FIRE: 投資でセミリタイアする九条日記

九条です。資産からの不労所得で経済的独立を手に入れ、自由な生き方を実現するセミリタイア、FIREを実現しました。米国株、優待クロス、クリプト、太陽光、オプションなどなどを行うインデックス投資家で、リバタリアン。ロジックとエビデンスを大事に、確率と不確実性を愛しています。

FIRE後の資産取崩の「生き残り率」をシミュレーションする(1)

先日、「FIREにインカムゲインの安定収入は必要なのか」という記事を書きました。FIREすると、その後は入金がなくなり、資産を取り崩して生活することになります。そのとき、株式100%のポートフォリオがいいのか、それとも高配当株などを持って配当金で生活するのかいいのか。それが疑問点でした。今回はそれを検証してみます。

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ポートフォリオの選択肢とリスク

資産形成を終えて資産取り崩し期に入ると、おのずとポートフォリオに求めるものが変わります。増やすことが目的ではなく、死ぬまで資産が保つかどうか?がポイントになるからです。

 

資産形成期には、十分に(10年以上)時間があるなら株式100%が基本的に優れています。これは、過去のデータから、長期においては最も株式のパフォーマンスが高かったことから導き出されます。しかし、取り崩し期にはそうともいえません。株式はボラティリティ(価格変動)が大きく、取り崩し初期に暴落がたまたま来てしまうと、大きく資産を毀損するシーケンスリスクがあるからです。

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そこで今回は下記のポートフォリオで、取り崩しの成功率をシミュレーションしてみます。

  1. 株式100%ポートフォリオ
  2. 株式50%+現金50%ポートフォリオ
  3. 高配当ETF100%ポートフォリオ
  4. 株式50%+債券50%ポートフォリオ

まず、資産形成期においては株式100%が有利なのはご承知の通り。リーマンショック前2007年からの各ポートフォリオのバックテストを見ると、下記のようになります。

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青線が株式100%(S&P500 ETFのSPY)で、この間の年平均成長率(CAGR)は10.39%。次が高配当ETF(VYM)で8.41%です。株式50%:現金50%のポートフォリオは6.04%まで成長率が落ちます。資産形成期においては、リーマンショック、コロナショックの両方を経ても、株式100%が強いということが過去実績からは分かります。

 

これは資産取り崩し期にも当てはまるのでしょうか?

Portfolio Visualizerのモンテカルロシミュレーションでテスト

これを検証するために、Portfolio Visualizerのモンテカルロシミュレーションを使います。条件を設定したら乱数を発生させて大量の試行を行い、その結果を確率という形で幅で表現するものです。使い方は、先日の記事でまとめました。

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設定した条件は次の通りです。記載ないところはデフォルトのままです。

  • 初期資産100万ドル、取り崩し4.5万ドル(4.5%引き出し)
  • インフレ調整なし
  • 税引き後計算(税率は日本に合わせる)
  • 試算期間は40年間
  • シミュレーションモデルはHistorical Return、フルヒストリー利用
  • シーケンスリスクはなし

今回チェックするのは、40年の期間中、資産がゼロにならずに過ごせるか? という「生き残り率」です。サマリーの最後に、5000回の試行中、何回survived(生き残った)かが表示されます。この比率が、ポートフォリオの成功の是非を表します。下記の例だと95.46%ですね。

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モンテカルロシミュレーションは乱数を使って試行するので、この数字はぴったり同じにはならず、やり直すごとに変わってきます。感覚的にはプラスマイナス0.5%くらいは動く感じでしょうか。

 

それではポートフォリオごとの性能を見ていきましょう。

シーケンスリスクなし、インフレ非対応

下記が、各ポートフォリオの40年間「生き残り率」です。多くのポートフォリオが95%以上の生き残り率になっています。しかし、高配当ETFとして選定したSPYDとVYMは90%を切っていますね。2種類が両方他より成績が悪いことを見ると、高配当ETFはFIRE後には向かない感じがします。

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もう少し深掘りしてみましょう。

 

まず全世界株式のポートフォリオ内訳は、米国市場株50%+非米国株50%で作成しています。こちらのシミュレーション結果は次の通りです。よく見るバックテスト同様に増加していて、4.5%を毎年引き出しても順調に増えている感じです。中央値にあたる50th Percentileでは、名目で年平均8.52%ずつ資産が増加していることが分かります。

