ウォーレン・バフェット率いるバークシャー・ハサウェイといえば、数々の伝説を残してきている投資ファンドです。「ハイテクは分からない」「よく知っているものにだけ投資する」と、以前バフェット本で読んだ記憶がありますが、このところのバフェットのポートフォリオは様変わりしています。調べてみました。
このところS&P500に負けている
よく世界で最も偉大な投資家といわれるバフェットですが、実はここ数年はS&P500に負けています。1997年から現在までの23年間を見ると、S&P500が6.7倍になっているのに対し、バークシャーは8.8倍。CAGRで、S&P500が8.42%、バークシャー9.66%とさすがのバフェットです。
ところが、ここ10年だけ見ると、S&P500が12.86%なのに対し、バークシャーは10.86%。年初来でいえば、S&P500が2.3%なのに対し、バークシャーは▲13.56%です。下記のグラフを見れば分かる通り、この結果はほぼ、コロナショックからの回復が追いついていないところにあるように見えます。
バフェットのポートフォリオ
ではバフェットのポートフォリオは現在どうなっているのでしょうか? 実はグラフにするとこのとおり。あれだけハイテク嫌いと思われていたバフェットですが、実はポートフォリオの44%はApple株なのです。
そのほかの銘柄も確認してみましょう。データはgurufocusから。
BACはバンカメ。JPモルガン・チェースに続き、総資産全米第2位の銀行です。そういえば、バフェットはJPモルガンは手放してしまいましたね。
KOはコカ・コーラ。AXPはアメックス。このあたりは10年以上前に読んだバフェット本で、バフェットが愛してやまない典型的な銘柄として覚えています。
KHCはクラフト・ハインツです。2013年に買収して非公開化したハインツを、2015年にバフェットがクラフトフーズと合併させました。世界第5位の食品メーカーです。現在バークシャーは、同社の27%を所有する筆頭株主です。投資しているというより、実質的なオーナーなわけですが、合併後業績は低迷。株価も低迷しています。バフェットのポートフォリオの足を引っ張ったといわれています。
MCOは格付けで有名なムーディーズ。WFCはウェルズ・ファーゴで、全米3位とも4位とも言われる銀行です。バークシャーは8.5%を保有する筆頭株主です。USBはUSバンコープで、米国最大の地方銀行といわれています。JPモルガンやゴールドマン・サックスを手放したとはいえ、バフェットの金融好きが分かります。
DVAはダヴィータ。透析センターを運営するヘルスケア銘柄です。バフェット銘柄の中で唯一に近いヘルスケアセクターですね。
16年からAppleを買い続けたバフェット
このポートフォリオを見て注目すべきはやはりAppleです。バフェットが何かを買うとそれだけで話題になるのですが、どのくらい買ったのか調べると、ほぼ誤差といえるようなボリュームのことがほとんどです。その中で、Appleだけは別格です。
上記のように、バフェットは16年から継続的にApple株を買ってきました。そして16年から現在までのAppleの株価推移がこれです。直近で上昇率は400%を超えています。つまり5倍になったということですね。購入時の価格のままなら、ポートフォリオ内のシェアは10%程度に過ぎなかったということです。
ちなみに、上記のグラフの青線はバークシャーの株価推移。ポートフォリオのうち44%をAppleが占めているにも関わらず、ぱっとしません。コロナショック後、Appleが急上昇したのに対し、バークシャーは横ばいです。
他のポートフォリオ内の主要銘柄も見てみます。なるほど、金融銘柄のBACも、生活必需品のKOも低迷したまま。まったくコロナショック後の回復が見られません。もしAppleを持っていなかったら、バークシャーのポートフォリオもひどいことになっていた感じですね。
移り変わるポートフォリオ
今度はポートフォリオを銘柄ではなく、セクターと産業別で見てみます。セクターではAppleの影響が大きく、いまやポートフォリオの半分がITです。そして、金融が30%、生活必需品が15%となっています。
産業別で見ると、ハードウェアテクノロジーというのはつまりAppleですね。そして銀行が19%、飲食料が15%、その他金融が13%となっています。ここまで見て、バリュー投資の神と言われたバフェットのポートフォリオの変わりように驚きました。
テクノロジーセクターの比率はApple躍進で半分程度まで高まりましたが、実は2011年から17%ありました。2015年にはいったん10%を切りますが、その後はAppleの買い増しもあり、ぐんぐん上昇してきました。
一方で、ずっと高い比率を保っているのが金融セクターです。多くの期間で4〜5割を占めており、減っても3割はキープしてきました。
テクノロジーセクターの上昇とは逆に、比率が減っているのが生活必需品系です。2009年には4割以上ありましたが、徐々に減り、現在は15%程度です。
ちなみに直近だと、カナダの金鉱株であるバリック・ゴールド(GOLD)を買ったことが話題になりましたが、ポートフォリオに占める比率はわずか0.28%。このあとの状況を見て、Appleのように買い増しするのかもしれませんが、現時点ではお試しという感じなのでしょう。
現金は積み上がり約40%に
さてバフェットといえば、どのくらいの現金比率なのかというのもいつも話題です。バフェットが現金を積み増しているということは、株価が割高だと考えているということだからです。
下記は、ポートフォリオ内の現金(緑)と債券(赤)、株式(青)の比率の推移を表したものです。20年間の長期推移ですが、現在の現金比率は40%に迫っており、かなり高い水準だということが分かります。また、リーマンショック直前のタイミングでは、かなり現金を減らして株を買っていたんですね。また、当時債券比率が20%もあって、リーマンショックでポンっと上昇していることも分かります。
バフェットの神通力は今後どうなる?
これらを見て感じたのは、御年89歳にもなるバフェットですが、この数年でこれまで敬遠していたITセクターをポートフォリオの44%まで積み増すような、大変革をしているのはすごいということです。もちろん、後継者候補といわれるような優秀な部下がいますので、彼らの目利きではあるのでしょうが、最終的にそれにGOを出したのもバフェットです。
一方で、IT銘柄に注目したというよりも、Appleという銘柄自体に注目したという見方も正しいでしょう。ずっとMoat=堀を築く企業を買うといってきましたが、まさにAppleはその強力なブランド力で、高単価なデバイスをものすごい数、売っています。
またバフェットの市場の見極めが正しいのかどうかは、正直分かりません。現金比率が高いこと、また年次総会などでの発言を読むと、現在の市場が割高だと考えているのは事実でしょう。肌感覚的にもこの一ヶ月くらいのハイテクIT銘柄の上昇はバブルじゃないかと感じるほどです。
それでも、これだけの現金を積み上げているということは、裏を返せば、近く暴落か大きな調整があると考えているということでもあります。コロナは結局暴落にはなりませんでしたが、すさまじい金融緩和によって官製バブル相場の様相です。これが弾けたときのダメージはすごいことになるでしょう。それを睨んでキャッシュを積み上げているなら、さすがはバフェットということです。
一つ思ったのは、JPモルガンやゴールドマン・サックスを売却し、一方でいわゆる銀行株は保有し続けていることは、何を暗示しているのかということ。現在は世界的におそるべき低金利ですが、これが金利上昇に転じた時、その恩恵を受けるのは金融セクターです。本当は保険セクターでしょうが、次が銀行になるでしょう。今が強制的な低金利とカネ余りによるバブルならば、いずれ崩壊したときにどうなるか。インフレ再燃、金利上昇となった場合、いまは厳しい金融セクターは息を吹き返す可能性があります。
いやはや、著名な投資家のポートフォリオを眺めるのはいい刺激になりますね。また別の投資家のポートフォリオも調べてみたいと思います。