前回、基本的な知識として「何日に退職するのがいいのか?」について調べてみました。今回は、何月に退職するのがいいか、住民税の観点からチェックしてみます。
前年所得で決まる住民税
まずは住民税から。住民税は、所得税と違い、前年の所得に基づいて支払います。まず前年の所得の10%が住民税所得割、均等割は5000円(個人都民税1000円+防災対策500円+個人区市町村民税3500円)ですね。
この住民税額を、翌年の6月から翌5月までで支払います。支払い方法は3つほどあります。
- 6月に一括で支払う(普通徴収)
- 6月末、8月末、10月末、1月末 の年4回に分けて支払う(普通徴収)
- 12カ月に分けて毎月給与から天引きする(特別徴収)
給与をもらっている場合は、必ずこの特別徴収になります。そして退職タイミングによって、特別徴税のされ方が変わってきます。
1〜4月末に退職
- 最後の給与で前年分の住民税を天引き
- つまり3月退職なら、3〜5カ月分の3ヶ月分が引かれる
5月末退職
- 5月分の1カ月分支払い
6−12月退職
- 翌5月までの分をまとめて控除して納付
- または自ら納付する普通徴収
いずれにしても、前年分を支払うわけで、タイミングこそ違えど、特段有利不利はありません。ただし思ったよりも多くの住民税を支払うことになる場合があることには注意が必要ですね。
住民税非課税を考える
住民税は前年の所得によって決まりますが、その計算方法は、収入から各種所得控除を引いた残りの「課税所得」の10%+均等割になります。所得控除にはいろいろありますが、メジャーなものだと次のようになります。
- 基礎控除 33万円
- 配偶者控除 〜33万円
- 扶養控除 〜45万円
- 社会保険料控除 支払った額
- 生命保険控除 〜7万円
ただし、個人の住民税には特定の条件を満たすことで住民税が完全にゼロになる「住民税非課税」という仕組みがあります。
- 生活保護を受けている
- 未成年者、障害者、寡婦、寡夫で、前年課税所得が125万円以下(給与収入が204万4000円未満)
- 前年の合計所得が35万円(扶養なし)/35万円x 本人+扶養家族 +21万円 (※東京都の場合。合計所得とは収入から経費を引いた額)
この1〜3のいずれかに当てはまれば住民税が非課税になるわけです。例えば、家族4人なら、161万円までなら住民税がゼロということですね。まぁ支払ってもそこから所得控除などを引いた残りの10%+5000円なので、10万円程度ではありますが。
なお、株式の特定口座や配当については、源泉徴収で住民税の支払いが完結するので、住民税非課税の条件に影響を及ぼしません。株式運用と配当だけで生活するなら、住民税はゼロになるというわけです。
申告不要制度を選択した配当等は個人住民税における合計所得金額から除外されるため,個人住民税の非課税判定や各種控除の適用,国民健康保険税等へ影響を及ぼしません。ただし,配当控除,配当割額の適用を受けることはできません。
住民税非課税世帯
さらに世帯全員が住民税非課税だと、「住民税非課税世帯」となり、追加でさまざまな恩恵を得られます。
- 国民健康保険料の減免(東京都の場合2〜7割)
- 高額医療費減額 ※価格.com - 高額療養費(高額医療費支給制度)とは? 申請方法と注意点
また住民税非課税世帯とは別ですが、収入が少なくなると国民年金の保険料免除制度も利用できるようになりますね。※国民年金の保険料免除制度 江戸川区ホームページ
住民税非課税と退職月の関係
なぜ長々と住民税非課税の紹介をしたかというと、この計算が前年1月〜12月の間の収入から行われるからです。つまり、12月末に退職すれば、翌1月から所得はゼロになりますが、1月〜11月末退職だと、その間の給与所得が影響を及ぼすからです。
1月末なら1カ月分の給与なので、年間合計所得はかなり抑えられますが、退職月が遅れるにつれて合計所得が増加します。もし住民税非課税を目指すなら、11月末や12月末、場合によっては1月末が望ましいでしょう。3月末だと3カ月分の給与が入るので、年間所得はけっこう膨れてしまいます。
配偶者控除にも影響
同様の問題は配偶者控除にもあります。例えば家族が働いていて、退職後、その人の扶養に入る場合を考えます。健康保険や配偶者控除には扶養される人の年収が条件としてありますが、この年収の考え方が、ものによって違うのです。
健康保険は、年間収入130万円未満の人なら扶養に入れますが、この「年間収入」の計算は翌月から敷衍して1年間の年収を考えます。つまり、何月であっても無職になればそこから1年間の収入見込みはゼロ円なので、扶養に入れることになります。逆に、年の途中で働き始めたら、そこから1年間の収入が130万円を超える見込みなら扶養から外れることになります。
ところが、配偶者控除の計算は、1月〜12月の収入で考えます。原則年間収入が103万円以下となっていますが、1月や2月に収入があったら、これが年間収入の計算に組み入れられてしまいます。
つまり、退職してパートナーの扶養に入ることを考えると、12月末の退職がベストということになります。
雇用保険の失業手当にも注意
もう1つ考えなくてはいけないのは雇用保険の失業手当です。健康保険の扶養の計算には、この失業手当も入るからです。
自己都合退職の場合、3ヶ月の給付制限期間があり、この間は健康保険の扶養に入れますが、受給が始まると、その額から年間収入を計算して、扶養に入れるか確認する必要があります。
そのため、失業給付の金額が、扶養の範囲内である日額3612円(130万円÷360日)以上ある場合は、受給開始日以降、健康保険の扶養から外す必要があるわけです。
ちなみに失業保険は完全に非課税で、確定申告の必要もありませんし、所得税や住民税を払う必要もありません。国民健康保険の算定のための計算にも入りません。ただし、健康保険の扶養判定には影響するので、けっこうややこしいですね。
住民税から見ると12月がベストか?
このように、セミリタイアによって住民税非課税を目指したり、家族の扶養控除に入ることを考えると、住民税的には12月末がベストの退職月になりそうです。
なお、税金面は複雑で、できる限り調べてまとめてみましたが、これは自分自身のための記事になります。参考にする場合は、ご自身で再度確認することをオススメします。