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では高配当ETFのSPYDはどうでしょうか。こちらも多くの場合、資産は順調に増加しています。中央値を見ると、年平均資産増加率は6.76%。全世界株と比べると2ポイントほど低いですが、決して悪い数字ではありません。一方で、最大ドローダウンが54.26%(中央値)というのはいただけません。全世界株の38.93%に比べて非常に悪い数字です。また、下位10%の結果にあたる10th Percentileでは、最大ドローダウンが100%に達しています。一撃で資産がゼロになるということですね。

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シーケンスリスクを当てはめてストレスを掛けてみる

ここまでの結果は、インフレも考慮せず、市場が歴史的に平均的に推移する前提のシミュレーションでした。ただし、FIRE後は入金がないため取り返しが付かないことを踏まえて、もっと保守的に検討すべきです。

 

取り崩し期の最大のリスクは、資産額が大きい取り崩し初期の時点で暴落が発生することです。この、いつ暴落が来て、いつ好況が来るかという順番が、取り崩し期には最も重要になります。これがシーケンスリスクです。

 

では、シミュレーションの最初に歴史的な暴落が来たらどうなるか? それをシミュレーションするのが、「Sequence of Returns Risk」です。ワースト1年からワースト10年まで選べ、ワースト10年なら、取り崩しを始めた瞬間に、歴史的に最悪の年が10年続くという、最もストレスがかかる設定になります。

 

さて、こちらは予想通りというか、かなり厳しい結果になりました。最も成績が厳しかったのは高配当ETFのSPYDで、最初に最悪の1年が来ただけで、生き残り率は66.26%まで下落しました。最悪の10年が最初に続いた場合、多くのポートフォリオが20%以下に沈み、5回に4回以上は40年持たないということです。

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例えば、SPYDの資産推移と生き残り率の推移を見ると、次のようになります。なんとか6年はもつものの、急速に資産は減少し、11年目にはどの場合でも破綻することを示唆しています。

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ワースト10年の際の結果をポートフォリオごとに見ると、次のようになります。生き残り率は、全世界株で3.68%、米国株で7.58%ですから、暴落が続いた場合の株式の弱さが目立ちます。

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そんな中でも、生き残り率が50%を上回っているポートフォリオがあります。全世界株式50%+債券50%のポートフォリオです。この資産額推移を見てみましょう。10年間はたいへん苦しい時期が続き、中央値でも資産は3万9000ドルまで下落しています。しかし、ここまで生き残っていることが重要で、その後、下位半分では破綻するものの、上位半分では40年間持つことが分かります。

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増えることよりも、退場しないことが重要

資産形成期であれば、現物で分散投資をしている限り、資産がゼロになることはありません。しかも、積立の継続により、多少資産が減ってもそれをカバーできます。そのため、高いリスクを取っても高いリターンを得ることが重要で、具体的には株式が最適解です。

 

ところが取り崩し期は違います。積み立てではなく引き出しをしているのですから、放っておくと資産はどんどん減少します。そこに暴落が来ると、資産は加速度的に減少し、資産ゼロ、退場、FIRE失敗となるリスクが高まるわけです。

 

今回はワースト10年という最悪のシナリオでストレスをかけてみましたが、世界恐慌では2年10カ月間株価は下がり続け、ITバブル崩壊時も2年6カ月株価の下落は続きました。ワースト10年は保守的だとしても、ワースト2年、ワースト5年くらいは想定しておかないといけないでしょう。

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世界大恐慌クラスが来たときに、資産で死ぬまで喰っていける確率が50%を切るなんて、想像したくないですね。それを考えると、高配当ETFは論外として、株式オンリーがかなり厳しい選択だということが分かります。

 

今回は、取り崩し期に有利なポートフォリオをモンテカルロシミュレーションでチェックしてみました。そして、シーケンスリスクを考えた時に、ポートフォリオごとに大きな差異があることも分かりました。ただし、このシミュレーションではもう1つの大きなリスクを考慮していません。そう、インフレです。

 

次回、 FIRE後の資産取崩に有利なポートフォリオ(2)では、インフレを加味したポートフォリオ評価をやってみます。

FIRE後の資産取崩に有利なポートフォリオ(2)

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