FIRE: 投資でセミリタイアする九条日記

九条です。資産からの不労所得で経済的独立を手に入れ、自由な生き方を実現するセミリタイア、FIREを実現しました。米国株、優待クロス、クリプト、太陽光、オプションなどなどを行うインデックス投資家で、リバタリアン。ロジックとエビデンスを大事に、確率と不確実性を愛しています。

世界経済はもう成長しないかもしれない 書評『勝ち組投資家になりたいなら統計を読め!」

ぼくはインデックス投資家です。インデックス投資家は、世界の株式に分散することで世界経済の成長とともに資産が増加していくことを目論んでいます。しかし、もし世界経済が期待通りに成長しないとしたら?

 

本書「勝ち組投資家になりたいなら統計を読め!」は、どことなく軽めのタイトルですが、東京海上アセットマネジメントのチーフストラテジスト平山賢一氏の著書であり、歴史的な経済動向を踏まえた、とても示唆的な一冊です。

世界経済=GDPは、人口統計に連動する

本書のタイトル「統計を読め!」は、それだけ見るといろんな統計の数字をうまく分析するのかな?なんて思いがちですが、ここでいう「統計」とは偏に人口統計を指します。

 

世の中の数字で、最も確実で最も長期に予測可能だと言われているのが人口統計。では、この統計を見ると何が分かるのでしょうか。ずばりそれは世界経済=GDPの成長率です。

 

冒頭に次の式が出てきます。

  • 実質経済成長率 = 人口増加率 + 一人あたり経済成長率

これは何を意味するのでしょう。まず世界の経済規模が拡大しているのはいいとして、投資観点で見ると、どのくらいのペースで拡大しているのかが重要です。投資とは前年から拡大した分が利益であり、拡大のペースがリターンを決めるからです。

 

仮に経済成長率=投資のリターン、だとしたら、経済成長率が5%なら投資のリターンも5%ですが、経済成長率が減速して3%になったら投資のリターンも3%に減少する。そういうことです。

 

同様に、よく世界の人口は増加し続けていると言われますが、経済で問題になるのは人口の絶対数ではなく、人口の増加率です。この人口増加率に、「一人あたり経済成長率」を加えたものが、ほぼ実質の経済成長率になると著者はいいます。

興味深いことに、紀元から1820年までは、人口増加率と経済成長率は、次のように肩を並べて同水準で推移している。

  • 紀元から1000年までの人口増加率(年率)が0.015%に対して、経済成長率(年率)0.013%
  • 1000年から1500年までの人口増加率0.10%に対して、経済成長率が0.15%
  • 1500年から1600年までの人口増加率0.24%に対して、経済成長率が0.29%
  • 1600年から1700年までの人口増加率0.08%に対して、経済成長率が0.12%
  • 1700年から1820年までの人口増加率0.46%に対して、経済成長率が0.52%

人口が増加すればそれだけ経済も成長する。理屈としては確かにそうだよね、と思いますが、ここまで見事に一致しているのを見ると、まさにこれがキーとなるパラメータだということが分かります。

転換期となる1820年

しかし人口増加率=経済成長率だった経済は、1820年から様相を一変させます。「一人あたり経済成長率」が急上昇したのです。1820〜1870年までの人口増加率は0.40%なのに対して、経済成長率は0.93%まで上昇。実に2倍に至ります。

この経済成長率の上昇は、19世紀になって産業革命が社会に広く浸透したためであると考えることもできる。一方で、18世紀に人口増加率が上昇することが起爆剤となって、経済成長率が加速する19世紀の基盤を作ったと考えることも可能なはずだ。

下記は、本書より、人口増加率と経済成長率がほぼ比例関係に推移してきたのが、1820年を境に変化し、人口増加率を大きく上回る経済成長率を達成してきたことを示した図です。

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もう一つ、ここで読み取れることは人口増加率が1820年を境に大きく跳ね上がっていることです。第一次世界大戦後の1950年から73年にかけては、人口増加率が2%弱まで上昇しており、さらに経済成長率は5%弱まで上昇しました。

 

この数字は、我々が感じる「経済成長」のほとんどは1820年後の200年で生み出されたことを意味します。この間に、人口は6.8倍になる一方で、経済規模は77.4倍にまで増加したのです。

人口増加率も経済成長率も減少に転じている

ところがトレンドも、1970年代以降、実は下り坂に転じています。人口が減ったり経済が縮小しているわけではありません。しかし、投資にとって最も重要な増加率が、すでにピークを打ったというのです。

