コロナショック後、来るぞ来るぞと言われていたコロナバブルがまさに本領発揮です。日経平均は2万6000円を軽く超え2万7000円にも達しそうな勢い。ダウも3万ドルを超えました。そして誰もが思っています。「実体経済はまだだま悪いのに、なんでここまで株価が上がるの?」と。
バブルか否か
これがバブルかどうかは諸説あります。もともと株価は上昇基調であり、そこにコロナショックが起きて大きく下落したものの、もとのトレンドに戻っただけという見方もあります。コロナ感染者は未だに増加していますが、経済は世界各所のロックダウンを経て、徐々に正常に戻りつつあり、ワクチン接種が始まるころにはもとの力強い成長を取り戻すだろうという見方です。
株価は実態経済を先取りするので、2021年の春から夏を見込んで、現在株価が上昇しているという考え方ですね。しかも金融緩和は継続するはずで、となると企業業績には追い風。特に低金利政策は、グロース株を押し上げます。
金融緩和で流れ込んだマネーは、いずれ価値の毀損を起こすはずで、つまりインフレをもたらします。そのために、インフレヘッジとしてゴールドやBitcoinが買われる。これも理屈を付ければそのとおりです。
しかし、本当に株価は経済の回復を織り込んだ上昇にとどまっているのか? それを超えて上がっているのではないか? そう。バブルなんじゃないか? そんな考えも頭をよぎります。
昭和バブルの頃
40代のぼくにとって、昭和バブルはおぼろげな記憶しかありません。1986年12月から1991年までの5年間に起こった、地価上昇と株価上昇が昭和バブルです。当時、ぼくは10代で、田舎に住んでいたため、バブルに踊る繁華街の状況などは、テレビのニュースで見るだけでした。
それでも覚えていることがあります。NTTの上場です。1987年2月、まさにバブルの入り口に上昇したNTT株は、買えば上がる株と思われていました。約120万円で売り出されたNTT株に個人投資家は殺到。4月には318万まで上昇します。
この頃、ぼくの父も株に手を出し、当時野村證券が始めていた「ファミコントレード」を使ってNTT株などを売買し始めました。ぼくのファミコンを取らないで……と思ったり思わなかったり。株ってすごいんだな、と子供心に思ったのを覚えています。
しかし10月には米国でブラックマンデーが起こり、日経平均よりも先にNTT株は下がり始めます。そしてバブル崩壊。90年代初頭の株価は、初値の3分の1まで下落しました。
その後何度かの分割と追加売出しを経て、現在の株価は約2500円。補正後の初値は2934円ですから、30余年を経て未だに初値に戻っていません。
■NTT株売り出し一覧
1987/02/09 1次売出 2,934円 (補正前:119.7万円)
1988/11/19 2次売出 6,250円 (補正前:255万円)
1989/10/28 3次売出 4,657円 (補正前:190万円)
1998/12/18 4次売出 2,096円 (補正前:85.5万円)
1999/11/12 5次売出 2,334円 (補正前:95.2万円)
2000/11/10 6次売出 2,326円 (補正前:94.9万円)
中には、配当が入ってきているので、それを加味すればプラスだという意見もありますが、それは自分を慰めるためのものでしかありませんね。ちなみに、父は結局NTT株を売ることができませんでした。バブル期に買った株は、その後の急落で半値以下になると、そうそう簡単に損切りできません。塩漬けになったということです。
ITバブルと株価1億円
次に起こったバブルはITバブルです。米国で1990年前半から2000年初期まで起こったバブルです。米国ではドットコム・バブルといいますね。日本では、1999年2月から2000年11月までの期間をいいます。わずか1年ちょっとの間に、みんなバブルに踊りました。
そんな中、1997年11月に上場したのがヤフーです。初値は200万円でした。これが、あれよあれよという間に急上昇します。2000年1月には、なんと1株の株価が1億円を超えます。これは今でも記録だそうです。100株単位の売買なので、売買に必要なのは100億円? すごい話ですね。
じつはヤフーは創業直後に、全社員に最低1株をストック・オプションとして配っています。それが、上場してあっという間に1億円になったのですからすごいことです。ぼくの友人には、何人も当時のヤフーに勤めていた人がいて、彼らは軒並みストック・オプションを売って、億単位のカネを手にしていました。当然、みんなその後、会社を辞めています。親の住宅ローンを全部返済してあげた、という心温まる話も聞きました。これがITバブルです。
当時20代後半だった僕の周りでは、このバブルに乗じてネット企業を立ち上げようという人がたくさんいました。当時は、「ドットコム」と社名に付けば、本当に簡単にベンチャーキャピタルがカネを出してくれる時代でした。A4数ページの設立企画書を持って、資金を集めていた人もいました。
当時起業した友人たちは、鳴かず飛ばずのまま、会社をたたんだ人もいます。なんとか買収エグジットを迎えた人もいれば、IPOこそしませんでしたが業績を伸ばし、そこそこ大きな企業に成長させた友人もいます。こんなダイナミックな時代がITバブルでした。
今のバブルは?
