最近、投資熱が盛り上がり過ぎて「消費にお金を使わないで投資にお金を使うべきだ」というような意見を耳にすることが増えました。あたかも、消費=悪、投資=正義、というような感じです。しかし、果たしてそうでしょうか。
お金を増やしたいのか豊かな人生を送りたいのか
投資に目覚めた人が陥りやすいのは、何が何でもお金を貯める、増やすのが正義という考え方です。日々増加していく証券口座を眺めてウキウキする。入金できるとうれしい。これは、投資の魔力であり、これを心地良いと思うから資産が増えていくという側面は確かにあります。
でも、これが行きすぎると、いわゆる「金の亡者」的になってしまいます。何歳になってもお金を増やしたくて、大量の数字が書き込まれた通帳を見ながら幸せを噛み締めつつ、人生の最後を迎える——。
本人がそれで幸せならば別にいいのですが、幸せな人生を送るために資産を構築してきたはずが、途中から資産を構築するのが人生の目的に変わってしまうような人は意外といるものです。質素に暮らしていた老人が、亡くなったあと、実は大富豪だということが分かった。こんな話は意外とそこらじゅうにあります。
投資とは消費を先送りする行為である
そもそも投資とはどういう行為でしょうか。端的にいえば、現在の消費を我慢して将来に先送りすることを指します。先送りすることで、対価としてリターンを得る。この間失われた時間価値の代わりにリターンが得られるのです。
投資というのは、現在の消費を未来に先送りすることで追加リターンを得る行為なので、
— セミリタイア九条 (@kuzyofire) 2021年7月4日
消費を養分と言う人は、一生消費しないで先送りしてくれると助かります。
人の養分にならず、いい人生だったと振り返れるのではないでしょうか。
これはちょうど借金の裏返しです。借金は、将来使うのを前借りして今使う行為です。その対価として利息を払います。
結局のところ本質は、「今使いたいのか」「将来使いたいのか」の違いであり、今使いたいなら利息というコストがかかり、我慢して将来使うのなら投資益というリターンが得られるわけです。
先送りと前借りの等価性
これは、先送りによる投資リターンと、前借りによる借金の金利が連動していることからも分かります。最も確実な投資といえば国債、そして最もメジャーな借金といえば住宅ローンですが、この2つの金利がほぼ連動しているのはよく知られています。
住宅ローン金利は、短期プライムレートや10年債国債利回り(長期金利)に連動します。これに、銀行の利ざやが乗ってくる感じです。
そして投資リターンは、国債利回りに取ったリスクに応じたプラス(リスクプレミアム)が追加されて決まります。株式の場合リスクプレミアム(エクイティリスクプレミアム=ERP)は平均して5%というところです。
(株式は取ったリスクより儲かる? エクイティプレミアムパズルの謎 - FIRE: 投資でセミリタイアする九条日記)
つまり、手数料やリスクプレミアムを別にすれば、投資して先送りするのも借金して前借りするのも等価だということです。単純に「いつ消費したいのか?」という問題でしかありません。
それでも投資が必要なわけ
それでも投資がほとんどの人に必要なわけは、将来仕事を引退した時に、つまり稼ぎがなくなったときに消費をしたいからです。この老後の消費のために、現在の消費を我慢するのが資産構築という意味での投資になります。
だから「一生働き続けるよ」とか「老後に入る前に死ぬよ」という人は、別に投資なんてする必要もありません。逆に、「さっさと仕事を引退してのんびり暮らしたいよ」という人の場合、投資が特に重要になります。
投資は重要なのですが、2つのことは忘れてはいけません。
1つは、若いほどお金の価値は高い傾向にあるということです。これはある程度年を取らないと実感できないことだと思います。年長者に会ったらぜひこの質問を聞いてみてください。
- 「60代にとっての100万円と、20代にとっての10万円は、どっちが価値が大きいですか?」
- 「40代にとっての35万円と、20代にとっての10万円は、どっちが価値が大きいですか?」
40代になった人は、「今の35万円より、20年前の自分に10万円を上げたい」と思う人もいるでしょう。貧乏だった20歳の自分にとって、10万円は大金であり、その金があればやりたいこと、できることはたくさんあったものです。また、60代になったときには100万円は確かに大金ですが、ないとものすごく困るというわけでもなく、子どもや孫が必要としているなら援助したいと思える金額かもしれません。
実はこれ、6%で複利運用した場合、ほぼ同価値となる金額なんです。平均6%で運用できる人でも、場合によっては20代のときにお金を使った方が幸福だった……ということは十分にあり得るわけです。
2つ目は、人は意外とお金を貯め込みすぎるということです。多くの人が、死んだときにかなりの資産を使い切れずに残しているのです。これは、消費を先送りしすぎた結果、死後まで先送りしてしまったということですね。もしかしたら、消費の先送りなんてしないで、若い内に消費に使った方がよかったのかもしれません。
もちろん、年金額がどうなるか不透明だったり、築いてきた資産が市況悪化で大きく減少するリスク、さらに自分が何歳まで生きるか分からないというリスクも考えると、多めに資産を盛っておきたいという気持ちもよく分かります。ただしそこにはトレードオフがあって、若い内の消費を諦めてきたということです。
こうしたわけで、借金は未来ではなく現在消費する行為だし、投資は現在ではなく未来に消費する行為なわけです。どちらが正しいとか誤っているということはなくて、考え方と環境によって正解は変わります。現在使いすぎないように、また将来に残しすぎないように、気をつけていきたいと思っています。