FIRE: 投資でセミリタイアする九条日記

九条です。資産からの不労所得で経済的独立を手に入れ、自由な生き方を実現するセミリタイア、FIREを実現しました。米国株、優待クロス、クリプト、太陽光、オプションなどなどを行うインデックス投資家で、リバタリアン。ロジックとエビデンスを大事に、確率と不確実性を愛しています。

『ガイトナー回顧録』 金融と金融危機とは?

『ガイトナー回顧録』を読みました。Kidle版で読んだのですが、これがまた長い。書籍版だと678ページにもなります。それでも最後までドキドキしながら読めたのは、ガイトナーが体験した金融危機があまりにスリリングで、対処するために1日1日とギリギリの戦いがサスペンスのように目を離せないのが一つ。

 

そして、ガイトナーが何を課題だと思い、どんな問題に向き合ってきたかのを知ることで、金融機関が何をしていて、規制当局がどんな問題意識で対応しているのかを知れるからでした。

米国金融政策の形

本書を読むには、米国の金融政策を誰が作っているかの概略を知っている方が理解が進みます。日本の財務省に当たるのが財務省。ただしそのトップは、財務長官と呼ばれます。

 

日本の日銀に当たるのがFRB(連邦準備制度理事会)といわれますが、これは統括機関で、実際のドル紙幣の発行などは各地域にある連邦準備銀行が行います。この中でも筆頭にあるのがニューヨーク連邦準備銀行です。

f:id:kuzyo:20211123160511j:plain

FRB議長に、昨日パウエル議長が再任したことがニュースになりましたね。日銀総裁人事にあたるもので、これで米国の金融政策は継続したものになるということです。

 

さて、このFRBの金融政策は、FOMCと呼ばれる会議で決定されます。これは、FRBの議長含む理事7人と、12地区の連邦準備銀行の総裁から5人が参加します。この中で、ニューヨーク連邦準備銀行総裁だけは常任で、残り5人分は輪番で参加となります。

 

主人公のガイトナーは、もともと財務省の職員でアジア危機などの対応にあたり、2001年のブッシュ大統領当選後、財務省を離れIMF職員、その後2003年にニューヨーク連邦準備銀行総裁、続いて財務長官となりました。一環して危機管理畑を歩いてきた人で、ニューヨーク連銀総裁時にリーマンショックが起こり、その後財務長官として対応に当たりました。

 

回顧録のメインステージは、ニューヨーク連銀総裁だったガイトナーが向き合った金融危機、そしてその後の経済回復をオバマ大統領の下、財務長官として主導したところです。最後のほうは欧州危機について触れていますが、やはりメインはここ。

 

民主党大統領のもと行った、金融危機対処また経済刺激策は、内容がどうあるべきかという点にも注目なのですが、特に後半は議会とのやりとりがかなり多くなり、なるほど政治というのは大変なものだ……という印象を強くしました。

金融ってなんだ?

金融危機では、住宅バブルの崩壊とともに銀行の財務体質が悪化し、国民だけでなく他の金融機関からも取り付け騒ぎが起きたことが原因でした。1つの金融機関が潰れると連鎖的にほかの金融機関も潰れる。この連鎖が広がると、本来堅実に運営していた金融機関でさえ、倒産の憂き目に遭うかもしれない。これは防ぐべきだという立場で、ガイトナーは奮迅します。

 

「金融」という言葉はなにかすごそうな響きがありますが、実は単に「借金」の手伝いをすることを指します。元手以上に貸出を行えるのが、国家と銀行で、信用不安が起こると国家も銀行も取り付け騒ぎが起きます。

 

銀行は信用が命です。信用というのは、貸した金が返ってくるかどうかを指します。倒産して金(預金)が返ってこないのではないか? と預金者が思うと、それにより引き出しが多発して実際に倒産してしまう。こういうポジティブフィードバックを内在しています。

 

一方で銀行は民間であり、利益のためにはできるだけレバレッジを大きくしようとします。つまり、自己資金の何倍ものお金を貸し出そうとします。ところが、貸出の反対側にある資本は、自己資金+預金。預金はいってみれば短期の借入です。そのため、預金は信用不安が起きると逃げ出します。となると、財務体質を支えるのは自己資本のみ。

 

この信用の要になるのが自己資本がしっかりあれば、信用が続きますが、足りなければショックに耐えられず倒産してしまうわけです。

 

