FIRE: 投資でセミリタイアする九条日記

九条です。資産からの不労所得で経済的独立を手に入れ、自由な生き方を実現するセミリタイア、FIREを実現しました。米国株、優待クロス、クリプト、太陽光、オプションなどなどを行うインデックス投資家で自由主義者、リバタリアン。ロジックとエビデンスを大事に、確率と不確実性を愛しています。

なぜ株式は長期的に上昇する? 経済成長ではないアプローチ

投資理論、特にインデックス投資について学ぶと、必ず出てくるのが「株式は長期的には上昇する」という話と、実際に他のどんな資産クラスよりも高い上昇率を持っていたというエビデンスです。

 

しかし、「なぜそうなのか?」については意外と納得感のある説明を聞いたことがありません。そこで、別のアプローチから「なぜ株式が長期的に上昇するのか」を考察してみたいと思います。

投資先の王様、株式

下記は長期投資の文脈で最も有名なグラフでしょう。シーゲル教授による、アセットクラス別の長期リターンです。株式は、長期で見ると、ほかのどれよりもリターンが大きくなっています。

 

200年ちょっとで75万5000倍ですから、幾何平均すると200年なら約7%、210年と見るなら6.66%。これが超長期で見た株式のリターンです。

※ジェレミー・シーゲル 『株式投資 第4版』 より 縦軸は対数

経済成長がEPS成長を通じて株価上昇をもたらす

ではなぜ株式は6〜7%ものリターンがあったのでしょうか。よく言われる説明はGDPの伸びです。理屈は次の通りです。

 

まず株式の価値は1株あたり利益、EPSで決まる。企業の利益はGDPの伸びにほぼ連動している(政府支出と輸出入を無視すれば、給与と企業利益+設備減耗がGDPとなるので)。GDPが伸び続ける限り、つまり世界経済が成長し続ける限り、株価も上昇し続ける――。

 

なんとなく筋は通っています。話としても分かりやすい。では実際のデータはどうでしょうか。下記は、直近30年間のS&P500株価とS&P500EPSの推移です。

S&P 500 Earnings - 90 Year Historical Chart | MacroTrends

これを見ても、EPSの成長と連動して株価が動いているように見えます。もっと長期で見ても、やはりこの2つは連動しているように見えます。

では、新興国の場合はどうでしょうか。当然、米国よりも新興国のほうがGDP成長率は高く、それはつまりEPS成長率も、そして株価上昇率も高いように思えます。

新興国投資編(4)なぜ新興国の経済成長率は高いのか?何が期待できるのか?

このように、ピクテは「一方で、リスクと引き換えに、先進国では期待できないような大きなリターンが期待できるというのが新興国投資の魅力の1つ」だとうたっています。

実際のリターンは?

では株価上昇の原因がGDP成長だとして、ならばGDPがより大きく成長する新興国のほうが株価も上昇するのでしょうか? PORTFOLIO VISUALIZERを使って1995年から現在までの株式リターン(配当再投資)を出したのが下記です。

あれ? 米国株式に新興国は負けていますね。おかしい。GDPは成長しているのに、株価成長はそれに連動していないようです。

 

その原因はどこにあるか。いろいろと考えられますが、今回はそこには踏み込まないようにします。結論としては、GDPが増加するほど株価が上昇するとは限らないということです。

すべてのリターンのベースは国債である

経済成長に原因を求めるアプローチは、ちょっと矛盾を生じました。では、別のアプローチで、株価が上昇を続ける理由を考えてみます。まず、株式リターンを分解すると、次のような式になることはよく知られています。

  • 無リスクリターン+リスクプレミアム

この無リスクリターンとは、要は国債のリターンのことを指します。リスクプレミアムは、株式に追加で乗ってくるリターンのことを指しますが、その実態は「追加である」こと以上は意外とよく分かっていません。

 

リスク=ボラティリティが高いほど、リスクプレミアムは高くなるとも言われますし、信用度の観点でいえば倒産確率が大きいほどリスクプレミアムは高くなるでしょう。

 

では無リスクリターンである国債のリターンはどうやって決まるかというと、期待インフレ率+実質金利となります。これが名目金利です。インフレ下で借金をするとき、将来のインフレ率分だけ金利が上昇しないと貸し手にとって不利になってしまうというフィッシャー効果を先日の記事に書きました。つまり下記のようになります。

