FIRE: 投資でセミリタイアする九条日記

九条です。資産からの不労所得で経済的独立を手に入れ、自由な生き方を実現するセミリタイア、FIREを実現しました。米国株、優待クロス、クリプト、太陽光、オプションなどなどを行うインデックス投資家で、リバタリアン。ロジックとエビデンスを大事に、確率と不確実性を愛しています。

積み立て投資と一括投資 シーケンスリスクをどう見るか

株式のリターンは安定していないので、少しずつ積み立てることで、変動リスクを抑えることができる。そう考える人が多いでしょうし、実際そんな説明がされてきています。しかしそれは本当でしょうか?

 

逆に、資金を一括して投資する方法と比較してみます。積み立て投資では、初期のころは運用資産が小さく、時が経つにつれて金額が大きくなります。つまり、投資エクスポージャ(リスクにさらしている資産額)は、最初は小さくて次第に大きくなります。一方で、一括投資ではエクスポージャの変化は市場の変化だけに依存します。

 

これはどういうことを意味しているでしょう?

掛け算は順序を入れ替えても答えは変わらない

投資は掛け算の連続です。ある年に10%上がり、翌年15%下がる。再び20%上がり、さらに10%下がる。100万円を一括投資していたら、まず110万円になり、それが93.5万円に、112.2万円になって、100.98万円に減る。こういう変化です。

 

数式にすると、100万 ✕ 110% ✕ 85% ✕ 120% ✕ 90%ですね。平均(幾何平均、GeoMean)を取ると約100.24%です。ここでのポイントは、この上がり下がりがどのような順番で来ても、結果が変わらないということです。最初に10%上がろうと、10%下がろうと、資産が増えているときに好調相場が来ても、資産が小さいときに好調相場でも、暴落が最初に来ても資産が大きく増えたときにきても、その順番はリターンに影響しないわけです。

 

具体的にいえば、順序が違うだけならば、資産の小さいときにリーマン・ショックが来ても、資産が大きくなったタイミングでリーマンショックが来ても同じということです。上昇した年と下降した年をすべて合わせた、投資期間全体での平均リターンが同じなら、その順番は影響しません。

 

順番を入れ替えても結果は同じ。幾何平均が変わらない限り、最終的なリターンは同じになります。100.24%の4乗は100.98万円。これが一括投資の考え方です。

 

次のグラフを見てください。これは37年間に渡って投資した場合、年によってリターンが異なると、資産額はどのように変化するかを表したものです。パターンAからE、そしてRと6つのパターンそれぞれについてグラフ化しています。

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一見すると青いパターンAの調子が良さそうです。25年に渡って、他のパターンを圧倒的にアウトパフォームしています。ところが後半の10年でほかに一気に追いつかれ、最後の37年目には、すべてのパターンが同じ金額に着地しました。

 

なぜこうなったか? 実際の世界株式の1985年から2019年までの過去37年のデータを使ったのが青線のパターンAです。そして、Bでは1984年から4年間を最初ではなく最後に回し、同じように8年間を回したのがC、12年を最後に持っていったのがD、16年分を移動させたのがEです。そしてRは、リターンの並びの順番をひっくり返しました。

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いずれにしても最終的なリターンは、幾何平均の年率108.9%に落ち着きます。掛け算は順序を入れ替えても結果は変わらないのです。

 積み立て投資は順番が重要になる

ところが、積み立てた場合、この理屈は成り立ちません。どのタイミングで株価が上昇し、どのタイミングで暴落するかが最終的なリターンの鍵を握ります。当然ながら、積立額が大きくなったときに暴落が来たら悪影響は大きく、積立額が小さいときに好調相場が来ても大きな資産増加は見込めません。

 

先のグラフと同じように、パターンAからRまで、積み立て投資をした場合にどうなるか見てみましょう。初期金額を100として、毎年30を積み立てるシミュレーションです。

