FIRE: 投資でセミリタイアする九条日記

九条です。資産からの不労所得で経済的独立を手に入れ、自由な生き方を実現するセミリタイア、FIREを実現しました。米国株、優待クロス、クリプト、太陽光、オプションなどなどを行うインデックス投資家で、リバタリアン。ロジックとエビデンスを大事に、確率と不確実性を愛しています。

なぜ評論家は株価予測や為替相場予測を行うのか

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「今年の日経平均株価の目標は3万2000円だ」「ドル円は120円まで円安に向かう」云々カンヌン。世の経済評論家たちは、こんなふうに株価や為替の予想を行います。そしてその理屈付けとして、「経済状況がこうだから……」とか「このチャートの形を見ると……」だとか言うわけですが、まぁ当たるも八卦当たらぬも八卦。

 

ではなぜ経済評論家はこんな予測を披露するのでしょうか?

人間は「理由」と「物語」を欲しがる生き物

こうした予測を聞いていると、思い出すのが中世に行われたという占星術です。星の動きを占って、天候などを予測する占星術師は、ある意味、現代でいう経済評論家です。ここには人間の性質が現れています。

 

それは、人間が強く持っている因果への期待です。人間は、「何か物事が起きるなら、そこには理由があるはずだ」と考える性質を持っています。株価が上がるなら上がる理由がある、下がるなら下がる理由がある。素朴に、こんなふうに思っている人が多いということです。

 

この因果への期待は、必ずしも悪いことではありません。その昔は、何かが起こったらそれは「神」が原因でした。理由がはっきりしないものでも、「神」を持ち出して因果を作り出したのです。ところが、科学が発展するにつれて、原因の特定が進みます。

 

天体の動きもそうだし、雲が形作られるメカニズムもそう。世の中の現象の多くは、次第にその原因と理由が明らかになっていきました。「因果があるはず」という観念を原動力として、科学の発展は進んできました。

 

だからこそ、極小の物理現象においては、存在も振る舞いも確率でしか表せないということを導き出した量子論は、科学者にとってさえ受け入れ難かったのでしょう。アインシュタインが「神はサイコロを振らない」と言ったというのは有名です。

 

その後、科学の発展に伴い、因果が必ずしも明らかでない物事がいろいろと見つかっていきました。ちょっとした振る舞いの違いが、フィードバックの繰り返しで大きな変動をもたらすカオス現象もそのひとつ。フィードバックがいつ起こるかどのように起こるかは、実質的に計算できず、プラクティカルにはランダムとみなすしかありません。

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メディアも物語を用意する

そのため、メディアが株価や為替について報道する際には、「背景はこうです」とか「○○という理由で」と因果を解説するのが当然となっています。「今日の日経平均は上昇しました。理由は分かりません」という報道では許されないのです。

 

そのため、株価が下がったときには「利益確定売りが優勢となり」とか、株価上昇のときには「景気拡大を期待して」とか、合っているようないないような、循環論法的な理由付けが登場します。「理由は分かりません」というときは、コメントを出してくる経済評論家や市場関係者と呼ばれる人たちも、筋の通った物語を用意できないときくらいです。

 

下記は、2020年3月時点で株価動向を尋ねたことへの返答ですが、ニッセイ基礎研究所の方が「まったく分からない」とコメントして話題になりました。ある意味、このタイミングで1カ月後の株価を予想するなんて、占星術と変わりないのですが、それに対して「まったく分からない」とコメントすることが逆に新鮮だったということです。

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評論家の心の内

逆にいえば、経済評論家たちも、メディアの要望に沿って理由を用意します。それはそうです。メディアが評論家のコメントを求めるのは、「株価が上昇した理由はなんですか?」ということだからです。「ランダムな動きです」「全く皆目分かりません」では、次からコメントの依頼はなくなります。

 

年初の雑誌で「今年の日経平均予想大集合」といった特集がしばしば行われますが、こういった企画があれば、評論家たちは、何かしら物語として成り立つ因果を考えて、数字を用意するのです。

 

ストラテジスト、アナリスト、経済評論家……。日経平均予想を寄稿している人に話を聞いたことがあります。「誰よりも高い株価を予想するんですよ」。半ば冗談っぽく、彼はそんなことを言っていました。先にまず目立った予想を用意する。そして、その予想の裏付けとなりそうなもっともらしい理屈を考える。こんなパターンが毎回繰り返されています。

評論家の立ち位置を考える

とはいえ、すべての評論家、ストラテジストが同じではありません。というのも、メディアや個人投資家に向けて、もっともらしい理屈を述べたり、取引を推奨するのが仕事の人達がいる一方で、分析を自らのトレードに活かす人たちもいるからです。

 

例えば自己売買のための情報を整理してアドバイスを行う立場の人たち、例えばアナリストたちは、目立つことやウケることではなく、もう少し実態に即したコメントをするかもしれません。証券会社や運用会社所属の人たちも、その企業のカラーによっては、自らの良心に従って過激ではないコメントをする人もいます。

 

何かを参考にするなら、こうした立ち位置もよく見極めたいものですね。