  • 経済成長率のピーク 1964年 6.6%
  • 人口増加率のピーク 1968年 2.1%

あれ? でも1960年代が成長率のピークだったというイメージはありませんね。昨今の経済を見ると、どんどん成長は加速している印象をもっていると思います。筆者はこれを「インフレによる嵩上げ」だと指摘します。

 

ここまでの経済成長率は、インフレ率を補正した実質経済成長率です。ところが補正なしの名目経済成長率は、もっともっと高いことになります。実に1973年の名目経済成長率は22%となっており、ダントツの1位。ただし実質経済成長率は6.6%であり、差分である約15%がインフレ率だということです。

 

次の図は、ちょっと衝撃かもしれません。1968年から2012年までに名目GDPは実に30倍に増加しました。これがぼくらのイメージする20世紀後半の経済成長でしょう。しかし、そこからインフレ率を補正した実質GDPは3.8倍にしかなっておらず、総人口の1.99倍とさほど変わらないということが分かります。

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過去50年間は、インフレによるかさ上げ部分を除くと、成長が減速する時期であり、想像するほど高い実体経済の成長を維持してきたわけではない。(略)

現在までの約50年間の世界の名目経済成長率は平均すると、約8%だが、インフレによるかさ上げ分を除いた経済成長率は、3.5%にすぎないのである。

人口増加率は急減している 

さてここで技術革新が起こる直前の、1700年から1820年までの人口増加率が0.5%程度で、経済成長率はそれに生産性向上分0.1%を乗せた0.6%だったことを思い出してください。

 

それでは今後の人口増加率はどうなっていくのでしょうか。下記は国連の1950年から2100年までの人口増加率のデータです。けっこう衝撃的ではありませんか。1970年代に2%まで上昇した人口増加率は、坂を転がるように減少を続け、2020年現在は1.1%程度。そして2100年には中位推計でも0.1%を切ってしまうのです。

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これは100年後には、人口増加率が1000〜1500年のレベルまで下がることを意味しています。そして、そこに上乗せされる「一人あたり経済成長率」はというと、

  • 1973年〜1998年 1.3%
  • 1998年〜2012年 1.5%

平均した1.4%の「一人あたり経済成長率」があるとしても、2040年には人口増加率0.7%+1.4%で、経済成長率は2.1%程度。2070年には0.3%+1.4%で、経済成長率は1.7%まで落ち込むことが想定されるわけです。

 

経済成長率が3-5%を維持し続けた20世紀後半が、いかに特異な時代だったのかがよく分かります。

過去のデータをアテにして株式の長期リターンを期待していいのか

ぼくはインデックス投資家ですが、その期待リターンを話すときに、過去50年が人類の経済にとって極めて特殊な高成長期だったということを忘れて話されていることが多い懸念を感じることがあります。

 

これは歴史的に経済を見ている人なら誰もが共通している常識なのでしょう。『21世紀の資本』のピケティは、同書の中で次のように書いています。

でもこのどれも、成長を年率4-5%に引き上げたりはしない。歴史的に見て、そんな勢いで成長できるのは先をゆく経済に追いつこうとしている国だけだ――たとえば第二次世界大戦後30年間のヨーロッパや、現在の中国など新興国だ。世界の最前線にいる国にとって――そしてつまりはいずれ全世界にとって――どんな経済政策を採用しようとも、成長率が長期的には1−1.5%を超えないだろうと考えるべき理由はたくさんある。 (p.602)

 もちろん、経済成長率と資本の成長率は同一ではありません。まさにピケティが r > g(資産リターン > GDP成長)と喝破したように、経済の果実の取り分は、労働よりも投資のほうにより多く回ってきます。

 

しかし一方で、この式が成り立ち続ければ、いずれ「r」は経済のすべてを食い尽くして、労働者の取り分がゼロになってしまうのもまた事実でしょう。経済自体の成長率を大きく超えて投資リターンがあり続けることも、また不可能なのです。

21世紀の資本

21世紀の資本

 

 「勝ち組投資家になりたいなら統計を読め!」では、こうした人口統計という避けがたい事実から、では経済のどこにどう注目していけばいいのかをブレイクダウンしていきます。

 

それは経済の供給側である「生産年齢人口比率」であり、また需要側の「多消費年齢人口比率」です。よく年金などの話題とセットになる「老齢人口比率」についても、考察が入ります。特に、生産年齢人口と多消費年齢人口の分析は、これからの10年、20年の経済、そして伸びる産業を考える上で、たいへん参考になるものでした。

 

このあたりは、もしかしてまた次回のブログにて。

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