FIRE: 投資でセミリタイアする九条日記

九条です。資産からの不労所得で経済的独立を手に入れ、自由な生き方を実現するセミリタイア、FIREを実現しました。米国株、優待クロス、クリプト、太陽光、オプションなどなどを行うインデックス投資家で、リバタリアン。ロジックとエビデンスを大事に、確率と不確実性を愛しています。

マネーのインターネット ビットコインのポテンシャル(2)

 全開、ビットコインのポテンシャルとして「デジタルゴールド説」について考えてみました。今回は2つ目の説、「マネーのインターネット」説について。  

情報のプラットフォームであるインターネット

まず、現在のインターネットが情報のプラットフォームであることに異論のある人はいないでしょう。コンピュータ自体がネットワークで接続され始めた90年代前半、そして、それらのネットワークが相互に接続されインターネットが誕生した90年代後半は、本当にダイナミックな時代でした。

 

このブログの読者の中には、インターネット以前を知らない人も多いと思います。当時、メールといえば郵便のことで、一部のコンピューターユーザーの間ではパソコン通信のメールが使われていましたが、まだ一般に使えるものではありませんでした。情報を得るのは書籍か人に聞く方法に限られ、ニュースはテレビか新聞でした。

 

1995年末に出たWindows 95が、インターネットが一般に普及するトリガーとなったといえます。ここから、メールは個人、企業とも急速に普及し、また、ネット通販、ネットサービスも爆発的な進化を遂げることになります。

 

当然、ネット証券やネット銀行も登場し、既存の証券会社や銀行もネットサービスを提供するようになりました。ところが、それはほふりと証券会社をつないだネットワークに注文を出すためのインタフェースであり、また全銀ネットで結ばれた銀行間のネットワークに指示を出すためのインタフェースに過ぎませんでした。

 

当時すでにマネーは電子化されてネットワークに乗っていましたが、インターネットとは別の、切り離されたネットワークで動いていたのです。そしてインターネットは、それらのネットワークを参照したり、指示を出したりする役割しか持っていませんでした。

ビットコインの誕生

ところが2008年に誕生したビットコインは、当初からその本体をインターネット上に置いていました。ビットコインネットワークというものにインターネットから指示を出すのではなく、ビットコイン自体がインターネット上にあったのです。

 

これを可能にしたのがブロックチェーンという革新的な発明だったわけですが、ここでは技術の詳細には触れません。何が従来と違ったかというと、インターネット上でマネー=価値の移動自体が可能になったのです。

 

ではなぜビットコイン≒仮想通貨がマネーのインターネットだといわれるのでしょうか。まず、インターネットは分散型で管理されており、全体を把握する機関などがありません。そして、どこかのノードがダウンしても、網の目のように張り巡らされたネットワークは、ダウンしたノードを迂回して接続し、全体として機能を果たします。

 

このように、管理する中央の機関が存在せず、国境も関係なく、情報に関して自由な活動が可能になったのがインターネットです。もちろん、テロリストもインターネットを使いますし、違法な販売サイトなど世の中の黒いサービスもたくさんあります。それでも、そうしたことも含めてそれがインターネットなわけです。

 

ビットコインも同様です。中央機関なしで国境なく稼働し、アングラなものも含めて価値に関して自由に活動が可能になりました。マネーは基本的に国家が管理するもので、カネの流れをコントロールすることは、社会をコントロールすることとイコールでした。それがビットコインによって覆ったのです。

 

インターネット以前を少しだけ知っている身としては、この2つが類似に思えて仕方ありません。エスタブリッシュが独占していたメディアというものが、インターネットの登場で初めて民主化しました。知っての通り、金融というものも、国家とエスタブリッシュが基本的に牛耳ってきたものです。それがビットコインによって、初めて民主化されたのです。

セキュリティトークン

さて、マネーだけでなく価値と書いたのは、さまざまな財が、ブロックチェーン技術によってインターネットに乗るようになってきたからです。有価証券(セキュリティ)のトークン化という話を聞いたことがあるでしょうか。株式や債券などをブロックチェーンに乗せるトークン化し、それをインターネット上でやりとりするできるようにしたものです。他の仮想通貨と同様に「トヨタ株」や「トヨタ社債」という仮想通貨が生み出せるようになったと考えると近いと思います。これをST(セキュリティトークン)といいます。

 

STの何が素晴らしいかというと、間に証券会社などが入ることなく、インターネット上で授受が可能になることです。その昔、株券が紙だったころのように、簡単に人に譲渡できるようになるわけです。ほかにも多くのメリットがあります。

 

証券ネットワークは証券ネットワークで閉じており、銀行のネットワークもその内部で閉じています。そのために、証券を売買して、その代金を支払おうと思ったら、別々のネットワークに同時に指示を出して、それぞれがうまく移動したことを持って決済完了とするしかありませんでした。証券の権利が移転したのに、お金が移転していない。これは、カウンターパーティーリスクと呼ばれ、さまざまな価値がデジタル化された中でも課題となっていました。

 

ところが、STを受け渡す際に代金として仮想通貨で支払ったらどうでしょう。この取引をブロックチェーン上で同時に実行することで、双方ともに相手の不払いリスクをなくすことができます。これはDVP(Delivery Versus Payment)といい、多くの場合はほふりなどのクリアリング機構が役目として担っています。しかし、STと仮想通貨の組み合わせは、クリアリング機構なしに、しかも即時にDVPを実現するのです。

