FIRE: 投資でセミリタイアする九条日記

九条です。資産からの不労所得で経済的独立を手に入れ、自由な生き方を実現するセミリタイア、FIREを実現しました。米国株、優待クロス、クリプト、太陽光、オプションなどなどを行うインデックス投資家で、リバタリアン。ロジックとエビデンスを大事に、確率と不確実性を愛しています。

保険必要論、不要論の裏にある、手数料70%の闇

再び保険不要論が論議を呼んでいます。しかし、いくつかのやりとりは「保険は不要だ」「いや、保険は必要だ」という話になっていて、いずれも極論すぎますね。本当の論点を整理して考えてみたいと思います。

「保険」自体は絶対に必要だ

まず保険自体は必要なものです。世の中には、起きてしまったら対処しようのない出来事というものがたくさんあり、それを相互補助しようというのが、もともとの保険の成り立ちです。

 

身近なところでは自動車任意保険があります。事故で相手が亡くなってしまったら数億円の支払いが必要になりますが、保険に入っていなければ普通は払うことができません。自らの破滅なだけでなく、被害者の家族にとっても悲惨な状態を引き起こしてしまいます。

 

火災保険もそうです。自宅を失って済むだけならともかく、ローンが返済できなくなることによる銀行への損害、周囲への延焼被害も考えると、少なくとも金銭面だけは保険で手当しておくべきです。

 

幼い子どもがいる家庭での生命保険もそうですね。もしも自分が亡くなっても、家族がしっかり成人できるまでの費用は、保険なり資産の積立なりで確保しておく必要があります。

論点1 そのリスクは本当に壊滅的なのか

では何が論点なのか。1つは、そのリスクは本当に壊滅的なのかという点です。自動車の車両保険が分かりやすい例でしょう。クルマの値段にもよりますが、もし事故で車両が破損しても、修理代はまぁ新車価格までです。300万円のクルマなら、修理費用は最大300万円を見ておけばまず大丈夫です。

 

これは、もし起こってしまったら破滅的なリスクでしょうか。仕事で使っているクルマで、クルマが使えないと仕事にならないという場合は、(1)保険に入る(2)修理費用を積み立てておく という選択肢があります。

 

保険会社は慈善事業ではないので、確率論的には保険に入った方が「お得」になることはあり得ません。いざという時のリスクを低減するため、(1)保険料というプレミアムを支払う、か(2)現金を確保しておくという運用損失を受け入れるか、のどちらかの選択になります。

 

医療保険のように、加入者の多くが保険申請を行うようなものもそうですね。まれにしか起きないから保険の意味があるのであって、頻繁に起こる出来事に保険を使うのは本末転倒です。

 

例えば、「風邪保険」というものを考えてみましょう。入院にかかわらず風邪を引くと保険金がもらえるというものです。こんな保険があったとして、支払う保険料よりももらえる保険料のほうが少ないのは明らかです。それでも「風邪を引いてしんどいときにお金が受け取れるのは精神的に安心だ」という人がいることは否定しません。ほんの少しのリスクでも、それが大きな苦痛ならば、お金を払って解消することは合理的だからです。

 

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論点2 その保険料は適正なのか

2つめの論点は、保険料について。この保険料の内訳は次のようになっています。

  • 純保険料 支払った保険料から保険金として支払われるもの
  • 付加保険料 保険会社の経費と利益

純保険料は、さまざまな統計を元に、確率を計算して保険数理士(アクチュアリー)が算出します。例えば加入者1000人から1万円ずつ集め、事故に遭った人1人に1000万円支払うというものです。この場合、確率は1000分の1という感じですね。相互助け合いのための費用です。

 

一方の付加保険料は、保険会社を運営する経費、人件費や宣伝費などに使われます。また保険会社の利益もここに入ってきます。つまり保険会社の取り分です。

 

ところが、この付加保険料はほとんどの場合、開示されていません。どこまでが保険の元本で、どこまでが手数料なのかが分からないまま保険を買っているということです。これは投資信託でいえば、信託報酬が10%の商品を、信託報酬率を開示しないまま売っているということと同じです。

 