ちなみに、ぼく自身は昭和バブルのときも、ITバブルのときも株式投資はしていません。ITバブルの頃に買ったハイイールド債は、いまでもお守りですが、よくも悪くもバブルに浮かれなかったということなのでしょうか。
そのため、肌感覚としてこうしたバブルで株価が上昇していく感触は持っていません。そのため、果たして現在の株価状況と比べてどうか? というしっかりとした比較はできません。それでも、感じとしてあるのは、熱狂。しかも、業績や経済に関係なく、「いままで上がっているから上がる」「みんなが買っているから上がる」というムードです。
バブルのさなかにあっては、多くの人がこれは変だ。バブルだ。と感じながら、でも上がっているのだから、乗り遅れてしまっては損だ、という感触を持っていました。いわゆるFOMO=fear of missing out、取り残されることの恐れです。
メディアには連日「株価、過去最高更新」の見出しが踊り、職場でも友人の間でも株価の話が出ていました。それでもぼくがバブルに乗らなかったのは、そこまで資産を持っておらず、金融知識もなかったため、株を買うのはお金持ちがすることだと思っていたからです。
さて、バブルが頂点に達する頃になると、今度は「これはバブルではない」という言説が飛び交うようになります。世界経済の方程式は変わり、これからはITの時代だ。この時代は、PERとかEPSとかで企業を評価すべきではない。そういう説です。当然、こうした言説はバブル崩壊とともにどこかへ言ってしまいましたが、株高を正当化する理論が出てくると、かなり末期感を感じるものです。
翻って、現在はどうか。正直、Twitterなどの株式クラスタではかなりの盛り上がりを見せていますが、一般にバブルに浮かれるムードがあるかというと、実はまだそうでもないように思っています。株価自体を見ても、経済自体は大きくなっているのに、日経平均はバブル期に付けた最高値を抜いていません。
下記は、バブル期の東証一部の平均PERの推移を示したものです。当時はなんと60倍まで上昇したんですね。
ファンドマネージャー歴25年のストラテジストが「日本株は今、買い場」と考える理由
一方で、現在のPERは25倍です。トレンドラインとされている13倍に比べれば、約2倍ですが、バブル期ほどの高騰ではありません。逆に見れば、もし現在がバブルだとして、それが崩壊しても13倍まで戻るのであれば、半値になるだけだということです。昭和バブル崩壊のときのように、壊滅的になるわけではありません。
となると、考え方は3つ。(1)バブルなので今のうちに乗っておく(2)バブルなので利益が乗っているうちに降りる(3)バブルだけど気にせずホールド、です。
個人的にはバブルに乗ることは否定しません。大きな資産を築いた人たちは、個別であればなんであれ、何らかのバブルに乗ってうまく飛び降りることで資産を築いてきたからです。ただし、その裏側には、財産の多くを失った人もいました。
バブルだから降りる、という選択はどうでしょう。賢明な選択にも見えますが、まずバブルがいつまで続くか分かりません。その上、今度はバブルが崩壊したときに、買い付けるという難しいタイミングを測る必要があります。コロナショックの際に、危険だからと持ち株を売り払って、なおかつ3月の底のときに買い直せた人なら、うまくやるでしょう。しかしタイミングを見るのは、とんでもなく難しいものです。
というわけで、個人的には(3)のバブルだけどホールドの戦略です。投資は、いつ上がっていつ下がるかは誰にも分かりません。一方で、大きく上がった日にポジションを持っていなければ、果実を得ることもできません。そして、バブルがあって崩壊したとしても、10年、20年単位でみれば、株式はしっかりと年率6%前後の成長をしてきたのです。月並みな話ですが、持っているものはホールド、積み立てるなら積み立て続ける。それが、正しい戦略だと思っています。