FIRE: 投資でセミリタイアする九条日記

九条です。資産からの不労所得で経済的独立を手に入れ、自由な生き方を実現するセミリタイア、FIREを実現しました。米国株、優待クロス、クリプト、太陽光、オプションなどなどを行うインデックス投資家で、リバタリアン。ロジックとエビデンスを大事に、確率と不確実性を愛しています。

収益不動産の火災保険の選び方

不動産投資を始めるときに、「はて、どうしよう?」と思うものの1つが火災保険です。確定、継続的にかかるコストで、しかもコントロールが効きます。こちらの選び方について、ちょうどぴったりの本がありましたので、その内容から考えてみます。

不動産投資と火災保険 改訂増補版

不動産投資と火災保険 改訂増補版

  • 作者:藪井 馨博
  • 発売日: 2020/03/07
  • メディア: 単行本
 

居住者と大家の両方が入る火災保険 

以前からちょっと理解が追いついていなかったのですが、収益不動産の場合、入居者にも火災保険の加入を必須にしますよね。にもかかわらず大家側も火災保険に入るのはなぜでしょう? 実はこれは補償対象が異なるからでした*1

  • 居住者が入る:個人賠償、借家人賠償
  • 大家が入る:建物賠償、施設賠償

居住者が入る保険では、次のような事故を補償します。まず個人賠償はこんな場合になります。

  • 洗濯機のホースが外れて下の部屋に漏水し、階下の住人の衣服類を汚してしまい、弁償をもとめられた
  • 散歩中リードが外れ、ペットが通行人を噛んで治療費を請求された
  • 敷地内外で自転車を走行中、通行人にぶつかってしまい、ケガをさせてしまった

続いて借家人賠償はこういう事故です。

  • 料理中に鍋を焦がしてしまい、部屋の壁紙などをすすで汚してしまった(借家人賠償)
  • 家具を移動中、誤って落としてしまいフローリングに傷をつけてしまった(借家人賠償)
  • 浴室で誤って転倒し、その際に扉ガラスを破損させてしまった(借家人賠償)

 ちょうど下記の記事で書いた、部屋を借りるときの火災(家財)保険の見直しのときのイメージどおりですね。居住者は退去のときに現状回復の責任がありますが、それをフォローするのがこちらの保険です。

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 では、大家側が入る建物賠償、施設賠償とはどんなものでしょう。

  • 建物の外壁タイルが剥がれ落ちて通行人にケガをさせてしまった
  • 給排水設備が水漏れを起こして入居者の家財を壊してしまった
  • 配電盤のトラブルによって火事が起こり入居者を死傷させてしまった
  • 共有部分階段の手すりが錆びていて、階段を登っている間に崩落し、入居者にケガをさせてしまった
  • エレベーターに人が挟まってケガをさせてしまった

このように目的が違うので、両方で火災保険に入ることが必要になるそうです。誰に責任があるかによって保険が変わるともいえます。建物に損害があったとき、入居者が入る火災保険で対応できるのは入居者に責任があるときだけ。隣家からの延焼や不審火、自然災害などで損害を受けた場合は、大家側の保険でしか対応できないということです。

 火災保険の選び方

火災保険は、複数の補償に分かれています。SBI損保の次の図がわかりやすかったです。このうち、火災(火災、落雷、破裂、爆発)と風災はどの保険にも含まれているとして、水災以降はセットになっている場合とオプションの場合があるようですね。

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ここで保険に対する考え方が分かれるのですが、火災保険は使用しても保険料が上がることはありません。あまりにたくさん保険を使った場合、それが自然災害ならば問題ありませんが、大家側の対策不足に起因するとみなされると、次回、加入を断られる場合はあるそうですが。

火災は補償額に注意

さてまずはメインの火災です。本書の著者は、「建物評価額を超えて支払われることはないので注意」と書きます。火災保険は、その建物に生じた被害を回復するためのものなので、焼け太りは起きないようになっているということです。例えば、

  • 融資額が7000万、評価額5000万だと、7000万の保険に入っても上限は5000万
  • 融資額2000万、評価額5000万だと、2000万の保険では2000万しか出ない

そのため、融資額を基準にするのではなく、加入する保険会社の設定する評価額基準をもとにしなくてはいけません。

 