金融機関は、1つが倒産すると、そこに資金を預けていた別の金融機関も損失を被り、つまり連鎖的に倒産するというリスクがあります。まさにこれが起こったのが金融危機でした。

正義か安定か

本書の大きなテーマは、「業績不振の金融機関を政府のお金で救済すべきか?」というところにあると思います。ガイトナーは、救ったほうが総合的に見ると国民の負担も政府の負担も小さくなるという立場。一方で、議員の多くは、自身の失敗で破綻しそうな金融機関を救うのはモラルハザードだし、資本主義としてよろしくないというものです。

 

最終的に政府が救ってくれると思っているから、金融機関は取るべきではないリスクを取ってしまうのではないか? モラルハザードが起こっているのではないか? こうした問いは本書でも何度も繰り返されます。ガイトナーは一面でそれを認めつつも、消防署を例えに出して、「消防署があるからといって、寝タバコをする人はいない」と話します。どこかの家が火事になったら、周りに炎が広がるのを防ぐために消火活動をする必要があるというわけです。

 

こんな例えもありました。

新興市場危機の最中にスタン・フィッシャーがいったように、コンドームがあるからセックスをするわけではない。

 

もちろん、こうならないように規制があります。国内金融機関は日本なら金融庁、米国なら連邦準備銀行の監督下にあり、無謀なことができないようになっています。また、預金保護の保険も用意されており、それによってもしも銀行が倒産しても預金が返ってこないということはありません。日本でいう1000万円までのペイオフです。この保険によって、取り付け騒ぎを防いでいるわけです。

 

自己資本比率の規制もあります。国際的に事業を行う銀行は、1社の破綻が全世界に波及しかねません。そのため、BIS規制というものがあり、その内容はバーゼルI、バーゼルII、バーゼルIIIなどと進化してきました。

f:id:kuzyo:20211123163409j:plain

それでも、金融におけるデリバティブは進化を続けており、これは銀行自身にとっても正確に測り得ないリスクが増大しているということです。金融危機では、サブプライムローンを証券化し、それを混ぜ合わせて複数のトランシュに切り分けたCDOが大きな問題を引き起こしたといわれています。CDOを購入した金融機関は、これを担保として借入を行い、レバレッジをかけて運用していました。

 

ところが、あるときサブプライムローンが信用ならん!となり、それによって格付がAAAだったはずのCDOまで信用をなくします。すると担保価値がなくなってしまうので、貸し手からは返済をもとめられ、銀行はキャッシュがなくなってしまったわけです。

 

デリバティブが危機を引き起こしたわけではないし、危機前と危機の最中に企業、農民、銀行、投資家がリスクをヘッジするのに、デリバティブは有効な役割を果たした。だが、恐慌のさなかでは、デリバティブは危機を悪化させるのに手を貸した。

レバレッジと経済成長

金融危機からの脱却を通じて、ガイトナーが進めたのは行きすぎたレバレッジの是正でした。銀行にはより多くの自己資本を積むことを求め、レバレッジは縮小します。

加熱した市場で整然とレバレッジを減らすのは、たとえ大手が何社か潰れるとしても、いいことであるかもしれない。それは資本主義のあるべき仕組みでもある。弱い会社、肥大した会社、経営に誤りがあった会社が、もっと躍動的な競合する会社に、道を譲るわけだ。創造的破壊は生存者に規律を浸透させる。しかし、恐怖と不確実性が大きな勢いを持つと、健全な調整も制御不能になりかねない。

 

しかし、このレバレッジ縮小というのは、経済の停滞をもたらします。レバレッジ拡大とは、要はみんなが借金をするということであり、それは企業でいえば設備投資だし、個人でいえば住宅購入です。レバレッジの拡大とは、経済成長そのものなのです。

 

逆に、金融危機からの回復期は、銀行は貸し出しを渋り、そしてそもそも企業も個人も借金をして事業を拡大しようというよりも、借金を返して不況に備えようとしました。これはまさに景気の落ち込みです。

 

金融危機を再び起こさないように、また信用不安を再発させないために、レバレッジをへらしつつ、かつ経済を再活性化させるには、再びレバレッジを増やすよう仕向けなくてはなりません。いやはや、金融政策というのは本当に難しい綱渡りをしているものです。

 

www.kuzyofire.com

www.kuzyofire.com

www.kuzyofire.com