投資や資産運用には、いろいろな誘惑があります。「この株は上がるから買い!」「この商品を買えば儲かります」「この証券会社がオススメです」etc。いろいろな情報があふれるなか、いったい何を信じたらいいのでしょうか?今回は、その見極め方の考え方を。
その商品を売る人はなぜいるのか?
ある商品を売る人がいます。スーパーのレジ係のような決済オペレーションを行う人ではなく、説明したり売り込む役割の人、いわゆる営業担当です。こうした人は、どんな役割を担っているのでしょうか。
その商品が広く定価ベースで販売されておらず、営業担当を経由しなくては買えない場合が、まずひとつ。法人向け商品やマンションのような高額な商品は、こういう商流の場合が多く、営業担当が必須になります。価格も一律ではなく、時価だったり、相手との関係性で変わってくるので、いかに優秀な営業を味方に付けるかは、購入側としても重要になります。
2つ目は、情報提供です。商品がどのようなもので、どんなメリットとデメリットがあって、どんな保証が付くのか。こちらも、価格や仕様が一律ではなく、一品一品違っている商品では、重要な点です。メディアなどが広く紹介することもできないので、営業は商流の担い手であると同時に、情報提供を行うメディアでもあります。
3つ目が、広告の代わりです。想定顧客が広くなく、パイが小さい場合、マス広告ではなく、営業担当が広告の代わりに売り込みを行います。名簿を買ってきて手当たり次第に電話してアポを取ったり、Webなどを使って関心を持ってもらったら連絡先を入力してもらい、そこから営業担当が直接売り込みを行います。高額な商品になるほど、人はそうそう決断できないので、最後のひと押し、背中を押してあげる誰かが重要になるわけです。
例えば株式の場合は?
では、株式などの金融商品を売る人、例えば証券営業マンや銀行の相談窓口担当などは、どんな役割を担っているのでしょうか。
まずネットが普及した今となっては、商流については人は必須ではありません。ネットでマンションの決済まで完了することはできませんが、一般的な金融商品は、ネットでそのまま買えます。しかも、全く同じものが、どこでも買えるという特徴があります。Appleの株は、どの証券会社で買っても、誰を経由して買っても、全く同じApple株なのです。
情報提供という面でも、よほどマイナーな銘柄でない限り、ネットでさまざまな情報を得ることができます。上場株式であれば、最低限EDINETなど、有価証券報告書はネットで開示されていますし、普通は会社のWebページに決算報告書や説明資料が乗っています。IRに電話すれば、細かく不明点を(公開可能な情報なら)教えてくれます。ネット証券各社も、さままな観点で財務情報を分析するツールを用意しています。
独自の解釈を求めるならともかく、ファクトベースの情報ならば、もう盛りだくさん。情報が足りない!という人より、多すぎて消化しきれない!という人のほうが多いでしょう。
というわけで、わざわざ人を使って売り込んでくる会社というのは、広告の代わりに需要を喚起し、最後の決断を促すことを役割としているのが営業だということが分かるわけです。
ある最大手証券会社OBの話
ある最大手証券会社の営業だった人の話を聞いたことがあります。トップレベルの営業だったそうで、経済情勢をしっかりと分析し、その株の魅力的なストーリーを組み立て、相手に合わせてセールストークを用意したそうです。
ただし、そこで売り込む株というのは、本当に値上がりが期待できるものだとは限りません。広告というのは、広告しないと売れない商品をなんとか売るためのものだからです。会社が戦略的に販売を拡大したい商品を売り込むよう指令が出ますし、それは会社からの評価に直結します。そのものズバリ報奨金が出る場合もあります。
「というわけで、この株は最高ですよ(私にとって!)。今これを買えば、儲かると思います(私が!)」
投信の信託報酬の内訳
投資信託などでは、この傾向がさらに顕著です。株式では、どの株を買っても手数料は一律ですが、投資信託はそれぞれの手数料が異なるからです。販売手数料が無料か極めて小さくても、運用手数料として毎年支払うお金は、運用会社に入るだけでなく、管理会社と販売会社にも分配されます。
一例として、野村アセットマネジメントの「野村インド株投資」を見てみます。こちらは運用を行う委託会社が野村アセットマネジメント、財産の保管と管理を行う受託会社が三菱UFJ信託銀行、そしてこの投信を販売する会社が受け取る販売会社報酬があります。
まず、こちらの購入時手数料はなんと3.3%です。1000万円分投信を売れば、販売会社には33万円が入ることになります。そして、年間の信託報酬は2.2%です。複雑で高度な運用を行うので信託報酬が高いのだと思いがちですが、その内訳を見ると光景が変わります。
運用会社が受け取るのは、0.95〜1%。そして、販売会社は毎年0.95%を受け取るのです。いったん販売すれば、毎年9万5000円が入ってくる計算ですね。この投信は、昨今珍しいくらい高コストなものですが、こうした投信を売るには、わざわざ売り込む営業が必要だし、営業が手数料という利益を稼ぐための商品として作ったとも言えるでしょう。
ドアノック商品という不思議
保険も同様ですね。以前、明治安田生命の「じぶんの積立」を契約したときに、「これはドアノック商品ですから」と営業から言われたことを書きました。
これはつまり、 じぶんの積立はアポを取るためのエサとなる商品であって、本当に売りたいものは別にあるということです。そして、本当に売りたいものというのは、顧客にとって有用なものという意味ではなく、販売する営業にとって実入りがいいものですね。そうでなければ、「ドアノック商品」なんて呼び方をするはずもありません。
営業担当がいい人だったから、信用できそうだったから……
こんなふうに理屈で考えても、「営業担当がいい人だったから」「信用できたから」、オススメされた商品を買った。そんな話を聞くことがあります。気持ちは分からなくもありません。
初めて取り組む商品で、何に着目したらいいのかも分からず、さらには調べたいとも思わない。誰もが最初は初心者だし、投資の目的はお金を増やすことで、投資に詳しくなることではありません。
こんなとき、専門的な知識を持って、「これがオススメ!」と勧めてくれる営業担当は、たいへん心強いですし、しかも人間的に信頼できそうなら、頼りたくもなるものです。それでも、直近のかんぽ生命の強引で顧客を喰い物にした営業方法もそうですし、以前であれば回転売買を提案して、身ぐるみ剥がすような証券営業の話もよくありました。営業の言うとおりに行動することは、自分のお金の一部を営業に支払っているということを忘れないようにしなくてはなりません。
しかも、アドバイスに対する対価を支払っているのならば、営業も人間ですから、相手の損失になるような商品を勧める言動はしにくいはずですが、単に手数料が高いだけの商品を勧めるのは、そこまで心が痛くないのかもしれません。
先の証券会社OBも、なぜ辞めたかといえば、顧客のためにならない商品を売り込むことで自分の成績が上がるという状況がつくづく嫌になったから、と話していました。
投資手法について、誰かに頼りたい気持ちはよく分かります。そして、多くの人にとって、それが投資の入り口です。ただし、それが商流の問題なのか、一品物の商品で情報提供が必要なのか、それとも営業しないと売れない広告代わりの存在なのかは、よくよこう考えてから決断する必要があります。あなたの損は、相手の得。それを買うことで、誰が得をするのかは、よく考えてから決めなくてはいけませんね。