太陽光発電事業は、不動産のような空室リスクもなく20年間に渡って国が買い取りを保障するというFIT制度によって、安定した事業運営が魅力です。いったんパネルを設置してしまえば、その後特にメンテナンスをする必要もなく、年2〜3回の雑草処理程度。それでいて、表面利回りは10%超え、期間や借入を加味したIRRでも6%以上のリターンが見込まれます。
そんな太陽光の最大のリスクは、そう、制度変更です。これまでも何度か制度変更によって想定外の出費を余儀なくされてきたのですが、今回のものは大きい。廃棄積立の導入です。
強制的に廃棄費用を徴収される
2022年7月から開始となるのが「廃棄等費用積立」です。これは、設置した太陽光パネルの廃棄にあたって、その費用を確実に確保するために外部で強制積立を行うというものです。
10kW以上の発電事業者が対象なので、50kWの低圧野立ては当然対象になります。廃棄コストなんて自分で用意するよ……と思っても、売電料から強制的に徴収する外部積立の方向で決まりました。
金額は、売電するkWhごとに決まっており、次のようになっています。ぼくの場合、すべてFIT18円の物件なので、kWhあたり0.80円が強制徴収されます。
いってみれば、4.44%が売上からさっ引かれるわけです。なんてこった、ひどい後出しじゃんけんの制度変更です。
積立がスタートするのは、FIT買取期間20年のうち、後半10年。というわけで、ぼくの場合はまだ先ですが、後半のタイミングで収入が減少するのはうれしい話ではありません。まぁ前半10年よりはましですけど。
一応、内部積立も認められるようですが、けっこうこまごまとした条件がついているので、ぼくのような零細発電家には無縁。そして、廃棄時費用は当然積立金から出るわけですが、それを受け取るのはいろいろな書類を書かなければなりません。激しくお役所仕事になるわけです。
ぼくは今のところ、FIT終了後も売電を継続する考えですが、その場合、劣化したパネルの交換費用などは積立金から出るようです。
事業への影響は?
kWhあたり0.8円が引かれると、FIT18円の4.44%にあたります。ぼくの場合、年間10万5900kWh(8825kWh/月平均)が、1基あたりの平均発電量です。すると、平均売電収入は189万円です。
この10年分からkWhあたり0.8円を積み立てるわけで、8万4700円x10年で、84万7000円が積立に回ります。20年間の総売電額、3785万円に対して84.7万円ですから、売上から2.2%ほど減少する計算です。
売上の半分くらいがローン返済であることを考えると、リターンへのインパクトは4.5%ほど。FIT期間中の合計CFに対する積立額を計算すると、実に7.7%にも達することが分かりました。
さらっとシミュレーションしてみると、積立前のIRR9.9%から9.35%にリターンは減少です。ちなみに、20年目に解体廃棄したとして、積立費用を戻してあげても、IRRは9.68%。再投資に回せない積立の、事業リターンへの影響は小さくありません。
国は再エネ発電を進めたいのか減らしたいのか
FIT制度の買い取り価格が年々下がっていくのは、当初から分かっていたことですし、その分パネルの価格も安くなるので納得感のある内容でした。ところが、今回のような後出しじゃんけんで投資家に負担を強いる方法はどうなんでしょう。
これでは、投資して再エネに参入した事業者へのだまし討ちと同じです。廃棄が問題になるのはその通りで、対応が可能なのは分かりますが、制度設計の最初にそれが想定できず、あとになって「やっぱり負担して」というのは役人無能説を採りたいものです。
先に計算したように、積立は再投資に回せないキャッシュのため、太陽光のような長期投資案件では、著しくリターンを悪化させます。そこに借入によるレバレッジが入っているとなおさらです。売上のわずか4.4%ではなく、リターンへのインパクトは7%を超えるのです。
太陽光のような新しい産業の場合、そのルールの中身を活用して、節税する方法が流行し、随時それをふたをする法改正がなされてきました。しかし、今回は節税がらみではなく、売上自体へダイレクトに影響するもの。まさに、太陽光発電においては、後からの制度変更リスクが最も大きいことを実感させられます。