FIRE: 投資でセミリタイアする九条日記

九条です。資産からの不労所得で経済的独立を手に入れ、自由な生き方を実現するセミリタイア、FIREを実現しました。米国株、優待クロス、クリプト、太陽光、オプションなどなどを行うインデックス投資家で自由主義者、リバタリアン。ロジックとエビデンスを大事に、確率と不確実性を愛しています。

米債券ETFを比較する パフォーマンスを決めるスプレッド

第1回で債券の概要第2回で債券のリスクを決める大きな要素であるデュレーションについて見ました。今回は、もう一つの重要な要素であるスプレッドについて見てみます。債券のリターンは、基本的に支払われるクーポンです。このクーポンの利回りは2つに分解でき、国債の金利を基にしたベース金利と、そこに上乗せされるスプレッドになります。

ベース金利+スプレッド

これを図解するとこんな感じ。債券のリターンは基本的には予め決まっている金利です。「10年ものの米国国債 利率が1.5%で価格は100.3ドル、償還(満期)は2021年6月30日」みたいに売り出されています。

 

この国債の金利がベース金利です。日米などの国の国債は、基本的に必ず利払いと元本返済がされるという前提で、「無リスク」とされています。定期預金と同じで、買えば満期まで確実に利息が入ってきて、満期日には元本が返ってくるということです。

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一方で、こうした政治や財政が安定している国以外も国債を出しています。例えば、アルゼンチンの国債は、5月に9度目となるデフォルトを起こしました。デフォルトとは債務不履行、つまり利息の支払いを約束通り行わなかったということです。このように、支払いにリスクがある、いわゆる信用リスクがある債券の場合、ベース金利にさらに金利が上乗せされます。これがスプレッドです。

格付けでだいたい決まるスプレッド

どのくらいのスプレッドが上乗せされるかは、だいたい格付けで決まります。よくニュースで、「日本の格付けが引き下げられた」などと出てきますが、この格付です。これは、日本国債がちゃんと支払いをしてくれるのか、その信用度がどうかを示しています。

 

3大格付け会社と呼ばれる、S&Pとフィッチ・レーティングス、ムーディーズがそれぞれさまざまな債券の格付けを出しています。次のようなレベル分けになります。

  1. AAA/Aaa 信用力最大
  2. AA/Aa  信用力大 
  3. A/A   信用力あり
  4. BBB/Bbb 信用力中(ここまでが投資適格)
  5. BB/Bb  相応の信用リスク(この下は投資不適格、ジャンク債)
  6. B/B    信用リスクが高い
  7. CCC/Ccc 信用リスクが極めて高い
  8. RD/SD  一部債務不履行(一部デフォルト)
  9. D    債務不履行(デフォルト)

このAAA格付けの国はどこかというと、現在、オーストラリア、オランダ、カナダ、シンガポール、スイス、スウェーデン、デンマーク、ドイツ、ノルウェーなどがあたります。S&Pでは、日本はA+、米国はAA+となっており、最上位ではありません。韓国はAAであり、日本より格付けが上ですね。中国はA+です。

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一方で、国債であっても一部の国は、BB以下の投資不適格級になります。例えばトルコは自国通貨建てであってもBB+、外貨建てはB+です。南アフリカは自国建てがBB、外貨建てはBB−です。このように、格付けが下がるほど、スプレッドが高い、つまり金利が高くなります。投資家は債務不履行になるリスクを抱えるので、その分高い金利を要求するというわけです。

社債にも格付けが

債券には国債だけでなく、一般の企業が発行する債券、いわゆる社債もあります。これも、お金を貸すと利息が支払われ、満期が来ると元本が返ってくるという構造は同じです。では国債と何が違うのかというと、業績悪化や倒産で債務不履行になる確率が高いわけです。これも国債と同じく、信用度が格付けで表されます。

 

例えば、トヨタ自動車の格付けは、外貨建長期でA+、外貨建短期でA−、自国通貨建て長期でA+です。日本国並の信用を持っているということになります。国内大手企業の格付けはA前後が多いのですが、丸紅はBBBですし、楽天はBBB−です。野村ホールディングスも自国通貨長期はBBB+です。

