FIRE: 投資でセミリタイアする九条日記

九条です。資産からの不労所得で経済的独立を手に入れ、自由な生き方を実現するセミリタイア、FIREを実現しました。投資歴20年以上。米国株、優待クロス、クリプト、太陽光、オプションなどなどを行うインデックス投資家。ロジックとエビデンスを大事に、確率と不確実性を愛しています。

ディスラプトが導くデジタル独裁国家と無用者階級 書評『21 Lessons』

ディスラプトテクノロジー、または技術的破壊というのは、テクノロジーが既存の産業構造を破壊して新たなものに作り変えることをいいます。テックスタートアップは、ディスラプトを心に抱いて起業しますし、既存の業界はディスラプトされないように、または自らがうまくディスラプトする側に回れるようにと考えています。

 

しかし、AIと生命工学がもたらすディスラプトは、産業構造の変化にとどまらず、国家と人間自体をも、根本的に変革してしまうかもしれません。

 

自由主義のビュッフェAIが雇用を奪うはオオカミ少年か?、そして自由意志はそもそもあるのかに続き、『21 Lessons』から今回はディスラプトについて。

なぜ一般大衆は搾取される対象から、健康と教育と福祉の対象になったのか 

 最初に、認めたくない事実を歴史から紐解いてみましょう。なぜ、封建制度の元で搾取される対象であった一般大衆が、次第に権利を獲得し、人権を得、健康や教育や福祉に多大なお金を費やす対象になったのか?です。

 

ちょっと遠回りになりますが、戦争が近代戦に移行したのはいったい何の登場がきっかけだったのでしょうか。『現代経済学の直観的方法』には、「陸戦に本当に決定的な革命をもたらしたのは、鉄道の登場なのである」と書かれています。

 

鉄道が現れるまでは、物量戦は不可能でした。朝から晩まで砲撃を加えようにも、弾薬が足りません。せいぜい軍馬が運んできたものを打ち尽くせば、当分の砲撃は中止です。鉄道以前は、補給という大きな問題のため、軍隊のサイズにも大きな制約が課されていました。

例えば8万人が軍隊のサイズの上限だとした場合、敵も味方もその限度の枠内で軍隊を編成し、兵力の数以外の指揮官の能力や兵の練度・士気などといった要素で優劣を競い合っていたのである。

『現代経済学の直観的方法』

ところが鉄道がこれを変えます。いくらでも兵士を戦場に送り込めるようになると、基本的に数の勝負、多いほうが勝つというように戦争のルールが変わったわけです。そして、前線がいくらでも兵力や物資を要求するようになると、その限界値は後方である国家の体力で決まるように変わりました。どれだけの兵士を動員できるか、どれだけの補給物資を生産できるかです。これをきっかけに、中世のロマンあふれる戦争から、戦いは国家の総力戦へと移行していきます。  

 

こうした背景のもと、国家は一般大衆の質の底上げを進めます。『21 Lessons』でユヴァルは次のように書いています。 

民主国家と独裁国家の両方で、政府は一般大衆の健康と教育と福祉に多額の投資を行なった。なぜなら、生産ラインを動かすためには何百万もの健康な労働者が必要だったし、 塹壕戦を行なうには何百万もの兵士が欠かせなかったからだ。 

戦争が貴族や騎士たちのものから、徴兵された国民全員によって行われるものに変わり、全産業を戦争に振り向けることが勝敗を左右する総力戦になるに至って、一般大衆は搾取の対象から、投資すべき対象に変わったというわけです。「一般大衆がかつてないほど重要になった」のが、近代だというわけです。

AIとロボット兵士が変える戦争 

ところがこの戦争が変わろうとしています。アフガニスタンには無人機が飛び、カリフォルニアでそれを操縦する兵士は軍人というよりもゲームの達人です。さらにはAIを組み込まれ、戦時法に完全に則って、冷静沈着に戦闘任務をこなすロボットが戦争を行うようになるでしょう。

 

こうした無人機や自動制御のロボット兵士が戦争を遂行するようになると、何が変わるのでしょうか。そのほかの産業で、非熟練労働者がAIに職を奪われるのと同様に、兵士の職が様変わりするだけではありません。

ロボット兵士の戦争

ロボット兵士の戦争

 

