FIRE: 投資でセミリタイアする九条日記

九条です。資産からの不労所得で経済的独立を手に入れ、自由な生き方を実現するセミリタイア、FIREを実現しました。米国株、優待クロス、クリプト、太陽光、オプションなどなどを行うインデックス投資家で、リバタリアン。ロジックとエビデンスを大事に、確率と不確実性を愛しています。

仮想通貨としてAppleが買える時代 FTXの株式トークンに見る未来

もはや資産のトークン化というのは止められない流れなんだと思います。10月末に、仮想通貨デリバティブの先頭を走るFTXは、米国有名株式をトークン化した「Fractional Stocks Offerings(フラクショナル・ストック・オファリング)」のサービスを開始しました。これによって、仮想通貨の扱いで株式を売買できます。

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株式をトークン化して売買

この株式のトークン化というのは、株価に価格が連動したトークンを売買すると考えればOKです。ただし、米国株は1株からの売買ですが、トークンはさらに小さな刻みで値付けされているので、少額から扱えます。例えばAmazonの株価は3050ドルですが、トークンは0.001単位の3.05ドルから売買できます。

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これらは仮想通貨扱いなので、24時間365日取り引き可能。さらに、先物も取り扱っているようです。当初の報道ではBitcoinでトレードできるような感じでしたが、実際のサービスを見ると、USD建てだけのようですね。

 

法規制の問題で、米国やイラン、シリア、北朝鮮などの国民はアカウントを作れません。また、米国、カナダ、EU、香港、英国、シンガポールなどの居住者は取り引きを許可されていません。

 

裏側にはドイツのCM-Equityがいて、そこがトークンと同量の実際の株式を保有して裏付けになっているようです。FTXが窓口となって、ユーザーは実際にはCM-Equityを仲介業者として口座を持ち、サードパーティの証券会社が実際の株式は管理しているようです。1株単位まで買い付ければ、実際の株式と交換することもできます。

 

ちなみに配当金も支払われるそうです。

株式をトークン化すると何が変わるか

さて株式をわざわざトークンにすると何が変わるのでしょうか。1つは、取引所の中のデータとしての保有ではなく、手元のウォレットに引き出せる可能性です。これができれば、取引所の状態に限らず、資産を実際に自分の手元に置くことができます。昔の紙の株券の復権です。

 

すると、トークンを他人に譲渡することも可能になります。ある意味匿名性をもった株式の売買が可能になるわけです。

 

ただし、FTXの株式トークンを実際に買ってみないと、出庫が可能なのかは分かりませんでした。ヘルプや検索にもそれらしきことは書いてありません。手元のウォレットに保管できたり他人に送信できたりすると、いろいろとややこしい問題が発生することは間違いないので、出庫の機能は提供していない可能性が高いと思います。ただ、トークンであるということは、原理的には可能なはずです。

何でもトークンになる時代

日本でも、5月にSTOが金商法で解禁され、さまざまなデジタル証券(トークン化された証券)の発行が可能になりました。例えば、こんなイメージです。

 

社債をトークンとして発行して投資家に販売します。紙の手続きがいらないため、発行手数料はたいへん安く済みます。受け取った投資家は、社債を他人に容易に譲渡できます。原理的にはBitcoinを送金するのと同じです。さらに、発行企業側は金利の支払いをスマートコントラクトで実行できます。投資家に銀行口座を登録してもらってそこに振り込むといった面倒な事務処理をとらなくても、トークン保有者に予め決められた金利を自動的に支払う(仮想通貨で)ことも可能になるわけです。

 

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※LIFULLが米STO大手のSecuritizeと組んで提供する不動産のトークン化

 

さらに、土地やさまざまな権利、例えば絵画の所有権などをトークン化することも始まっています。これは、トークンとは別にリアルなブツが存在するので、ブツの所有者が誰なのかを、登記する代わりにトークン所有者をブツの所有者とみなすという感じになります。