保険料のうち「純保険料」はたいへんに複雑な計算になり、かつ加入する人によってリスクが異なるため、他人との比較ができません。高い、安いは何も言えないのです。ところが、付加保険料は要するに保険会社が取る手数料ですから、本来は開示すべきものでしょう。これは、投資信託にほぼ類似した貯蓄型保険で顕著です。金融庁は令和元年の金融行政方針で、次のように書いています。

販売会社においては、外貨建保険の販売額が急増するなか、本来の顧客ニーズに見合った販売となっているかといった適合性の検証のほか、外貨建債券や投資信託等の類似商品とリスク・コスト・リターン等の比較を行うことにより商品の特性をわかりやすく説明すること、販売後においても、顧客の運用損益等の情報提供を充実することなどが求められる。 

付加保険料率はどのくらいなのか

ちなみに、この付加保険料、投信でいう手数料はどのくらいの比率なのでしょうか。ライフネット生命は、2008年に付加保険料率の公開に踏み切りました。

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これは年齢や性別によっても異なりますが、30歳男性定期死亡保険で付加保険料率は23%、30歳女性終身医療保険で25%と、例示されています。

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投信の手数料に比べて、20数パーセントは高いと思うでしょうか? いや、このライフネット生命の例は業界最低水準と言われている保険商品だということに注意です。保険テック企業のjustInCaseは「わりかん保険」という形のガン保険を提供し、付加保険料率を開示していますが、それでも35〜25%(加入者増加によって引き下げ)となっています。

 

そして、大手保険会社は付加保険料率を開示していませんが、この「純保険料」を元に、大手生保の商品を逆算すると、なんと付加保険料率は70%にも達するといいます。

しかし、ここで注意が必要なのは、これは保険料が業界最低水準といわれている商品の例なのです。同社の純保険料をもとに、複数の大手生保で同じ「定期保険」に加入する場合の保険料を確認すると、計算過程は省略しますが、付加保険料率は70%前後にも達することがわかります。

「大手の定期保険専用ATM機に1万円入金すると約7000円の手数料が引かれる」イメージです。公営ギャンブルにおける25%の控除率がヤクザまがいであるとしたら、30~70%にもおよぶ付加保険料率は、どのように受け止めたらいいのでしょうか。

生命保険の付加保険料率は正当化できるのか | 生命保険との正しい付き合い方 | 東洋経済オンライン

支払った保険料のうち、助け合いに使われるのはわずか30%で、残り70%は保険会社が取っていく。こんなぼったくり構図を公開できるはずもありません。

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保険必要論の論理のすり替え 

最初にも書いたように、保険という仕組みは個人にふりかかるリスクを平準化してくれる素晴らしい仕組みです。困ったときの助け合いの精神がそこには生かされています。しかし、70%なんていう高額な手数料率については到底納得できるものではありません。

 

なぜこんな高い手数料率が必要になるかというと、たくさんのお金を使ったCMで人びとの不安をあおり、高いインセンティブを付けた歩合制の営業マンが売りまくっているからです。こうした背景があるために、保険の意義は認めつつも、保険募集人の方達の「保険は大事です!」という言葉を素直に受け取れないのです。

 

当然ながら、金融庁もこうした点は問題視しており、貯蓄型保険については投信などと比較できる手数料率などを開示するルール作りを進めています。2021年にも……となっていますが、果たしてどこまで透明にできるか。

金融庁は個人が金融商品の購入に伴う手数料負担を比べやすくするための共通ルールを設ける。投資信託や貯蓄型の保険を対象に2021年にも導入する。販売窓口となる金融機関が自らの手数料収入を優先して商品を勧めるのを防ぎ、個人の資産形成を後押しする。

投信や保険、手数料開示で共通ルール 比較しやすく: 日本経済新聞

 

というわけで、コストの適正な保険に、そのリスクを取りきれない人が加入するのは素晴らしいこと。一方で、コストが割高な保険を、CMと営業力でリスク負担出来る人にまで売りつけるのは、いかがなものかと思うわけです。

 

保険は重要だという保険募集人の方には、1件の保険契約で、保険料の何割くらいを販売手数料として受け取っているのか、ぜひ開示した上で、重要性を述べて欲しいものです。 

 

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