大量の兵士を動員し、総力戦を勝ち抜くために行われてきた一般大衆への投資が、不要になっていくのです。戦争はロボットが行い、生産もAIとロボットが行う世界。ここでは、重要だった一般大衆はもはやいません。工場で生産されるロボットと、それを動かすAI、そしてそれらを管理する知的専門職の人がいれば、事足りるわけです。

 

一般大衆は、職をなくし、社会からの必要性(とはいっても軍事的ですが)も失っていきます。専門職と、マックジョブと呼ばれる単純労働者へと別れてきた階級分離がさらに加速し、単純労働者は労働のニーズさえもない無用者階級へと階級分化してしまう可能性があるわけです。

テクノロジー革命は間もなく、何十億もの人を雇用市場から排除して巨大な「無用者階級」を新たに生み出し、既存のイデオロギーのどれ一つとして対処法を知らないような社会的・政治的大変動を招くかもしれない。

 ユヴァルはこのように警告します。一般大衆が重要だった時代から、不要の時代へ。いま世界はその道を歩み始めているではないかということです。

遺伝子工学による階級分化から種の分化

ちょうど10月7日に、エマニュエル・シャルパンティエ教授とジェニファー・ダウドナ教授にノーベル化学賞の授与が決まりました。これは、クリスパー・キャス9(CRISPR-Cas9)と呼ばれるゲノム編集の技術の基礎研究によるものです。

 

CRISPR-Cas9は「高校生でも扱える」と言われるほどの画期的な遺伝子編集技術で、iPS細胞の研究でノーベル生理学・医学賞を受賞した山中伸弥教授は次のように話しています。

山中 たとえば、ミオスタチンと呼ばれる筋肥大を抑制する遺伝子をゲノム編集によって破壊すると、種を超えていろんな動物の筋肉量が増えることが知られています。

遺伝情報に基づいて外見的、生理的に現れた性質を「表現型」と呼びますが、病気を含め、いろいろな表現型をゲノム編集によって実際に変えられることが示されています。

山中伸弥が「人類は滅ぶ可能性がある」とつぶやいた「本当のワケ」

一方で、ヒトゲノムの解析は2003年に完了しています。2018年にはCRISPR-Cas9を使い、HIVに耐性をもたせることを目的としたゲノム編集を受精卵にほどこした、遺伝子操作ベビーが中国で誕生したことが話題になりました。すでに国家的事業でなくても、一博士がデザイナーズベイビーを作り出せる時代になっているということです。

 

これまで貧富の差というのは、たかが住むものや着るもの、雇用などのによる上下関係にとどまるものでした。ところが、デザイナーズベイビーが可能になれば、もはや人類は単一の種ではなくなるでしょう。 

ところが2100年までには、金持ちはスラム街の住民よりも才能や創造性や知能の面で本当に優位に立っているかもしれない。能力に関して、富める人と貧しい人の間にいったん本当の溝ができてしまえば、それを埋めることは不可能に近くなる。もし、富める人が優れた能力を使ってさらに豊かになり、多くのお金を使えば能力を強化した体や脳を買えるなら、その溝は時間とともに拡がるばかりだろう。

 自分の子供のIQをお金で買えるなら、背の高さを買えるなら、病気にならない身体を買えるなら……。それがいくらであってもお金を費やす人は間違いなくいます。一方で、費やせる人は極めて限られているでしょう。

 

資産だけでなく、知的肉体的能力も優れた人たちが、さらに自分の子孫を改良していく中で、それはもはや単一の種だとは言えなくなっていくでしょう。

生物工学とAIの普及の組み合わせという、この二つの過程の相乗効果は、一握りの超人の階級と、厖大な数の無用のホモ・サピエンスから成る下層階級へと人類を二分しかねない。 

民主主義からデジタル独裁国家へ

AIとロボットがもたらす変化は、これだけではありません。どんな体制の国家が強いかをも、変えてしまうかもそれません。20世紀は民主主義が勝利した時代でした。全体主義と共産主義と民主主義。この三つ巴の戦いで勝利したのは民主主義でした。  

民主主義は、情報を処理して決定を下す力を、多くの人や組織に行き渡らせるのに対して、独裁制は情報と権力を一か所に集中させる。二〇世紀のテクノロジーでは、あまりに多くの情報と権力を一か所に集中するのは効率が悪かった。十分な速さですべての情報を処理し、正しい判断を下す能力を持っている人は誰もいなかった。ソ連がアメリカよりもずっとお粗末な決定を下したのも、ソ連経済がアメリカ経済に大きく後れを取ったのも、一つにはそのためだった。

