レバレッジETFは“減価する”とよく言われます。これは、長期で保有した場合に、現物を持つのに比べてパフォーマンスが悪化することを指しています。例えば日経平均ETFと日経レバ2倍ETFでは、本来2倍のリターンになるはずが、実際はもっと低くなるという話です。
この減価は、レバETFだけでなく逆の値動きをするインバース型でも起こります。日経平均が1000円下がっても、インバースは1000円は上がらないということです。
しかし、このように減価する傾向があるなら、逆にこれを活用できないか? 今回はそれを研究してみました。
- そもそも減価とは?
- 減価が多くて長期で損失ならば、逆にショートしては?
- 1571(インバース)vs 1321(日経225)
- 1357(ダブルインバース)なら?
- 好調だったのはボックス圏だったから?
- 結論:ボックス圏なら「減価取り」はアリだが、一方向だとダメ
そもそも減価とは?
まずは簡単に減価が起きるメカニズムから。レバETFやインバースETFは、リターンが2倍や3倍、マイナス1倍、マイナス2倍になるように、日時でポートフォリオを調整(リバランス)します。これはどういう仕組みなのか?
実は単に先物を買っているんですね。先物は20倍程度のレバレッジがかかるので、例えば100億円でレバ2倍のETFを作ろうと思ったら、200億円分の先物=証拠金10億円+90億円の現金でできあがります。
このとき、日経平均(先物)が1%上昇するとどうなるか。200億円分の先物を持っているので、2億円の利益が出ます。純資産総額は102億円になりました。ここでリバランスが必要になります。102億円の2倍の日経平均先物ポジションを取る必要があるので、翌日は204億円分の先物を持たなくてはなりません。つまり4億円分を追加で購入する必要があるのです。
このように、日経平均が上昇すれば先物を追加で買い、逆に下落すれば先物を売ります。このリバランスによってちょうど2倍のレバレッジを実現しているわけです。
相場が上がったら買い足し、下がったら売るというリバランスは、順張りリバランスと呼ばれます。逆に、ポートフォリオのリバランスでよくあるリバランスは、上がった資産を売って、下がった資産を買うという逆張りリバランスですね。順張りリバランスは、理論的に上がり続けたり下がり続ける相場でパフォーマンスが良くなる一方、上下変動を繰り返すボックス相場ではパフォーマンスが悪化します。
よくいわれる“減価”とは、この順張りリバランスによって日時変動の影響を受けているという話なのです。
減価が多くて長期で損失ならば、逆にショートしては?
日次で見ると日経平均などの指数はボックスになることが多く、これはほとんどの場合、減価するということになります。つまり、長期で持つとどんどん価値が下落するということです。あれ? 価値が下落する傾向が強いなら、これをショート(空売り)すれば儲かるんじゃないか? これが今回のテーマです。
戦略としてはこうなります。
- 1571(インバース)や1357(ダブルインバース)をショートする
本来インバースは、原資産である日経225の逆に動くはずですが、減価によりリターンが悪化することになります。ということは、それをショートすれば、減価分追加の利益が取れるはず。
1571(インバース)vs 1321(日経225)
では、1月4日からの1321(日経225)と、同額1571(インバース)をショートした場合の、それぞれの価格推移を見てみましょう(1/4〜10/8)*1。縦軸は年初からの損益です。最初は同じ値動きをしていましたが、徐々に乖離が出て、1571(インバース)のほうが利益が乗っているように見えます。
では、この2つの差を取ってみます。見事に、1571(インバース)のほうが利益が上乗せされていることが分かります。
この差分は、10月8日時点で投下資金比で、3%程度の追加リターンを生んでいることを意味します(ショートによる貸株料1.5%含む)。つまり、減価によって3%の利ざやが出ているということです。
つまり、日経平均に投資するなら、1321(日経平均)を買うよりも、1571(インバース)をショートしたほうが、3〜5%ほど高いリターンが得られたということです。ただし、ここには注意点もあります。1321は配当がもらえるという点です。これは年間で1.26%程度。つまり差はそれだけ縮まります。
ちなみに、Ⅰ571は先物をベースにしているので、配当支払は発生せず、つまりショートしても配当調整額の支払いは不要です。また、ショートする場合逆日歩発生リスクがありますが、1571については調べた限り、逆日歩は発生していないようでした*2。
1357(ダブルインバース)なら?
1571(インバース)でこれだけプラスリターンが出るなら、もっと減価する1357(ダブルインバース)なら、さらにリターンが上がるのではないでしょうか?
調べてみると、うーん。1321(日経平均)に比べて、2つのインバースはそれぞれ上振れしていますが、1571(インバース)と1357(ダブルインバース)の違いはわずかに見えます。
1321(日経平均)との差を取り出してみると、こうなりました。ほとんど、インバースとダブルインバースで違いはありませんね。
好調だったのはボックス圏だったから?
このように、インバースETFのショートが超過リターンを得られたのは、2021年が比較的ボックス圏で推移していたからではないか? とも考えられます。そこで、比較的右肩上がりで株価が上がり続けた2020年のデータを見てみましょう。
ここでは、コロナ禍が底をつけて上昇に転じた2020年3月19日から、2021年2月19日までのデータを抽出してみました。1321(日経平均)の推移と、初日に同額1571(インバース)を同額買ったら、どう推移したでしょうか。
日経平均は右肩上がりで増加し、インバースはそれとは逆に下落しています。ただし注目点は、下落のスピードが遅いということです。これは、一方向に動き続ける相場では、日次リバランスの効果によって下落が緩和されることを意味しています。つまり、減価の逆が起こっているのです。
このことがよく分かるように、1571(インバース)をショートしてみた場合の損益を見てみます。縦軸は3月19日からの損益です。すると、1571(インバース)をショートするよりも、1321(日経平均)をロングしたほうが成績がよいことが分かります。ショートしたら減価するほどリターンが増加するので、減価が少なかったことが分かります。
2つの差を取ってみると、こんな感じです。見事に、1571(インバース)のほうがリターンが悪く、差が広がっていきました。
結論:ボックス圏なら「減価取り」はアリだが、一方向だとダメ
コロナショック後の株価推移と、2021年の株価推移でこうした違いが起きたのはなぜでしょうか。下記は、コロナショック後の日経平均と、2021年に入ってからの日経平均の推移を並べたものです。コロナショック後が17000円台から3万円超えまで、ほぼ右肩上がりで上昇しているのに対し、2021年の日経平均は28000円から3万円の間で行ったり来たりのボックス圏でした。
インバースやレバレッジなどは、ボックス圏では減価し、一方向に動くときはリターンを増幅するという効果があります。これは、一方向に下落するときも、下落を緩和させる効果として働きます。今回、減価の部分だけを取り出して比較してみると、この違いがリターンに明確に出てくることが分かりました。
というわけで、「レバレッジやインバースは減価する」から、長期保有は損だとよく言われますが、これは必ずしも当てはまりません。ボックス圏であればその通りなのですが、コロナショック後のように一方向に動き続けると、レバレッジやインバースに有利な形で推移するのです。
当初は、「減価するなら、それをショートすれば必ず儲かるのでは?」という仮説から検討しましたが、結局、相場がボックス圏かどうかで変わるというのが結論でした。逆にいうと、必ずしも減価を恐れる必要もないということです。
ちなみに、もし信託報酬(コスト)がバカ高いETFとかがあったら、それをショートして、同じ原資産に連動するETFを買えば、信託報酬分のリターンが確実に得られることになります。まぁよほど信託報酬が高くないと、リターンはスズメの涙なので現実的じゃないですけど。どっかに信託報酬10%とかのETFがないかな。