FIRE: 投資でセミリタイアする九条日記

九条です。資産からの不労所得で経済的独立を手に入れ、自由な生き方を実現するセミリタイア、FIREを実現しました。米国株、優待クロス、クリプト、太陽光、オプションなどなどを行うインデックス投資家で、リバタリアン。ロジックとエビデンスを大事に、確率と不確実性を愛しています。

高いリスクを取ってもリターンが増えないのはなぜか 『ウォール街のランダムウォーカー』12版再読 第9章

前回の第8章で、「リスクが高い金融商品ほど、リターンも大きい」とありました。しかし、もう少し踏み込んでみると、これはそれほど単純な話ではありません。例えば、SBGのような極めてボラティリティの高い、つまりリスクの高い銘柄を買ったからといって、それに比例してリターンが大きい……と単純にいうことはできないのです。

 

第9章はこのリスクの謎について。

取り除けるリスクと取り除けないリスク

「リスクが高い金融商品ほど、リターンも大きい」というエビデンスとともに、「複数の商品に分散して投資するとリターンはそのままにリスクを減らせる」という数学的な事実も8章では明らかになりました。

 

では、リスクの大きい銘柄を持てば、期待できるリターンも大きくなるのでしょうか? 実はそうならない……というのが、今回の話題です。

 

まず分散するとどんなリスクを減らせるのでしょうか? 実はリスクは2つに分解できます。

  • システマティックリスク 株式市場全体が動くのに合わせて動くリスク
  • 非システマティックリスク 企業特有の要因で生まれるリスク

非システマティックリスクは、不正会計やストライキ、事故などその企業特有の問題で発生するリスクです。一方、例えば日経平均が上昇したらどんな日本株も大体は上昇するわけですが、これがシステマティックリスクです。

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そして、リスクの高い銘柄を持ったからといって、そのリスクのすべてが高いリターンにつながるわけではありません。

個別証券のリスクのすべてが、リスクの代償としてプレミアムにつながるわけではない。総リスクのうち非システマティックリスクの部分は、適切な分散投資によって容易に取り除くことができるからだ。したがって、投資家が非システマティックリスクを負うことに対してリスク・プレミアムが支払われると考えるべき理由はない。

つまり、リスクを取ることで高いリターンを得られるのは事実だけれど、簡単に取り除けるリスクはリターンの源泉にはなり得ないというわけです。これは数学的な事実というわけではなく、裁定取引にも似た思考実験で簡単に理解できます。

 

分散投資でなくすことができるのは、このうち非システマティックリスクで、システマティックリスクのほうは、なくすことができません。例えば、日経平均などのインデックスを持つ場合、そこに存在するのはシステマティックリスクだけです。

 

システマティックリスクの度合いが同じで、銘柄個別のリスクが高いグループ1と、銘柄個別のリスクが低いグループ2に、それぞれ60銘柄ずつ投資するとします。「リスクが高ければリターンが大きい」のならば、グループ1のほうが高いリターンになりそうです。

 

ところが、個別銘柄のリスク(非システマティックリスク)は分散投資によって簡単に取り除けます。すると残るのはシステマティックリスクだけだということになります。もともとの前提が「システマティックリスクの度合いが同じ」だったので、グループ1とグループ2のリスクは同じ。にもかかわらず、リスクの高い銘柄を集めたグループ1のほうがリターンが大きければ、投資家はグループ2の銘柄を売ってグループ1の銘柄を買います。結局、2つのグループのリターンは同じところに落ち着くというわけです。

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これが、CAPMと呼ばれる資本資産評価モデルの背後にある考え方です。言い換えれば、リスクの高い銘柄への投資は、そのリスクの割に報われない。ということになります。だって、高いリスクの原因となっている、ビジネスの不安定さや突飛なCEOなどは非システマティックリスクで、それは分散することで取り除けるからです。

リスク=ベータ

このように「リスクが高い金融商品ほど、リターンも大きい」で言う「リスク」とはシステマティックリスクのことを指します。そして、このシステマティックリスクを数字で表したものが、ベータ(β)と呼ばれるものです。

 

このベータは、市場平均の指数のベータを1としています。ある株式のベータが2ならば、その株価は市場平均の2倍揺れ動くというわけです。つまり市場平均は、ベータの低い銘柄とベータの高い銘柄で構成されていて、全部合計すると1になるというわけです。

 

