FIRE: 投資でセミリタイアする九条日記

九条です。資産からの不労所得で経済的独立を手に入れ、自由な生き方を実現するセミリタイア、FIREを実現しました。米国株、優待クロス、クリプト、太陽光、オプションなどなどを行うインデックス投資家で、リバタリアン。ロジックとエビデンスを大事に、確率と不確実性を愛しています。

株式の節税マニュアル(2) 税繰り延べの活用

前回、株式の節税マニュアル(1)として、基本的な考え方を説明しました。金融商品への課税は、損益通算できる箱が3つ(+1)あること。そして節税の方向性としては、(1)税繰り延べ(2)控除枠と経費の活用(3)税率の違いの活用 があることを簡単にまとめました。

www.kuzyofire.com

今回は、そのうちの「税繰り延べ」について実際の例を書いてみます。

今年の1万円と来年の1万円は価値が違う

まず前提として、今年の1万円と来年の1万円は価値が違うということから。よく、税の繰り延べについては、「今払うか後で払うかの違いでしょ?」という反論をよく聞きます。iDeCoなどで所得控除されて税金が減っても、その分は60歳になったら結局払うから同じじゃないか? という話です。

 

では今払うか、後で払うかはどのくらい違うのでしょうか? 今手元に1万円あったら、それを預金すれば金利がもらえます。金利が5%だとしたら、来年には1万500円になります。つまり、来年の9523円と今年の1万円が同価値だということです。このように、未来のお金を金利で割って現在の価値に変換することを「割り引く」といいます。

f:id:kuzyo:20211011165406j:plainこの結果、税金を今年払うのと、繰り延べて来年払う、さらに繰り延べ続けて10年後に払う、年金がもらえる60歳になって払うというのは、後で払った方がお得なわけです。

 

いまは定期預金でも0.001%しか金利が付かないから、割り引いても額はほとんど変わらないのではないか? これはもっともな疑問ですが、割り引く金利は通常、定期預金ではなく国債金利で考えます。といっても、日本国債10年ものでも0.089%の利回りしかありません。

 

ただしこの低金利がずっと続く保証はありません。また海外に目を向けると、米国債は10年もので1.61%の利回りです。30年後の1万円を、この利回りで割り引いて現在価値に引き直すと6193円になります。例えばiDeCoで税払いを30年後に先送りすれば、支払う税は約4割引になるということです。

損益通算を使って課税を繰り延べる

さて税繰り延べの最も簡単なやり方は、損益通算を使ったものです。これは、その年の利益と損失を合計して、合算に対して税金を払えばいいという仕組み。例えば、A株で20万円の利益が出ても、B株で10万円の損失があれば、合計10万円の利益だけが課税対象になるというわけです。

 

そのため、年末が近づいてきたときには次のことをやります。

  1. 年間利益額(配当と譲渡益)を集計して把握する
  2. ポートフォリオの中で、含み損になっている銘柄を売却する
  3. すると利益が圧縮できる

含み損の銘柄は、このときに存在価値が出てきます。含み損が大きければ、配当と譲渡益を全部消し込んで、年間利益をゼロにすることだってできます。

 

含み損とはいえ、今が底でこれから回復する!と見込んでいるなら、売った翌日にまた買い直せばOKです。なぜ翌日かというと、同日内の売買は合算して計算されてしまうから。

f:id:kuzyo:20211011120658j:plain

保有していた株式を同日中に売却して新たに買付した場合、取得単価や譲渡損益はどのように計算するのですか? : SBI証券

もしこの1日で値動きが起こってしまうのが嫌ならば、別の証券口座を使って同日に買えばOKです*1。または、クロスを使って損失だけを確定させることもできます。

  1. 持っている含み損の銘柄を選定
  2. その銘柄を空売りする
  3. 同時にその銘柄を信用買いする
  4. 売りポジションに対して、保有銘柄を現渡しする(損失確定)
  5. 信用買いした銘柄を現引きして現物に変える

いずれにせよ、もしポートフォリオに含み損の銘柄があるなら、節税のチャンスです。せっかくの含み損をうまく活用して、払う税金を減らしましょう。

確定申告で複数口座を損益通算する

この応用が複数口座間の損益通算です。特定口座は便利な仕組みで、年間を通して確定利益と確定損失があれば、自動的に通算して支払い過ぎの税金を戻してくれます。ただしこれは証券会社ごとの計算です。

