ドル円が急速に上がっています。今日、10月15日にはついに114円を突破。2018年11月以来、約3年ぶりの円安水準です。
通貨安の恩恵
投資家にとって、円安はどういう意味を持つでしょうか。まずよく言われるのは、「輸出企業の業績アップ」という点です。トヨタなどの輸出企業は、海外でモノを売るときに、ドル建て価格が同じならば円安によって売り上げが増加します。また、円建て売り上げを同じにするなら、ドル建てでは安く売ることができます。
どちらにしても業績の押し上げ要因になるため、円高=輸出企業の株価上昇、そして日経平均の多くは輸出企業の株価で動くので、日経平均も上昇という動きになります。
米国株投資家はさらに有利
米国株投資家にとっては、さらに美味しいことになります。ドル建てで保有している資産の、円換算額が為替分だけ増加するからです。
ドル円は年初から約10%下落していますが、これはドル建て資産の価格が全く動かなかったとしても、為替の効果だけで資産が10%増えたということを意味しています。
ぼくは超円高といわれた2009年から2012年の頃に、資産のほとんどをドルに替え、米国株や海外ETFをドル建てで購入しました。当時の為替は、1ドル80円台。ここから為替だけで、25%以上も利益が乗っている計算になります。
為替の動きのメカニズム
為替は、短期的には2国間の金利差で動くといわれます。日本にお金をおいておいても金利はほぼゼロ。ところが米国の金利は既に1.5%を超えてきました。円で持っているよりもドルで保有すれば、年間1.5%も利息がもらえる。となれば、円を売ってドルを保有する動きが高まります。これによって、円安傾向となるわけです。
ところがもう少し長期でみると、景色は変わります。なぜ米国の金利が上がったかというと、インフレ懸念が出てきたからです。物価が上昇傾向にあるので、それを引き締めるためにFRBが金利を上げるだろうと見込んだ投資家が、長期債を売ったために金利が上がりました。長期金利というのは基本的に長期債(10年もの国債)の利回りを指すので、債券が売られることはイコール金利の上昇です。
さて、インフレが続くとどうなるでしょうか。当然モノの価格が上がります。米国でモノの値段がどんどん上がっていく中、日本がインフレにならずモノ価格の横ばいが続くと、日米の物価差が開いていきます。同じもの、例えばビックマックの価格が、米国では高くて日本では安いという状況になるのです。
2国間で同じモノが別の値段で売られているなら、安い国で買って高い国で売れば利益が得られます。これは、ドルを円に替えて安い国である日本で買い、それを米国でドルにするという行動なので、今度は円買いになります。つまり、円高を後押しするはずです。
これが、有名な購買力平価説です。下記のグラフはしばしば登場するもので、日本の物価が下落するにつれて、為替も円高になってきたことが分かります。
為替と利回りの両取り
この購買力平価に基づくと、ドル円相場は50円くらいが適当だという説もあります。実際、日本の初任給が全く上がらない中で、米国では初任給が急上昇しています。日本人にとって年収1000万円は高給取りですが、米国では1000万円というのは普通だというのがこれを表しています。本来は、為替が円高に進むことで、この差が是正されるはずでした。
この20年、日本がデフレで苦しむ中、米国では2%程度のインフレが続き、物価も給料も上昇しました。ところが、円高になるどころか、2010年からの10年感では25%も円安が進行したのです。
円をドルに替えて株などの資産を買えば、高い金利の恩恵を受けられる代わりに、為替が円高に振れて相殺されるというのが理論です。ところが、逆に25%も円安になってしまった。つまり、リーマンショック以降、米国株に投資してきた人は、株高と円安のダブルで利益が出たわけです。
しかも日本では物価がほとんど上昇していません。金利が高い米国で資産を増やしながら、生活費は横ばいが続いてきたのです。
為替は、複数の要因で動くので、このあと購買力平価説に基づいて円高に進むのか、それとも別の要因でさらに円安に進むのかは全く予想できません。ただし、この間が米国株投資家にとって、たいへんなボーナスステージだった10年だといえるでしょう。