 

土地は法務局に登記することで、誰が所有者なのかを証明できるわけですが、土地の所有権をトークン化してしまえば、トークンを持っている人が所有者であるということにになります。とっても簡略化して言ってしまえば、ですけど。

トークン化が進むと現れる矛盾

トークンは流通コスト、売買コストが非常に低く、管理も容易です。というわけで、世の中のさまざまなものがトークン化される流れは止まらないでしょう。というか放っておけば、あっという間にすべてがトークン化されると思います。CBDC(中央銀行デジタル通貨)の話をするまでもなく、仮想通貨の世界ではUSDT、USDCなどのステーブルコイン、つまり法定通貨をトークン化したものは普通に流通しているわけですし。

 

では、この流れを何がせき止めているかというと、各国の規制です。

 

アングラ感の強いBitcoinから始まったのも理由の1つですし、マネロン規制がトークン化を阻む名目になっています。そして何よりも、トークン化することで課税体系が破綻するというのも大きいでしょう。

 

例えば日本の税制を見ると、株式と先物、仮想通貨はそれぞれ別の箱で損益通算され、それぞれ税率も損失繰越の制約も異なっています。株式をトークン化すれば仮想通貨扱いになるわけで、それは課税当局としては困ったことになります。まぁ現時点では、仮想通貨の課税体系のほうが厳しいので、なんとも言えませんが、逆にBitcoinを投資信託化してETFとして上場させたら、株式扱いの税制にせざるを得ないでしょうから、これがまたややこしい。

 

法人で取引すれば、すべて合算して損益通算でき、繰越も法人税の制約一つなので、ここまで複雑に分かれている個人の税制がおかしいとは思いますが、まだ統一には時間がかかるでしょう。

 

課税面で本質的な問題は、それがどの国の課税に当たるかだと思います。日本含む多くの国は「属地主義」を取っています。これは、日本に居住している人は、得た所得に対する税金を日本に収めなさいというものです。一方で、アメリカやフィリピンでは「属人主義」といって、アメリカ国籍の人はどこに住んでいてもアメリカに税金を払わなければなりません。

 

これは法人にも適用されるため、例えば税率の低いシンガポールやアイルランドに法人を設立したら、税金はシンガポールやアイルランドに支払うことになります。GoogleやAppleなどがこれを利用して、利益を低税率の国に作った法人に集約して、課税を減らしていることがたびたび話題になりますが、こういう話です。

 

さて今でこそこうした世界をまたにかけた節税策を取れるのは世界的大企業だけです。でも、取り引きがトークンメインになったらどうなるでしょう。トークンは銀行を使わずに送金できるため、世界のどこへでも低コストで送れ、取引できます。例えば、アイルランドに作った法人が持つウォレットから、トークンの取り引きをすれば、その利益にかかる税金はたいへん少ないでしょう*1。そして、ウォレットの所有者はアイルランドの法人だとしても、そのウォレットを実際に管理するのは秘密鍵を持っていればOKで、つまりは日本にいながら変わりなくトレードできるはずです。

 

もし仮想通貨だけでなく、さまざまな資産がトークン化されたら、税率の低い国にペーパーカンパニーを設立して、その法人が所有するウォレットで、資産の取引をするのが普通になるかもしれません。少なくとも送金や各種手続きはすべてデジタル化されていて、現地に行く必要はまったくないのですから。

 

いまでも電子国家として知られるエストニアでは、法人設立のハードルが極めて低く、日本にいながら10分程度でエストニア法人の設立が可能になっています*2。これからデジタル化とトークン化が進展すれば、場所にしばられた旧来の商慣習はますます無意味になっていくでしょう。

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いやはや、面白い時代に生きられてよかったです。 

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*1:あくまで例えで。アイルランドの仮想通貨に対する税制がどうなっているかは知りません

*2:ちなみにエストニアの法人税はゼロ。配当に対して20%課税されるだけです。