  • A証券 合計+20万円 → 税4万円
  • B証券 合計▲10万円 → 税ゼロ

このようなとき、そのままだと税4万円を払って終わりです(※税率20%で簡易計算)。しかし、確定申告を行えばA証券とB証券の損益通算が可能です。そうすると、年間利益は10万円となり、支払うべき税金は2万円。もともと源泉徴収で4万円払っていたので、2万円が戻ってくるわけです。

f:id:kuzyo:20211011165944j:plain

これは配当も計算に含むので、複数の証券口座で取引している人は、どこか年間損失が出ている証券口座があったら、確定申告してほかの口座の利益を減らすのが定番手法です。

クロスで課税を繰り延べる

そもそも、課税利益を発生させないというのが少し上級の技です。利益が発生するのは、含み益のある株を売却したから。であれば、売らなければいいのです。

 

代わりに、同じ銘柄を同数信用売りします。現物を持っている銘柄を売るわけですから、その瞬間にポジションはニュートラルになって、株価の変動は相殺されます。その場で現金が入ってこないことを除けば、売ったのと同じなわけです。そして、年が明けてから現渡しして両ポジションをクローズすれば、そこで初めて利益が発生します。このようにして、課税を翌年に繰り越すわけです。

 

もちろん、この方法にはデメリットもあります。信用口座を開いていなくてはいけない、信用売りできる銘柄でなければいけないという前提条件のほか、

  • 売却による現金が翌年まで入ってこない
  • 信用売りの金利(1〜2%程度)が発生する
  • 制度信用を使うと逆日歩リスクがある

ということです。ただし、信用売りの保証金は現物銘柄を代用として使うことで不要ですし、現渡しは通常無料ですから、売買手数料は現物売り手数料の代わりに信用売り手数料がかかるだけ。多くの証券会社では、信用取引のほうが手数料が安いので、合計するとコストが安いことも多いと思います。

クロスで損失を作り出す

さらに上級が、クロスでわざわざ損失を作り出す方法です。クロスは、同量の信用売りと買いを同時に行い、株価値動きが影響しないポジションを作り出す手法でした。しかし、実際には株価が動くと、片方で含み益、もう片方で同額の含み損という形になります。下記のような状態です。

  • 買い +10万円
  • 売り ▲10万円

このとき、売りポジションを反対売買して解消すると同時に、同額で再度売りを建てます。すると下記のようになります。

  • 買い +10万円
  • 売り 0万円
  • 損失 ▲10万円

あら不思議。何もなかったところから、10万円の含み益と、10万円の確定損失が生まれました。10万円の税率20%は2万円ですから、これで2万円を節税できることになります。

f:id:kuzyo:20211011172458j:plain

買いの含み益10万円は、年が明けたら反対売買するか現引きして現物にして売りに現渡しすれば解消できます。このように、信用のクロスを使えば、何もなかったところに損失を作り出せるわけです。

 

なお、現物は「総平均法」といって同日の売買は合算して平均取得単価を計算するので、翌日の売買が必須になりますが、信用取引は建玉ごとに損益を計算します。そのため、同日の売買でも狙った通りの計算になるわけです*2

f:id:kuzyo:20211011123201j:plain

野村證券|現物取引と信用取引で取得価格の計算方法に違いはありますか?

 

この手法の課題は、せっかくクロスポジションを建てても、株価が動かなければ狙っただけの損失を作り出せないことです。日経平均の過去の月間騰落率を見ると、1〜10%の間にだいたい収まっています。仮に月に5%の値動きがあると想定しても、100万円の損失を1カ月で作るには、2000万円分×2のポジションが必要になります。

f:id:kuzyo:20211011124008j:plain

4000万円分のポジションに必要な証拠金は1200万円。代用に使える株式2400万円分か、現金が1200万円必要になるわけです。損失確定のタイミングでは、さらに2000万円分の信用売りをしなくてはいけないので、もっと資金が必要です。

 

そのため、この方法で100万円単位の損失を作り出すには、けっこうな資産がなくてはならないのも事実です。また資金が必要ということは、信用金利と貸株料もバカになりません。もっとも、10万円の損失でよければ、資金は10分の1で済みます。また、日経平均よりも値動きの荒い個別株を使えば、もっと資金は少なくて済みます。

 

ぼくの場合、この手法は株式ではなく、先物FXの箱で課税利益を先送りするのにしばしば利用します。先物やFXは最大25倍程度のレバレッジがかけられるので、少ない資金で実行できることが一つ。そして、FXについては、損失を確定させなくても、含み損益ポジションを保有しているだけで、年間損益にカウントされる業者があります。これをうまく使うと、クロスポジションを持っているだけで、損失だけが確定できるわけです。

www.kuzyofire.com

www.kuzyofire.com

*1:寄付に成行注文すれば全く同じ価格で売買できます

*2:信用取引のクロスは、証券会社によってけっこう制約があるので、まずは少額で試してみて制約がないか確認することが大事だと思います。こんな失敗をしないように。。。