資産運用関係の記事についたコメントを見ていると、大きく3つに大別されます。1つは、「そうそう早くみんなやろうよ」という投資クラスタ的な内容。2つ目は「そんなこと言われても投資するお金なんてないよ」という現実派。そして3つ目は、「なんだ、また投資を煽る内容か」という完全否定派です。
この、投資を怪しんで訝しむ感情はどこから出てくるのでしょうか?
- 金融関係者の3つのスタンス
- 心から投資の有効性を信じる長期投資派
- オレの仕事の範囲以外知らんのプロ
- 金融業界は汚いけど仕方ないよね人種
- 彼はいかにして投資を憎むようになったのか
- あなたの周りに投資家はいますか?
金融関係者の3つのスタンス
このところ、金融関係者の話を聞くことがあるのですが、実は金融関係者のスタンスも3つに分かれるように感じています。
心から投資の有効性を信じる長期投資派
1つ目は心から投資の有効性を信じている人です。世界経済は成長を続け、その果実を最も確実に得られるのは「長期、分散、積み立て」投資だ。そのために、世界から遅れている日本の人たちを啓蒙しなくてはならない。年金はもたないし、給料は上がらないのに、このままだとみんな老後破綻してしまう――。こんなふうに思って、仕事に励んでいます。
このパターンの人は、基本的に長期運用発想です。インデックス投資派の人もいるし、複数の銘柄を組み込む投資信託関係者もいます。ビジネスモデルでいえば、コミッション(手数料)モデルではなく、預け入れ資産の1%というようなフィーモデルの商品を売っています。フィーモデルでは、一度売ったらずっと持ってもらったほうが利益になるわけで、認識とビジネスが一致しているともいえます。
オレの仕事の範囲以外知らんのプロ
2つ目は「オレはプロだぜ」タイプです。ファンド関係者でも、特定の領域にコミットしていて、全体像のことにはあまり関心がありません。この企業のESGへの取り組みを評価するのがオレの仕事。しっかりESGに取り組んでいるかはチェックするけど、ESGスコアが高いと株価が上がるかどうかなんて知らん。こういうタイプです。アルゴリズム作りに全力を傾ける人もいます。オーバーフィッティングしないレベルで、いかにバックテストで好成績の出るアルゴリズムを作れるかに全力を注いでいたりします。まさにプロ、ですね。
同じようなプロでも、セールスのプロもいます。親身になって話を聞き、人間味あふれ、本当に良い人柄だなぁというような人。ただし勧めてくる商品はカイシャが売ってこい!と決めた商品で、つまりそれは手数料が高く、カイシャが儲かる商品です。セールスのプロのとっては、いかに売るかが最大の注力点、というか注力点のすべてで、この商品を買った顧客が得するか損するかは考えてもいません。売っている商品が悪いものだという認識すらない可能性も高いです。売ることにしか関心がないからです。セールスの電話をかけてくる銀行員や、窓口の待ち時間に話しかけてくる行員にもこういうタイプがいますが、セールス能力が低いので、よほどの人でないとこれに引っかからないのはありがたいことです。
金融業界は汚いけど仕方ないよね人種
問題なのは3つ目のタイプです。投資で儲かるかもしれないけど、本当に儲かるのはあなたじゃなくて、ワタシ。この投信はいいですよ!儲かる確率がとても高いと思います(ワタシが儲かる確率)。一昔前の対面型証券会社には、こういう人がけっこう多かったようです。勧める商品は、リターンの期待値が高いものではなくて、もちろんカイシャが儲かる手数料の高いものです。
個別株であれば、回転売買を提案してくるような話もまだ聞きます。「これは上がりすぎたのでそろそろ売りどきですよ」「この銘柄はもう戻らないので、塩漬けにするのではなく期待できる銘柄に買い替えましょう」。こうしたトークも定番です。株のことはよく分からないし、銘柄の分析なんてできないので、プロの証券マンのアドバイスに従おう。こう思ってしまう人もいるわけです。
派生型として、真面目に動向を分析したり、評価したりするのですが、核心については「この点は、立場上、何も言えません。イヒヒ」となってしまうタイプ。どういう立場なのかというと、この点は真実なのだが、自社が売りたい商品と反する内容になるので、言えませんということなわけです。明らかに確信犯です。一見すると、中立的な立場で話をしているように思うので、最も危険なタイプでもあります。
彼はいかにして投資を憎むようになったのか
さて、では投資を怪しんで訝しむ人は、どうしてそうなってしまったのでしょうか? 彼が投資を憎むようになった原因は何でしょうか? 自分が実際に投資して、痛い目にあったという人は、案外少ないのではないかと思います。なぜそう思うか。
まず類型1の株式メイン長期投資派の人に勧められたのなら、まぁだいたいにおいてけっこう儲かっているはずです。直近コロナショックがあったとはいえ、リーマンショックから10年以上、相場は上がり続けてきたのですから。
類型2のプロの場合、投資を勧めたり勧誘してくることはまずありません。セールスのプロにあたってしまった場合、損をしてもそのプロに言いくるめられているでしょう。
類型3の場合、そもそも投資に自信がなく誰かに頼りたいという人が、この人達のカモになります。資産運用に限っては、よく分からないからプロに相談したい、は、悪い結果になる可能性のほうが高いとさえ言えるのではないでしょうか。
ではどうして彼は投資を憎むようになったのでしょう。これは彼の周りの家族や友人が、類型2や類型3にひっかかって、大きな損をしているのを見たというパターンが多そうです。投資をした本人は損をしてもそれなりに納得しているが、彼から見ると、どうしてこの人は投資なんてバカなことをしたんだろう? と思うわけです。
あなたの周りに投資家はいますか?
よく、米国で株式投資が盛んな理由は、親や祖父などの家族が投資をしていて資産を大きく増やしているのを見てきた子供は、自分も当たり前のように投資をするからだ、と聞きます。逆に、日本の子供たちは、親が株式投資をしてバブルが崩壊し、大損した姿を見てきたわけです。
そして投資情報といえば、仕手株やインサイダー的な話がほとんどで、どの株がストップ高だとか、値上がり率トップはここだ、というような需給に基づく情報がもてはやされてきました。さらに、限りなく合法的な(ただしテラ銭も小さい)ギャンブルであるFXが大流行し、その後はFX以上のバクチである仮想通貨に日本人は群がりました。こんな状況では、投資で儲けている人はギャンブラーで、普通の人は投資なんて手を出したら火傷する。そう思っても仕方ありません。
うまく行っている人の姿を見て、正しいやり方を学び、自分もトライするものなのです。では、あなたの周りに成功している投資家はいますか?
少なくともぼくが投資を始めた20年ほど前に比べれば、インデックス投資は市民権を得て、TwitterなどのSNSでも簡単に投資家とつながれるようになりました*1。参考になる投資家を見つけられれば、少なくとも「投資を煽るなんて」という意識は減ってくるんじゃないかと思います。
*1:コミュニティとしてのニフティサーブは96年くらいがピーク、mixiの全盛期は2009年くらいまで、FacebookやLINEはリアルな知り合い以外のコミュニティには発展していない印象です。そこからはTwitteの時代ですね。ちなみに、ぼくのmixiのIDは3ケタ、Twitterの初投稿は2007年4月でした。