  • 無リスクリターン = インフレ率+実質金利

少なくともインフレ率くらいは金利がつかないと、お金を貸し出す意味がありません。その上で、上乗せされるのが実質金利です。下記は米国の名目金利と実質金利の超長期推移です。

Interest Rates Aren't Actually Very Low Right Now - RHS Financial

インフレ率が急上昇したタイミングでは、実質金利はマイナスに突入します。コロナ禍でもマイナスに突入していて、昨今の利上げとともに、実質金利はやっとプラス圏に戻ってきました。

 

ともあれ、100年くらいの平均で見ると、次のようなリターンとなります。

この100年近いサンプルの平均実質利回りは2.09%

では、この実質金利は何から決まっているのかというと、正直よく分かりません。記憶をたどっても、記事や書籍で実質金利がどのような背景で決まるのかは分かりませんでした。どなたか知っていれば教えてほしいです。

 

ここでいう実質金利は無リスクである国債の実質金利なので、「必ず返ってくる借金」に対する、インフレ補正後の金利です。しかもセカンダリマーケットも充実していて流通しているので、流動性リスクもありません。考えられるとしたら、価格変動というリスクに対する対価が、2%程度あるのかもしれません。ボラティリティが実質金利リターンの源泉なのかもしれません。

無リスク金利+リスクプレミアム

国債の実質金利をみた上で、改めて株式のリターンを考えてみます。先程のとおりの式に数字を当てはめてみましょう。

  • 株式リターン = 無リスクリターン+リスクプレミアム
  • 株式リターン = (実質利回り+インフレ率)+リスクプレミアム
  • 株式リターン = (2%+3%)+2%

歴史的に実質利回りは2%程度、インフレ率を仮に3%と置きましょう。そこに国債よりもボラタイルな株式のリスクプレミアムを2%と置くと、合計で7%のリターンが出てきます。

 

まずインフレが存在するので、債券も株式もその分はリターンが必須です。そこにリスクがまったくない国債でも2%程度の実質リターンがあります。もし、株式と国債が同じリターンならば、ボラタイルな株式をわざわざ選ぶ人はいません。当然、そこには上乗せリターンが要求されます。どのくらいの上乗せリターン(=リスクプレミアム)が適当なのかは理屈で計算できるものではありませんが、歴史的にみるとどうやら少なくとも2%程度はリスクプレミアムがあるようです。

 

さて、1952-2013年のデータについては、国債リターンと株式リターンの差であるリスクプレミアム、そしてインフレ率がどうだったかを調査した研究があります。それによると、下記のとおり、リスクプレミアムは4〜5%存在していて、株式リターンは10%程度あったということになっています。

先のぼくの式だと、株式のトータルリターンは7%程度だとして計算しているので、差分がリスクプレミアムに入っている感じです。

 

過去のリスクプレミアムを調べた研究では、100年平均で3〜10%ほどのリスクプレミアムが計測されていて、その大小はリスクに比例するようです。

株式リスク・プレミアム論争をめぐる論点整理

改めて、なぜ株式は長期で上昇するのか

ではそもそものお題だった「なぜ株式は長期で上昇するのか」について、経済成長とは異なる観点から、まとめてみましょう。

 

まず世の中には無リスクとされている投資先である国債があります。このリターンは、歴史的に2%程度の金利+インフレ率とされてきました。正常とされているインフレ率2%ならば、資産は歴史的な平均で、自動的に年率4%では増加していくということになります(もちろん購買力という意味での実質は2%増加です)。

 

そこに国債以外の投資先として株式があります。国債は持ち続ければ元本は保障なので、かなり安定した資産です。市場で途中売却するにしても、比較的価格は安定しています。一方で、株式の価格は変動が大きく元本も保障されていません。

 

そうした不安定な資産に投資するなら、国債よりも上乗せリターンが求められます。そうでなければ、株式に投資する投資家はいません。それがリスクプレミアムだということです。

 

つまり、株式が高いリターンをもたらすことに、GDPは関係ありません。実質金利に対する上乗せリターン=リスクプレミアムが要求される限り、株式は国債よりも高いリターンを伴い、それによって長期投資の結果、どんな資産クラスよりも資産増加が大きくなるというわけです。

 

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