政府がすべてを管理するのではなく市場に委ねる。全知全能の政府が決めるのではなく、全国民が有権者として判断する。そうした自由主義、民主主義は、独裁的な国家よりもうまく運営されてきました。しかし、AIの登場によってこれが変わるかもしれません。  

AIを使えば、集中型のシステムのほうが分散型のシステムよりもはるかに効率が良くなるかもしれない。

これを目に見える形で明らかにしたのはコロナ禍でした。日本のような民主主義国家では、誰がどこにいって誰と会ったのかを政府が管理することはありません。接触確認アプリCOCOAはリリースされましたが、これをインストールするかどうかは本人の判断に任され、しかも詳細な情報も本人以外に伝わらないようにプライバシーは守られています。

 

ところが独裁的な政権の国では違います。目に見える強制はしなくても、実質的に行動追跡の強制が可能だし、その情報を政府が利用することも可能です。これだけ見ると恐ろしい世界ですが、逆にいえばコロナと戦う上ではこの上ない武器になります。AIの登場によって、処理しきれない量だった情報は、あればあるほどよいビッグデータに変わりました。 

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このことはコロナに限りません。医療情報はプライバシーの最たるものですが、実は医学研究においては非常に重要な情報です。特にビッグデータを飲み込んで学習するAIにとっては、どこに住むどんな属性の誰がどんな病気にかかっており、そのDNAデータがどうなのかが分かれば、急速に有用な学習が可能になるでしょう。これはプライバシーを重視する民主主義の国では実現不可能なことです。 

独裁的な政府が全国民にDNAをスキャンさせ、医療データをすべて中央当局に提供するように命じれば、医療データが厳密に私有されている社会よりも、遺伝学と医学研究の分野で計り知れないほど優位にたてる。 

AIがデータの有用性を変え、最適な国家体制を変える 

20世紀に起こったことは、戦争の総力戦化による国民全員参加でした。そのためには全国民が教育を受ける必要があり、国家の一員であると心から信じられるような仕組みと権利が必要でした。ここに民主主義がしっかりとマッチし、人々はその土地土地の住民という意識から、「国民」という意識に切り替わりました。こうした変化をうまく乗り越えた国は、戦争で優位にたち、また経済発展もスムーズに進みました。

 

ところが、AIとロボットの登場は、ほとんどの国民の必要性を奪ってしまう可能性があります。そのとき、国民の多くは「無用者階級」に堕ちることになる公算が高いでしょう。

 

そして人類が到達した「ほかのどれよりもマシ」という政治体制である民主主義も、頭脳のハッキングと、分散化よりも集中というAIによるデータ処理の革新によって覆ってしまうかもしれません。ほかの体制よりもうまく機能していた民主主義が、デジタル独裁主義に負けてしまう可能性があるのです。

 

ここまで考えて、ユヴァルはいかに技術的ディスラプトを遅らせられるか? について論じます。いま世界が直面している人類滅亡につながる危機とは3つあります。「核戦争」「気候変動」そして「技術的破壊」(技術的ディスラプト)です。核戦争は各国の合意のもと、少なくとも大国同士の核戦争は封じ込められています。気候変動は、合意が取れたとは全く言えませんが、少なくとも人類共通の課題の1つとして認識されています。ところが技術的ディスラプトという問題に気づいている人はまだごく一部です。

 

「AIや生物工学のような破壊的技術を規制するためにどんな行動を取るか?」。ユヴァルは、核戦争や気候変動への対処法と同じように、政治家にこれを聞くべきだと主張します。少なくとも国政に携わる政治家は、世界的地球的サイズで起こるこうした問題への認識を持つことが不可欠です。これらに対するビジョンがない政治家は、自国優先主義でしかなく、人類のグローバルなリーダーではないでしょう。

 

「国益に基づく非常に狭い見方しかできず、グローバルな協力を激しく非難する政治家が多すぎる」とユヴァルがいうように、世界を襲いつつある根源的な問題が差し迫りつつあるのに、世界は自国優先主義、分断主義に陥ろうとしています。健全なナショナリズムは民主主義にとっても重要なことですが、世界の課題に対しては何のビジョンも持ち得ないのです。

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