このベータは米国株であれば簡単に調べることができます。下記は米Yahoo!FinanceでApple株を表示させたところですが、サマリーの上の方に「Betaは1.2」と表示されています。これは、市場平均が1動くとApple株は1.2動くことを意味しています。

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つまり、Apple株ホルダーは市場平均の1.2倍のリスクを取っているわけで、これは取り除けないシステマティックリスクですから、取っただけのリターンを期待していいことになります。CAPM理論が示すところでは、Appleの期待リターンは、S&P500などのインデックスの1.2倍というわけです。

CAPMは、長期平均的に高いリターンを得るためにはポートフォリオのベータを高めればよいと主張する。ベータが1よりも高いポートフォリオを作るためには、ベータの高い株式を買うか、平均的な変動性を示すポートフォリオを信用買いすればよい。

実際に、1970年代には米国でベータが大流行しました。高いベータを持った銘柄を集めれば、相応にリスクは高まるもののリターンもそれだけ大きくなるのですから。

 

少なくとも、理論はそれを指し示しています。しかし実際はどうだったのでしょうか?

ベータの不思議

実は実証研究によると、ベータの異なるポートフォリオとリターンの間には何の関係もありませんでした。

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個別株式やポートフォリオのリターンと、計測されたベータには何の関係も見いだされなかったのだ。

ファーマとフレンチの包括的な研究はほぼ30年近い期間を対象にしており、ベータとリターンは基本的に勾配ゼロの直線で示される関係にあるというのがその結論である。

あれあれ。CAPM理論は次のことを示していました。

  • リスクが高いほどリターンも大きくなる
  • ただし、効果のあるリスクは分散で取り除けないシステマティックリスクだけである
  • システマティックリスク=ベータの大きさで、リターンの大きさも変わる

ところが実際のデータでは、ベータが大きい銘柄を集めても、リスクばかり高くてリターンは大きくならなかったのです。

市場とは何か?

リスクが大きい=ボラティリティが大きいわけですが、このようにボラティリティが大きい銘柄のリターンが相対的に小さいという謎は、「ボラティリティパズル」とも呼ばれています。

ボラティリティ・パズルは、「ボラティリティ効果」とも呼ばれ、ボラティリティが高い銘柄の将来リターンが低い現象をいいます。これは、高リスク・高リターンというのが投資の常識であるのに対して、現実の市場では必ずしもあてはまらない事象を指します。

ボラティリティ・パズルとは|金融経済用語集 - iFinance

正確に言えば、ボラティリティ(リスク)はシステマティックリスクと非システマティックリスクに分けられ、非システマティックリスクのほうはリターンに貢献しないのですから、単にボラティリティが高くてもリターンが高くならないのは先に書いたとおり。

 

でも、高いシステマティックリスクを取ってもリターンが上がらないのはなぜでしょう?

 

著者は、「私は現時点ではまだベータの死亡記事を書く気にはならない」としています。その理由の1つは、「市場」の定義です。

 

システマティックリスクとは、株式市場全体が動くのに合わせて動くリスクのことでした。ところが、これは正確ではなく、株式市場の変動は、システマティックリスクを構成する要素(ファクター)の1つにしか過ぎないという考え方です。

S&P500指数は「市場」そのものではない。株式市場にはアメリカの何千という銘柄と、さらに外国の何千という銘柄が含まれているのである。その上、資産市場には債券、不動産、貴金属や他の商品など、ありとあらゆる資産があり、中でも教育と職業と人生経験によって作り上げられる人的資源は最も重要なものである。まさに「市場」をどのように定義するかによって、得られるベータの値は大きく異なってくる。

つまり、株式指数を表すベータだけでは、システマティックリスクのすべてを捉えきれないというわけです。例えば、国民所得の変化も個々の株式にシステマティックな影響を与えるし、金利の変化もそう。インフレ率もそうです。このように複数の要素(ファクター)が、システマティックリスクを構成しており、単純にベータだけではリスクを測り得ないというわけです。

 

では、株式市場の変動(=ベータ)をファクターの1つとして、そのほかにもいろいろなファクターを用いてリスクを計測してはどうか? これがマルチファクターモデルの考え方であり、これを用いた投資法は「スマート・ベータ」と呼ばれます。こちらについては第11章にて。

 

また高いベータが高いリターンをもたらさないことは、理論家にとっては問題でも、投資家にとっては逆に福音かもしれません。ベータが低い銘柄を集めて投資すれば、「市場と同程度のリターンを、より少ないリスクで得られる」ことを意味するからです。

第10章 次の潮流 行動ファイナンス

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