また、評価額には2種類あって、次のようになっています。

  • 新価(再調達価額) 同等のものを再築・再購入するのに必要な金額
  • 時価 経過年数による価値の減少と使用による損耗分を差し引いた金額

 以前は時価が多かったが、現在は新価(再調達価額)がほとんど。ただし、15〜20年前に契約したものには注意だそうです。

保険金額は次の項目で変わる

さて保険金額の算定方法はどうなっているのでしょう。基本的には、県別・構造・用途の3つで変わるそうです。

 

都道府県によって、自然災害が発生する頻度、過去の被災状況、住宅密度による延焼リスクなどが異なるからです。北海道や日本海側では雪害のリスクが高く、九州や四国では台風・水災被害のリスクが高まります。それに応じて保険料も変わるということです。

 

構造は燃えにくさです。最も安いのがRC/SRCの鉄筋コンクリート造(M構造)。続いて鉄骨、2x4工法、プレハブ、準耐火建造物などのT構造、そして一番高くなるのが在来木造建物のH構造です。著者の試算だと、一律同じ5000万円の保険金額(建物価格)だとすると、次の違いがあったそうです。

  • H構造(木造) 年間14万円
  • T構造(鉄骨) 年間7万円
  • M構造(RC) 年間5万円

さらに、用途でも変わります。住宅物件と店舗が入った一般物件では異なり、一般のほうが高くなります。

1Fがコンビニなどの店舗で、2Fから上階は共同住宅の場合、さらに1.5〜2倍ほど保険料はアップします。

 地震保険はどこで入っても同じ

つづいてオプション(付帯)について。地震の際に補償が受けられる地震保険は官民一体の保険であり、地震保険によって損保会社は利益を得ていないのだそうです。

(法律では)契約上の必要経費を除いた額と、その運用益のすべてを責任準備金として積み立て続けることを政府および保険会社に義務付けています。

各保険会社が契約者から預かった保険料は、保険会社の利益なしに積み立てられ、更に保険料の一部は再保険として政府に支払われることになります。

そのため、どの保険会社で地震保険に加入しても保険料は同額なのだそうです。また、火災保険は、全損した場合、評価額の全額が支払われますが、地震保険では最大でもその半分までしかかけることができません。つまり、全壊しても半分までしか支払われないということです。

 

また、火災や津波などの被害であっても、それが地震に起因するものであれば、通常の火災保険は対象外。地震保険に入っていないといけません。

 

通常保険というのは大数の法則のもとに、大量の契約があれば、支払いが必要な保険金は確率的に一定になるという計算のもとに成り立っています。ところが地震保険は、いったん起こると契約者のかなりの数で保険金支払が必要になります。システミック・リスクの1つですね。時間的に分散された保険ともいえるかもしれません。

 

では地震保険以外のオプション(付帯)はどう見るといいのでしょうか。

1位 不測かつ突発的な事故

 著者は、著者は保険代理人なのですが、実際に収益不動産の保険で利用が多かったものを挙げています。そして「使う確率が高い補償にこそ保険料を使うべき」だと主張しています。

 

その第1位は「不測かつ突発的な事故」。これは他の補償に該当しない中で、予測できなかった事故や突発的に起こった事故を補償するものになります。 

  • 知らない間に物件の外壁や敷地内のポールをクルマでブツけられていた
  • スプレーで物件に落書きをされてしまった
  • 集合ポストがイタズラされて破壊された

 こちらは保険会社によっては付帯できないので、要確認だそうです。入居者向けの火災保険でも、この付帯は便利だということで記事にしました。

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2位 風災事故

2位は「風災事故」。特に、台風の通り道にあると避けられない、といいます。

  • 屋根の一部や雨樋、集合テレビアンテナが吹き飛ばされた

3位 落雷事故

ここ数年で大幅に順位を上げてきた補償だそうです。

  • インターネット回線が焼き付いてインターネットができなくなった
  • オートロック基盤が壊れて全戸施錠ができなくなった
  • 機械式駐車場の圧力ポンプが作動しなくなった
  • エレベーター基盤がおかしくなって使用できなくなった

4位 水漏れ事故・水濡れ事故

築15年をすぎるとこれがダントツになるそうです。

 

