よく、「株価が50%下げた場合、再び50%上がっても元の価格には戻らない」といいます。これ自体は事実なのですが、この解釈はさまざまです。「だから一回下げたら戻るのは難しい」という説明もよく聞きますね。でも、確率的に考えた場合、50%下がる確率と50%上がる確率は同じなのでしょうか?
- 相場観抜きに確率論で考えると
- 正規分布リターンが複利で積み重なると
- 期待値が高くても、中央値や最頻値はそれを下回る
- 200%上がることはあっても200%下がることはない
- 対数正規分布の場合の下がる確率と上がる確率
相場観抜きに確率論で考えると
まず前提として相場観は抜きです。経済情勢や企業業績などの分析による判断ではなく、純粋に確率論として考えてみます。
しばしば株価の変動は正規分布すると言われます。正確には、もっとロングテールだとかいろんな確率分布がより現実にマッチするものだと言われますが、計算の容易さからだいたいは正規分布が使われます。これは図にするとこうなります。
横軸は株価の変化、縦軸はそれが起こり得る確率の大きさを意味します。「変わらない」確率が最も大きく、大きく上がったり下がったりする確率は小さくなっていきます*1。
これを見ると、下がる確率も上がる確率も同じだということが分かります*2。つまり、100の株価が25上がって(25%増)125になる確率と、25下がって(25%減)75になる確率は同じだということです。
であれば、25%下がった株価が元の数字に戻るには、25%増では足りません。75が25%上がっても93.75にしかならないからです。
これだけ見ると、X%上がる確率とX%下がる確率は同じに見えます。ところが話はこれだけでは終わりません。
正規分布リターンが複利で積み重なると
このリターンの確率分布は、いわゆる単利を表しています。一回こっきりのリターンですね。ところが株式などはリターンが連続します。しかも、今日のリターンの結果に対して明日はさらにリターンが積み重なる、いわゆる複利です。
100の株価が今日10%上がり、明日も10%上がったら、120%の120になるのではなく、110 ✕ 110%で、121になるわけです。では、この複利を入れ込むと確率分布はどうなるでしょうか?
これは対数正規分布と呼ばれる確率分布のグラフになります。
一回一回のリターンの確率が正規分布でも、それが何回も繰り返されて複利効果が出ると、このように対数正規分布となるわけです。
期待値が高くても、中央値や最頻値はそれを下回る
ちなみに、この対数正規分布は面白いところがあって、平均値よりも中央値や最頻値が小さくなります。これが何を意味するかというと、ロングテール(この場合、大儲けする確率)によって平均値が右に引っ張られるということです。そのため、多くの場合、投資家は平均値より低いリターンしか得られないで終わります(中央値が小さいから)。期待リターンが高くても、その果実を得られる投資家は半分もいないわけです。
正規分布ならば、平均値、つまり期待リターンと中央値、最頻値は一致しますが、対数正規分布の場合、平均値は高いものの、中央値や最頻値はそれより小さくなってしまうのです。
そしてこの分布は、リスクの大きさの違いによって形が大きく変わります。リスク、つまり標準偏差が小さくなるほど、ピークが右に動き、ロングテールが低くなります。つまり、中央値や最頻値が平均値に近づき、正規分布に似てくるわけです。
※凡例は標準偏差
投資はよく期待値で語られますが、高い期待値を持つ投資先は基本的に高いリスクを持ちます。そして高いリスク=大きな標準偏差を持つ場合の確率分布を見ると、中央値や最頻値は期待値よりも小さくなります。つまり、期待値は高いが、多くの場合、それに達しない結果となるわけです。
200%上がることはあっても200%下がることはない
さて閑話休題。「50%下がる確率と50%上がる確率は同じなのか」という問いに対しては、いくつか直感的な疑問が浮かびます。
例えば、株価は2倍になる、つまり100%上昇することがありますが、100%下落してゼロになることはたいへん稀です。倒産したときくらいですから。200%上昇して3倍になることもありますが、同じ確率で200%下落することはありません。株価がマイナスになってしまいます。
ここを考えると、50%上昇する確率と50%下落する確率はやっぱり違うんじゃないか? と思いますよね。株価変動が正規分布すると仮定するなら、100%以上上昇する可能性がある以上、100%以上下落する可能性を認めていることになります。つまり、やっぱり正規分布というのはおかしいんじゃないかと。
それでも「株価は正規分布する」という前提でいろいろ言われたり計算されたりするのは、変動率が小さい場合=標準偏差が小さい場合、正規分布と対数正規分布の形はほとんど違いがなく、実務上同一視して構わないからのようです。
月間値動き分率rが数パーセント以下の場合には、異なった分布に見える真数正規分布と対数正規分布には実質的な差がない。その理由は簡単で、以下の通りである:
(10―12).株価や債券価格の値上り倍率は真数正規分布と対数正規分布いずれに従っているか: 即物的インデックス運用実務
対数正規分布の場合の下がる確率と上がる確率
株価変動が正規分布するとして、それが複利で積み上がると対数正規分布になります。 横軸が対数なので、つまり、x倍上がる確率と1/x倍に下がる確率が同一になります。具体的にいうと、1.25倍になる確率と、1/1.25倍=0.8倍になる確率が等しくなるわけです。別の言い方をすると、25%上昇するのと20%下落する確率が同じということです。
もっと数字を大きくすると、100%上昇する確率に相当するのは50%下がる確率です。200%上昇する確率に当たるのは77%の下落ですね。900%上昇して10倍になる確率に対するのは、90%の下落になるわけです。
さらに、一定期間後の株価変動が対数正規分布に従うと仮定するなら、株価は100倍になる可能性もあるけど、マイナスになってしまう可能性は排除されます。
このように、もし株価が50%下がったとしても、100%上昇する可能性が同じだけあると考えると、下落に対しても気が楽になりますね。こちら、できるだけいろいろと調べつつ、自分が納得できるレベルでまとめてみましたが、根本的な考え違いなどもあるかもしれません。詳しい方がいらっしゃったら、ぜひご指摘いただければと思います。
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