のような「減価」に惑わされない
レバレッジETFの仕組み
例えば日経平均にレバレッジをかけたETFは、その日の日経平均の2倍の値動きをするように設定されています。日経平均が10%上がれば2倍の20%上がり、日経平均が10%下がれば20%下がります。過去のデータでは、ここでの乖離率はほとんどなく、日経平均の2倍の値動きとなります。
下記は、日経225(赤)と日経レバ(青)の直近1ヶ月のリターンです。日経平均が7.7%上昇に対して、日経レバは15.84%と2.05倍となっています。
ところが、期間を長く取ってみると、リターンの違いはまったく2倍とは異なってきます。次のグラフは、期間を3ヶ月としたところです。日経平均は4.28%の上昇ですが、日経レバは5.4%でしかありません。
過去5年で見ると、日経平均が6.39%のリターンなのに対し、日経レバはわずか0.71%のリターンでしかありません。
米NASDAQのQQQとTECLでは?
では、米NASDAQ指数インデックス連動のQQQと、その3倍の値動きをするレバレッジETFのTECLではどうでしょうか。直近1ヶ月のチャートを見ると、QQQ(青)が10.07%のリターンなのに対し、TECL(赤)は35%と約3倍のリターンとなっています。
ところが期間を3ヶ月に伸ばすと、QQQが11.37%なのに対し、TECLは-11.19%と大きく逆に振れてしまいました。
さらに過去5年で見ると、QQQは114.58%のリターンで、TECLは421.58%です。
なぜ素直に2倍、3倍にならないのか
ではなぜレバレッジETFは、素直にインデックスの2倍、3倍にならないのでしょうか。犯人は、レバレッジ比率が設定通りになるように、日時でリバランスが行われていることにあります。
通常レバレッジETFは、資産の2倍や3倍の量の先物を購入して、インデックスの2倍や3倍の値動きを実現します。100万円投資したら、200万円分の先物を買うということです。キモは、価格が変動したら、純資産のちょうど2倍になるように、先物のポジションを変更するリバランスを行うということにあります。
まず純資産100億円なら200億円相当の先物を買い持ちする。翌日に日経平均やTOPIXが10%値上がりすると先物も10%値上がりして20億円の利益が出る。この利益分だけ純資産が増えて120億円になる。このとき先物は220億円分を保有しているが、翌日も「2倍の騰落率」を維持するためには20億円分の先物を買い増しして240億円相当にする必要がある。
反対に株価指数が10%値下がりすると先物から20億円の損失が発生し、純資産も20億円減って80億円になる。先物は180億円相当を保有しているので、純資産の2倍の160億円にするため20億円分を売却しなければならない。
これは、上記の「ニッセイ基礎研究所」の記事にもあるように、「上がったらさらに買い」「下がったら売る」という順張りのリバランスを、日次で行うということです。
以前の記事でも書いたように、順張りリバランス戦略は、上がり続けたり、下がり続ける相場では、パフォーマンスがよく、上下変動を繰り返すいわゆるボックス相場ではパフォーマンスが悪化します。
このボックス相場でのパフォーマンス悪化を指して「減価する」と言われるわけです。
リバランスしない先物レバレッジなら?
ここで、ではリバランスしないで先物を使ったレバレッジをかけるのなら、順張りにならず、減価もしないのではないか? という疑問が浮かびます。それはそのはずです。先のニッセイ基礎研究所の例でいえば、こうなるでしょう。
- 純資産100億円で200億円相当の先物を買う
- 日経平均が10%値上がりすると先物も10%値上がりして20億円の利益が出る
- 純資産120億円、先物は220億円を保有している (レバ1.83倍)
- 今度は、日経平均が10%値下がりした。先物も10%下落して198億円分になる
- 純資産98億円、先物は198億円を保有している (レバ2.02倍)
- 日経平均は2万円から10%値上がりして、2万2000円。その後10%下落して、1万9800円。2万円から1%の値下がり
- レバ2倍のETFも100億円が純資産98億円になり、2倍の2%の値下がり
リバランスを行わなければ、ずっと2倍、3倍の値動きが続くことになります。ただしこのとき、レバレッジ比率は変化してしまいます。上記でいえば、上昇時、レバは1.83倍に減り、下落時にはレバは2.02倍にアップしました。
単に先物を買っただけだと、当初のレバレッジ比率から、上昇時はレバが落ち、下落時はレバが上がるわけです。
リターンが2倍、3倍ではなく、レバレッジ比率が2倍、3倍というカラクリ
もう一度、QQQとTECLのチャートを見てみましょう。ボックス圏にあるときは、順張りリバランスの悪影響が出て、リターンが悪化してしまうレバレッジのTECLですが、一本調子で上昇するときは、3倍を超える上昇を見せていることが分かります。
コロナショックの底からの回復局面のチャートを見ると、それがよく分かります。この期間、QQQはほぼずっと上昇を続けました。41.6%の上昇です。この間、TECLはなんと157.95%も上昇しています。約3.8倍です。
一方で、コロナショック前の高値から、ショックで底を付けるまでのチャートを見てみます。QQQが27.12%下落している一方で、TECLは73.92%しか下落していません。比率は2.7倍で、3倍を下回っています。
常に損のような「減価」に惑わされない
このように、「減価」というと、とにかく損というイメージを持ちがちですが、レバレッジETFが想定通り2倍、3倍のリターンにならないのは、日次でレバレッジ比率を戻すリバランスをおこなっているためです。結果、上がるときは買い、下がるときは売りの順張りリバランスになります。
そのため、ボックス相場ではリターンは悪化し、上がり続ける、下がり続ける相場では、逆に2倍、3倍よりもパフォーマンスがよくなります。
もちろん、普通のインデックスETFに比べれば、先物を使い、日次でリバランスするなどオペレーションが複雑なので、どうしても手数料がかさみます。その分は確実にネガティブなのですが、「減価」と聞いて、常に損だとは考える必要はないでしょう。ボックス相場に弱いということを、しっかり押さえておくことが肝要だと思います。
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