支払い期間をどうするか

火災保険の選択肢で、考えられるのは期間ですね。平成27年の火災保険料改定により、最長10年までしか火災保険はかけられなくなりました(地震保険は最長5年まで)。

 

著者がお勧めする期間は5年だそうです。これは5年経過すると、個人の場合譲渡税が半額になるので、少なくとも5年間は保有するからという理由のようです。逆に法人の場合は5年は関係ありませんね。 

以前は、長期のほうが割安でしたが、現在は10年一括が普通なので、以前ほどの割安感はない。オススメは5年一括

途中解約だと、契約期間に応じて解約返戻金。ただし、未経過料率という係数は保険会社によって異なる。

 支払い方法には月払いも選べる場合がありますが、「非常に割高」だといいます。

3棟分で1棟分の保険料が捻出できるほど一括払いのほうがお得

 トラブル

最後にトラブル対応を。まず何か事故が起こった場合、保険会社とスムーズに交渉するには、迅速な対応が必要だということです。時間が経つと経年劣化が原因のものと区別がつかなくなり、調査に時間がかかるから。全体像が分かるように写真を撮ってすぐに送るべきということでした。

 

またしっかりメンテナンスをしている物件のほうが、保険金請求がやりやすくなるという話も。 

 火災保険という角度から見ても、「経年劣化」や「起こるべくして起こった故障・破損」は支払対象外です。しかし、こまめなメンテ記録があれば保険会社に「交渉」する余地ができるのです。 

 

 また入居者が加入する火災保険にも注意ですね。普通は火災保険の加入必須としていますが、入居者によってはいつの間にか無保険状態で住んでいる場合があるからです。

入居時は加入証書や証券コピーを提出しないと鍵の引き渡しを行なわないので、最初の2年間は問題ありません。しかし、2年後の満期時に更新されていないケースが多く、トラブルが多発しています。

 

最後にちょっと興味深かったのが、家賃と保険適用の相関の話です。  

家賃と常識外の賠償事故は反比例する。これは、家賃が低い物件ほど入居者とのトラブルに発展する賠償事故発生確率が高くなるというものです。

さらに、賃貸の世界にも当たり屋というのがいるのだそうです。その手口は、家賃が安い物件を探し、次に自主管理かどうか?を調べます。そして入居して3カ月から半年後に、次のようなことを言ってくるのだとか。

  • 突然、床が抜けて転倒した。病院に行くので治療費と交通費を出してくれ
  • 雨漏りで大事な家財道具が濡れて使えなくなった。全部新品に買い直してくれ
  • 階段の手摺がいきなり崩れて、階段から転げ落ちて骨折した。仕事を休むので休業補償してくれ
  • 外壁の一部が剥がれ落ちてきて、車に傷がついた。全塗装か書い直してくれ

 結局どうするか

では結局火災保険はどうするのがいいでしょうか。正直良くわからないというのが本音です。本書は、著者が保険代理人であり、多くの賃貸住宅オーナーに保険を売っている立場だということもあり、「保険は入っておいたほうがお得だよ」という観点で書かれています。いわばポジショントークです。

 

確かに収益不動産はローンを組んで購入するので、何か起きてからでは取り返しがつきません。

 

ぼくが取得を予定している物件では、東京海上日動の保険の見積もりをしてみましたが、火災、風災、水災の基本プランに対して、盗難と水濡れを追加すると支払い保険額が4%アップ、すべてのオプションをつけたフルのプランだと8%アップとなっていました。

 

金額は、1年あたり物件購入価格の0.17〜0.19%。満室年間賃料の2.5〜2.7%にのぼります。管理費が5%くらいなことを考えると、バカにできない費用ですね。ざっと見たところ、建物評価額が実態より高くなっていようにも見えるので、少し相談したり、相見積もりを取ってみたいと思います。

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*1:補償と保障と保証。いったいどうやって使い分けるのかと思っていたら、被った損害を補填する場合が「補償」。つまり損害保険など損保会社がこの補償という言葉を使うのだそうです。「保障」は、不安がないように責任をもって請け負う、保護するという意味だそうで、生命保険会社の場合これを使います。そして「保証」は、間違いなく大丈夫だと請け負うという意味で証明の意味から保証となります。家電の保証書が代表例です。