FIRE: 投資でセミリタイアする九条日記

九条です。資産からの不労所得で経済的独立を手に入れ、自由な生き方を実現するセミリタイア、FIREを実現しました。米国株、優待クロス、クリプト、太陽光、オプションなどなどを行うインデックス投資家で自由主義者、リバタリアン。ロジックとエビデンスを大事に、確率と不確実性を愛しています。

金融庁の「資産運用業高度化プログレスレポート」が面白い

異論反論は金融業界からいろいろあるようですが、2015年の森長官以後の金融庁は、「投資商品はこうあるべきだ」という一定の思想をもって運営をしているようです。それが色濃く出ているのが、6月に昨年に引き続き公開となった「資産運用業高度化プログレスレポート2021」です。

 市場平均を上回れない、アクティブファンド

以前から、プロが目利きして銘柄を選定するアクティブファンドは、市場平均であるインデックスファンドを上回れないということが言われてきました。これを、金融庁自身が国内資産運用会社のデータを集計して、確かにそうだ、ということを示したのが、「資産運用業高度化プログレスレポート2020」でした。

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「資産運用業高度化プログレスレポート2020」

なぜアクティブファンドがインデックスファンドを上回れないか? の理由には、「高い信託報酬」が挙げられることが多かったのですが、実は運用自体が稚拙というのもあるようです。

信託報酬控除前のシャープレシオをみても、アクティブ投信(平均0.29)は、総じてパッシブ投信(平均0.42)を下回る。日本のアクティブ投信は、市場平均を上回る超過収益を上げるという目標を達成できていないものが多い。

(資産運用業高度化プログレスレポート2020)

大手運用会社と小規模独立系で違いが

ただし、これをもう少し分解すると、なぜインデックスを上回れないのかの理由の一端が見えてきます。下記は、純資産総額の多寡を横軸に取ったパフォーマンス(平均シャープレシオ)の違いです。

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資産運用業高度化プログレスレポート2021

これを見ると、純資産総額が大きい資産運用会社はのきなみ、平均でインデックスファンドのシャープレシオを下回っていることが分かります。一方で、純資産総額が小さい独立系運用会社では、インデックスを上回るものがしばしば見られるのです。

 

これはなぜか。実は、金融庁がファンドのパフォーマンスを気にする理由がそこにあります。金融庁は「顧客利益を最優先するガバナンスの確立」を目指すことを掲げています。裏返すと、多くの資産運用会社で、「顧客利益よりも自社の利益を優先している」状況があるということです。

 

大手の純資産総額が大きい資産運用会社でよくあるのは、顧客に利益がある商品よりも、「売れる」商品を作るというカルチャーです。大手は総じて営業が強く、営業は顧客が儲かる商品よりも、顧客に売りやすい商品を求めます。結果、「ロボットファンド」「5Gファンド」のようなキャッチーなテーマを掲げた投信が量産され、それを営業が大々的に売り歩くということになります。パフォーマンス向上のための努力よりも、分かりやすさ、売りやすさ。これは、粗悪な商品を営業力で売りさばいている状況ともいえます。

なぜ同じインデックスファンドでコストに差があるのか?

金融庁が問題としているのは、アクティブファンドに限りません。インデックスファンドでも、けっこうな問題があります。例えば、同じ指数——日経225やTOPIXに連動しているインデックスファンドなのに、信託報酬=コストが違う。これはなぜだろうと思ったことがありますよね。確かにそうなのです。金融庁もこれを取り上げています。

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資産運用業高度化プログレスレポート2021

TOPIX連動のインデックスファンドを見てみると、信託報酬が0.2%を切っているものから、なんと1.7%近いものまで、実にコストは8倍もの開きがあることが分かります。

 

これはなぜか。1つは販売チャネルの違いです。右上のプロット図を見ると、「財形専用」のファンドが飛び抜けて高い信託報酬となっていることが分かります。また、DC(年金)専用も最高値は1%を超えています。これは様々な理由があるにしても、ユーザーが選択できず、会社が選んだ場合に、高いコストのものでも受け入れられているのではないかという疑念が沸き起こります。

 

企業向けソフトウェアの話でよくあるように、実際に利用する社員にとっての使い勝手よりも、企業にとっての利便性で導入するソフトは選ばれてしまうため、使いにくい業務ソフトばかりになってしまう*1。それに似た構造がありそうです。

 

2つ目に、設定後の経過年数があります。右下のグラフを見て一目瞭然のように、インデックスファンドのコストは年々下がってきています。ところがそれは既存ファンドの値下げではなく、値下げした新型ファンドを投入することで実現されているんですね。そのため、古くから投資している人は極めて高い信託報酬を払い続けることになってしまっています。

 

投資家からすると、乗り換えるにもコストがかかる(含み益に課税される)わけで、困った話なのですが、業界内の視点で見ると、なぜこうなるかも分かります。投資信託は運用会社が勝手に信託報酬を決められるわけではありません。信託報酬は、販売会社と運用会社(委託会社)、信託銀行(受託会社)で分けるものだからです。

 

信託銀行のコストは低いのでまぁいいとして、既存のファンドの信託報酬を下げようと思うと、販売会社は嫌がります。それはそうですね。話が違うということになります。ならば、新たに低い信託報酬のファンドを立ち上げたほうが早い。こうなるわけです。

信託報酬の隠れコスト

もう一つが隠れコストです。投資信託は、信託報酬という形で年率のコストが必ず開示されていますが、実はここに含まれないコストもあるのです。

例えば、目論見書等の法定書類の作成に係る費用を信託報酬に含めているファンドがある一方で、「その他費用」として別途受益者の負担としているものもある。 

(資産運用業高度化プログレスレポート2020)

 さて、この「その他費用」は気にするほどの額なのでしょうか? 下記は、同レポートでつみたてNISA対象のインデックスファンドのうち、法定書類等作成費の明細が明示されているファンドの平均費用構造をまとめたものです。

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けっこう衝撃的じゃないですか? 一見信託報酬が安く見える投資信託でも、実は「その他費用」としてけっこうな額を取っていて、平均を取ると、こんな構造になってしまっているということです。

 

ユーザーにとって、理解した上でのコストは何の問題もありませんが、隠されていたコストがあってそれを取られるというのはよろしくありません。金融庁の言うとおり、「費用の透明化」が求められるところです。

 

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*1:もっとも昨今はSaaSの普及によって、最終利用者の使い勝手を重視したプロダクトが増えてきていて、素晴らしい限りです。