 

一方で、ソフトバンクグループの格付けは、外貨建長期でBB+、自国通貨建て長期でもBB+。いわゆるジャンク債扱いになります。このBBBとBBを分ける壁は大きく、機関投資家はジャンク債の購入を内規で認めていないところも多くあります。金利水準に大きく影響するため、格付けの変更はけっこう騒ぎになります。

toyokeizai.net

この格付は、企業側が格付け機関にお金を払って発行してもらうので、お互いなかなか難しい対応になりますね。

実際のETFにおける格付けと利回りの関係

格付けに対応して追加の利回りであるスプレッドが上乗せされることは、実際の債券系ETFの格付けと利回りをプロットしてみるとよく分かります。格付け10は最上位格付けを表します*1

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AGGは、米国債が7割ですが、ほかにAA〜BBBまでの投資適格債も含む総合債券です。そのため、IEF(中長期国債)のような純粋な国債に比べて利回りが上がっています。USIGは投資適格社債へ投資するETFです。こちらはAおよびBBBの社債が中心で、さらに利回りは上昇します。EMBはBBBを中心とし、Bまで含む新興国債券へ投資します。格付けが下がれば、スプレッドが上乗せされ、利回りが上がっているのが分かります。そしてHYGは投資不適格社債、BB以下に投資するETFです。信用リスクはとても高く、利回りも比例して高いことが分かります。

 

債券ETFのファクトシートを見ると、どれだけのスプレッドが乗っているのか、ベーシスポイント単位で記載されています。それを見れば、どのくらい信用リスクがあるのかも判断できることになります。

株式よりもシステマティックである意味シンプルな債券

これを見ると、利回りが高い債券が有利というわけではなく、それは債務不履行のリスクの裏返しだということが分かります。リスクが高ければ、素直にリターンも大きい。ここには、ハイリスク・ハイリターンの関係があります。

 

ただし、HYGのように利回りが5%近くある債券の「元本が返ってこないリスク」がすごく大きいかというと、そうでもありません。これは投資不適格の会社の債券とはいえ、1社の社債を買っているのではなく、1103社もに分散しているからです。1社だけならば、倒産すればゼロという100ーゼロの博打になってしまいますが、これだけの数に分散すると、大数の法則が働くからです。格付け相当に、毎年一部の会社はデフォルトを起こすという感じです。

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これはハイイールド(投資不適格)債のデフォルト率の推移のグラフです。例年、だいたい2〜4%がデフォルトし、景気後退期にはデフォルト率が10〜15%程度に跳ね上がることが分かります。2〜4%がデフォルトするというのは、単純に考えればリターンが2〜4%引き下がるだけです。これだけデフォルトしていてなおかつ5%程度のリターンがあるわけで、投資不適格だから危険というわけではないことが分かります。

 

ではなにが危険かというと、このスプレッドが激しく変動するからです。信用リスクは安定しているものではなく、特に社債などでは不景気になると全体的に悪化します。信用リスクの悪化は追加利回りであるスプレッドの拡大をもたらします。スプレッドが大きくなって利回りが上昇するということは、債券価格は大きく下落することになるのです。

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Analysis of US High Yield / Leveraged Loans

逆に見れば、信用リスクが高まったので債券価格が暴落し、つまり一時的に利回りが急上昇。ベース金利はそこまで変動しないので、スプレッドが急拡大したということもできます。このように、金利と債券価格は表裏一体なのです。

 

デュレーションとスプレッドという、債券の重要なパラメータについてまとめてみました。さて、債券のパラメータには、あと2つほど大きな要素があります。次回は、その1つ、コーラブルについて調べてみます。

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*1:ちなみに、S&Pは米国をAA+としており最上位ではありませんが、ムーディーズはAaaとしており、最上位です。これらETFの運用会社であるブラックロックはムーディーズのほうを使っているようで、Aaa格付けで表記しています。