コロナバブルといわれて久しいですが、世界中でリスク資産の価格上昇が止まりません。金融機関のストラテジストの多くは、「今後も金融緩和は止められず、コロナ収束後の消費回復でさらに株価は上がる」という説明をしており、バブルだとはいえ、まだしばらく続く可能性が高くなっています。
- コロナバブルが生まれたストーリー
- いまはバブルか? バフェット指数
- いまはバブルか? PER
- 低金利がもたらす割安感
- 低金利は将来利益の評価を増幅する
- なぜ低金利だとグロース株が上がるのか
- 結局ポイントは金利
コロナバブルが生まれたストーリー
今回のバブルが生まれたストーリーは、ざっとこんな感じです。
- コロナでロックダウンがおき、小売・サービスの業績ダウン、失業者増加
- Go To的な起業支援支出、失業支援給付、全員への給付
- 全世界で政策金利低下、量的緩和
- 家計は全体としてお金じゃぶじゃぶ(マネーストック急増)
- 金利低下で債券のリターン低下、株などのリスク性資産へマネー向かう
- 低金利でハイテクITなどグロース系銘柄に恩恵、株価上昇
- 家計の口座に眠るお金が、いずれ消費に回る期待
いまはバブルか? バフェット指数
ではいまは本当にバブルなのでしょうか。まず時価総額と名目GDPの比を見ます。これはバフェット指数と呼ばれ、バフェットが株価の割安・割高を判断するのに使っていると言われます。
横軸が変形しているチャートですが、1990年代から見ても、「これを超えたら暴落の基準」と言われる100を大きく上回って推移してきており、現在は過去最高の状況です。
いまはバブルか? PER
投資家にとって企業の本質的価値は、その稼ぐ力にあります。端的にいうと、1株あたり利益=EPSです。このファンダメンタルズを超えて株価が上昇しているなら、それはバブル。株価が上がっていても企業業績が好調なのなら、別にバブルではありません。
EPSの何倍の株価になっているかは、PERと呼ばれます。では現在のPERはどうなのでしょうか。過去PERの平均は15.88、中央値は14.84でした。そして、現在は推定値で37.8倍です。
これはリーマンショックで利益が急落した際の123倍を除けば、2001〜02年のITバブルの頃に迫る数字となっています。では、なぜここまでPERが上がったのでしょうか。
低金利がもたらす割安感
PERが高いからといって、すぐさまそれをバブルだと断じることはできません。投資家が運用するメジャな投資先としては、株式と債券がありますが、この2つの関係は次のように考えられます。
- 債券 安定した利回り
- 株式 債券に加えてリスクプレミアム分だけ高利回りを期待
つまり債券利回りが2%なら、リスクプレミアム5%を乗せた7%を株式には期待するということです。そしてこの利回りとは、投資額あたりの利益なので、ちょうどPERの逆数になります。PER100というのは利回り1%ですし、PER50なら2%、PER25なら4%という具合です。
では、利回りで見たとき、株式と債券の状況はどうなのでしょうか。青い株式の利回り低下に連動して、紫の債券利回りも低下していることが分かります。この利回りの差がイールドスプレッド=リスクプレミアムですが、これはほとんど変化していないことが分かります。
つまり債券も利回りの下落から凄まじいPERになっており、そこにリスクプレミアムを乗せた株式のPERも同様に上がっているということです。別の言い方をすれば、債券に比べて別に株は割高ではないということです。
一般に、債券は金利と連動します。金利下落は債券価格上昇=債券利回りの低下。債券利回りの下落を招いたのは、政策金利の低下であり、金利政策が債券利回りを押し下げ、そこにリスクプレミアムを乗せた株式の利回りも低下、結果として株価が上昇したという流れです。
低金利は将来利益の評価を増幅する
もう1つ、金利の低下が影響を及ぼしたものがあります。先程、企業の本質的価値は1株あたり利益であるEPSだといいましたが、正確には、将来のEPSの合計が本質的価値になります。
グラフにするとこんな感じ。これはその企業の利益が将来にわたってずっと一定の場合です。では、なぜ年を追うごとに足し合わせる利益が小さくなるのかといえば、先の未来の数字は、「割り引く」必要があるからです。
今年の1万円と来年の1万円は価値が違います。今年の1万円は預金しておけば利子が付くからです。金利を仮に5%だとすると、来年もらえる1万円を現在の価値に換算すると9523円になります。このように、遠い未来にもらえるお金は、金利で割り引くことで価値が小さくなっていきます。
このとき、金利が高いと割引率が大きくなり、未来の収益の価値が小さくなります。逆に金利が低いと割引率が小さくなり、未来の収益の価値が増大します。つまり、企業の利益が全く同じでも、金利が変化すると、将来利益の評価が変わるので、企業価値が変化するわけです。
今回の低金利政策で起きたのがこれです。金利低下によって、企業の将来利益の価値が増大し、合計価値=企業の本質的価値を押し上げました。これが株価上昇の要因の1つです。
なぜ低金利だとグロース株が上がるのか
もう1つ、金利が下がるとグロース株の株価が上がります。これはなぜでしょうか。グロース株とは、企業が成長して利益が増加していくことが期待されている銘柄です。つまり、現在の利益よりも将来の利益のほうが大きくなります。逆にバリュー株は、現在の利益水準が今後もずっと継続することが期待されます。
ここで、本年の利益が30でそれが継続すると見込まれるバリュー株と、本年の利益は15.6で毎年50%ずつ利益が増加すると見込まれるグロース株を考えましょう。差がわかりやすくなるように、金利50%と10%で割り引いたときの合計価値を示したのがこちらのグラフです。
まずはバリュー株。継続する利益予想(灰色)に対して、割引率(=金利)が10%に下落すると将来利益の評価が増加して、合計価値は125まで上昇することがわかります。このように、金利が下落すると株価が上昇します。
続いてグロース株。こちらは伸びていく利益に対して、割引率50%のときはその伸びが相殺されて、結局バリュー株と同じ合計価値でした。ところが割引率が10%に下がると、将来の利益の評価額がグッと上がります。結果、合計価値は160まで上昇。バリュー株よりも高くなってしまいました。
これが、低金利だとグロース株の株が上がるメカニズムです。金利が下がるほど、株価は将来利益の大きさに影響を受けるようになります。結果、将来の大きな利益を期待されているグロース株は、株価が上昇するわけです。
結局ポイントは金利
このように、コロナバブルを引き起こしている犯人の1つは低金利です。逆にいえば、“バブル”とはいっても金利下落に基づいて、ファンダメンタルズ的に価値が上昇しそれが株価に反映されているともいえます。必ずしもファンダメンタルズから乖離して上昇しているわけではないということです。
先のみずほインサイトでは、2020年10月時点のPER(実績値)と、金利変化に基づくPERの変化分(適正値)を計算し、それが概ね一致していることを示しています。
問題はここに生まれている乖離(緑)ですが、これは市況のムードによるまさにバブルという点もあれば、将来の金利をどう読むかによって変化する部分もあるので、ズレが発生するということでしょう。現時点では、金利から想定されるPERをさらに上回っていると思われます。
というわけで、この株価が本当にクラッシュするとしたら、やはりそれは金利上昇による巻き戻しが起こったときでしょう。それは将来価値の評価を減少させ、特にグロース株にとって影響が大きくなります。投資家は企業の業績にばかり目を向けがちですが、このような状況では金利の動向は影響が大きく、米中銀の発言に注目が集まるわけです。