 

実は企業側の同意なしに、実物の株式を裏付けとしたトークンを発行し、それを売買できるようにすることで、実質的なSTを実現しているところもあります。

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イーサリアムのようにプログラム可能な仮想通貨は、さらに可能性を広げてくれます。例えば社債の利子について考えてみましょう。年1回、2%の利子を払うためには、管理する信託銀行などが、誰がその社債を持っていて、いつ、いくらを支払う必要があるのかを管理しています。そして支払いタイミングになったら、銀行口座に振り込みを行うわけです。想像しただけでかなりの手間とコストがかかることが分かります。

 

これがSTだったらどうなるでしょうか。STとともにブロックチェーン上で稼働するプログラムは、STの保有者のアドレスに、自動的に利子を送金します。アルゴリズムを信頼すればOKで、あとは自動的に支払いと受取が完了するわけです。

レイヤー 

ビットコインがマネーのインターネットだという話をすると、いろいろな反論が出てきます。10分に1回という決済速度の遅さ、ビットコイン価格の暴騰とともに現時点で5000円程度まで高まってしまった送金コスト、またマイニングという無意味な演算競争によって、ポルトガル2.5国分以上とも言われる電力消費などがそれです。

 

ところが、これらはいずれも技術の問題であって、ビットコインの本質的な課題ではないことに注意が必要です。その解の1つになるのが、レイヤー構造でしょう。

 

インターネットが複数にレイヤーに分かれた階層構造になっているのはよく知られています。最下層のネットワークインターフェイス層から始まって、IPプロトコルが属するインターネット層、TCPが属するトランスポート層、そしてHTTPやPOP3などが属するアプリケーション層です。

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OSI参照モデルとTCP/IPの階層の違いとは? 【2分間Q&A(1)】|ビジネス+IT

 

ビットコインネットワークにおいても、同様に複数のレイヤーを重ねた構造になっていくという考え方があります。これはレイヤー2と呼ばれ、ビットコインの価値の上に、高速で低コストな送金システムを載せようという「ライトニングネットワーク」などが代表例です。

 

このレイヤー2で、実際の送金は行われ、複数の送金トランザクションが貯まったら初めて、実際のビットコインのブロックチェーンにそれを書き込むというイメージです。このように、ビットコインにかかわる課題の多くは技術面にあり、これは根本部分やレイヤー構造で解決できるものです。そして、ビットコイン自体のセキュリティと、多くの人がビットコインに価値を認める限り、マネーのインターネットというビットコインの価値は存続できるわけです。

 

ラップドBitcoin(WBTC)も近いものですね。これはEthereum上のREC20トークンとしてBitcoinを発行したものです。Bitcoinを裏付けとして発行されたEthereum上のトークンであり、Bitcoinと1対1の価値を持ちます。これによって、BitcoinがEthereumネットワーク上で扱えるようになるわけです。送金コストも、ERC20トークン扱いで行えるようになりますし、Ethereum上のプログラムで扱うこともできるようになります。このときも、Bitcoinに本質的な価値があることが担保になっています。

インターネットとは違うレイヤーの価値

インターネットが情報を民主化したように、ビットコイン≒ブロックチェーンはマネーを民主化する——。そんな意味で、ビットコインはインターネットに匹敵すると言われるわけです。

 

ただし、少し違うところもあります。インターネットにおいて、それをビジネスとして大成功したのはアプリケーション層のプレーヤーでした。Google、Amazon、Facebook、いずれもHTTPレイヤーのところでアプリケーションを作り、それによって莫大な富を生み出しました。一方で、光ケーブル事業者やTCP/IPの発明者が富んだという話は聞きません。さまざまなネットワークプロトコルがTCP/IP、HTTPに集約されていく中で、差別化や収益化のポイントはアプリケーションだったわけです。

 

ひるがえって仮想通貨においては、低レイヤーに当たる仮想通貨自体が価値を持ちます。下記は、Joel Monegroが2016年にポストした有名な図です。

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Fat Protocols | Union Square Ventures

TCP/IPとは違い、ブロックチェーンのプロトコルは、それを稼働させるために仮想通貨が必要であり、プロトコルが普及すればふるほどその燃料である仮想通貨の価値も増大するからです。

 

これはEthereum上で動くUniswapなどが発展するにつれ、基盤であるEthereum自体の価値もどんどん上がっていくことを見ると分かります。インターネットではTCP/IPに投資することはできませんでしたが、ブロックチェーンではプロトコルに投資できるわけです。

 

インターネット上で動いているビジネスの価値はどのくらいでしょう? Amazon1.6兆ドル、Google1.5兆ドル、Facebook0.9兆ドル、Tencent0.7兆ドル、Alibaba0.6兆ドル。これらを合わせただけでも5.5兆ドルです。これと同様の価値が仮想通貨にあると考えれば、現在の仮想通貨時価総額2.37兆ドルというのも別におかしくないと考えられますね。

 

インターネットがすべての産業のあり方を変えたように、仮想通貨はそのほかのすべてのビジネスを変革するでしょう。そしてその価値は、多くがプロトコルであるコインに帰属するわけです。

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