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今度は最終的に大きな差が付きました。現実世界のリターン実績だったパターンAは最も資産額が小さく、ほかの半分にしかなっていません。一方で、パターンEは頭一つ資産額が多い結果です。

 

それはそうです。30年、40年といった期間には、ITバブルもあれば、リーマンショックもあり、コロナショックもあります。暴落の来るタイミングが、運良く投資初期ならいいのですが、積み立て額が貯まった後半に暴落がくると、その影響は甚大なことになります。また、積み立て初期が好調な市況だと、気分はいいかもしれませんが、反面後半が不調だと最終的なリターンとしては悪くなってしまうかもしれません。

 

このように、一括投資と違い、積み立て投資は好調な年と厳しい年の順序が大きく最終的なパフォーマンスに影響するわけです。

最終的に一定の値に収束する株式リターン

長期株式投資を正当化できる最大の理由は、暴落や暴騰があっても、長期でみれば株式の平均リターンは9%程度に収斂することです。短期では、50%を超える上昇を見せたり、40%もの下落を見せる株式市場ですが、長期に投資をし続けるとそれは見事に一定の値に収束することがわかっています。

 

下記は1970年からの世界株式の年リターンの推移と、1970年からその時点までの平均リターンの推移です。1年、1年で見ればものすごくボコボコしている株式市場のリターンですが、10年、20年単位で見れば、見事に安定したリターンになっていることが分かります。

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そして思い出してほしいのは、一括投資であれば、どのタイミングで始めても、最終的なリターンは同じだということです。暴落と暴騰の順序は関係ありません。長期に投資する場合に限っては、平均リターンだけがポイントになります。

 

そして平均リターンがこれだけ安定しているということは、株式のリターンが一定の平均回帰性を持っているということの証拠だともいえるでしょう。つまり、リターンは循環するものであり、歴史は繰り返すということです。

 

ちなみに1970年からの平均ではなく、10年移動平均も見てみましょう。先のグラフの赤線を取り出してクローズアップし、移動平均を重ね合わせてみました。

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なるほど10年移動平均だとさすがに多少デコボコは出てきますが、それでも101%から123%の間に収まっています。これが最終的なリターンに直結する平均リターンであることを思い出してください。最悪である年率101%となった10年であっても、10年で10%資産は増加しています。またさらに平均すると直近20年でも6%前後となることも分かります。

シーケンスリスク(Sequence Risk)

このように、株式投資のリターンは長期で見ると一定に収束していきます。そして投資は掛け算なので、暴落と暴騰の順序は影響しません。

 

しかし、これは一括投資に限った場合の話です。資産をリスクにさらすエクスポージャが次第に増加していくことになる積み立て投資では、資産が多い時と少ない時とで、市況の影響の受け方が大きく異なります。そのため、いつの段階で暴落が来るのか、いつ上昇相場になるのかといった、順番が重要になります。このことをシーケンスリスク(Sequence Risk)といいます。

 

もっとも、未来の相場のことなんて分かりませんし、ましてやその順番なんて知りようもありません。実際にシーケンスリスクが問題になるのは、マイナスの積み立て、つまり取り崩しを行っていく時です。この時、積み立てと同様にエクスポージャが変化していくため、市場のリターンの順序が大きく影響するわけです。

 

しかし、積み立て投資のようなドルコスト平均法のほうが、リスクを減らせると考えていたら、それがどのようなリスクを減らしているのか、よくよく考えたほうがいいかもしれません。積み立て投資は毎月の給与から一定額を投資に回すための仕組みであって、必ずしもリスクを減らすものではなく、投資を始めたタイミングによっては資産額に大きな影響が出てきてしまいます。

 

もちろん、それでも20年、30年に渡る投資ならば、最終的に年平均リターンは収斂していくでしょう。そういう意味でつみたてNISAは理にかなった投資法ではありますが、果たしてそれがリスクを減らすのか、いったい何のリスクを減らすのかはよく考える必要があるように思います。 

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