たまにTwitterやブログのフォームで質問などいただくのですが、珍しく記事としてお答えしてみたいと思います。いただいたのは、このような質問です。
九条さんのスウィングトレードに対する見解・ご経験を伺えたら嬉しいです。
試してみられたことがあるか、もしご経験があればやってみてどうだったか、etc.
スイングトレード
いやはやスイングトレードです。実はこの言葉、聞いたことくらいはあるのですが、何を意味するのか知りませんでした。そこで検索してみたところ、
スイングトレードとは、2、3日から数週間の短期間で売買を完結させるトレード手法です。
ということです。特徴というかコツとしては、次のようなものがあります。
- 資金効率や取引コストを考えると、現物よりも信用取引が適している
- 企業業績よりもテクニカル指標やチャートを重視する
- 画面に張り付く必要がない
どうやらスキャルピングやデイトレードと並ぶ手法で、やり方は似ていますが、期間が長くなったものという位置づけのようです。
スイングトレードとは?銘柄の選び方や成功のコツを解説! | Wealth Bridge
これまで全くスイングトレードをやったことがない
実は、これまで一度もスイングトレードというものをやったことはありません。さらにいえば、デイトレードもスキャルピングも未体験です。というよりも、「トレード」と名前が付くような手法で投資をしたことが、一度もないといったほうが正確です。
最近は指値くらいはすることがありますが、長い間、購入も売却も市場が閉まっているタイミングでの成行注文でした。損切り、という行動をしたこともなくて、保有しているポジションを売るのは、リバランスか現金が必要になったときという感じ。
景気がいいとか悪いとかは気になりますが、それが理由で売ったり買ったりもしません。さらにいえば、企業の財務やビジネスモデルを分析するのは好きなのですが、それを元に投資先企業を選んだこともありません。
つまり、テクニカル分析もファンダメンタルズ分析も、それに基づいて投資したことがないという不思議な投資家です。
では何を見ているのかといえば、資産クラスやセクター別に、過去のリターンやボラティリティ、景気動向との関連などの実績、そしてポートフォリオを組んだ場合の期待リターンや期待リスク。モンテカルロ・シミュレーションにかけた場合に、どのくらいのダウンサイドリスクがあり得るか? といったことだったりします。
そのため、ほかの投資家との話は面白いのですが、自分の投資スタイルがいわゆる投資家とは全く違うことは最近自覚しています。というか、いわゆるインデックス投資家なのです*1。
スイングトレードをやらない理由
「インデックス原理主義者なので、他の手法を否定しているんだろう?」と思う人もいるかもしれません。これは半分あたりで、半分違っています。何が違うのかといえば、テクニカル分析やファンダメンタルズ分析で安定的にリターンを出せる人もいるが、ぼくには無理ということです。ほんと、儲けている人を尊敬します。
一応、テクニカル分析とかファンダメンタルズ分析を勉強してみたこともありました。でもですね、まったく儲からないのですよ。チャートを見て売買しても、ことごとく裏目に出ますし、財務やビジネスモデルを分析して割安だ!とか過小評価されてる!と思っても、それが全然株価に反映されません。この企業は今後、もっと売上が伸びるだろう? と思っても、あれあれ。伸びるどころか減収になったりして。
正直、ぼくにはこういう投資判断の才能が全くないのです。だから、優待クロスとかで誤発注をしたときは本当に慌てますし、理屈ではすぐに損切りと分かっていても、ついつい「いつか価格が戻ってくるに違いない。そこまで保有」とか、最悪と言われることをやってしまうのです。技術もメンタルもダメダメです。
さらに、テクニカルでもファンダメンタルズでも、凄腕の投資家がいるというのがよろしくない。こうした投資家の人たちはまさに連戦連勝です。cisさんの本を読んで、まさに異次元の人だなぁと思いましたし、投資家の井村さんにお会いしたときは、どうしてこの情報で上がる株が分かるんだろう?と本当に不思議に思ったものでした。
テクニカルやファンダメンタルズの世界では、こうした人たちと同じ土俵で戦わなくてはいけません。基本的に投資期間が短くなるほど、投資はゼロサムゲームに近づきます。つまり凄腕の投資家の人たちが上げる利益は、ぼくのような凡人の損失で成り立っているし、ぼくがトレードで利益を上げるには更なるカモがいなくてはならないのです。
トレードは本当にゼロサムか?
さて、とはいうものの、短期売買、トレードが本当にゼロサムかというと、実はそうでもないのではないかとも思っています。ゼロサムじゃなくてマイナスサムだよ!という話ではなくて、プラスサムの可能性も高いのではないかということです。
なぜかといえば、トレードはトレーダーたちだけが参加している市場で行われるのではなく、長期投資家もいれば、年金運用もあり、さらに実需も存在するからです。
例えば、誰がどう見ても株価が下がるだろうという相場があったとします。そんな状況はあり得ないとか、知ることはできないとかではなく、あり得るし知り得るとしましょう。ここで株を売る、または空売りすれば確実に儲かります。ただし、それは絶対に下ることが分かっている相場で買う人がいるからですね。
それは誰か。相場を見ないで淡々とインデックスに積み立てているインデックス投資家がそうだし、同じく年金運用機関投資家もそうです。いまや投資資金の結構な比率が、このように市況判断を入れずにとにかく買うという人によって動かされています。なので、トレーダーだけで見れば全員儲かっているプラスサムという状況だってあり得るわけです。
下記は、景気後退期と景気拡大期に分けた場合のアクティブファンドのアルファの状況をまとめたものです。アルファとは、ベータ、すなわりインデックスに対する超過リターンを指すので、つまりインデックスよりもアクティブファンドが儲かっている率を指します。
CFAジャーナル創刊号より、Kosowski(2000)の論文より
これを見ると、全ファンドの全サンプルにおけるアルファはマイナス、つまりインデックスよりも成績が悪いことを指しています。ところが、景気後退期と景気拡大期に分けてみると、景気後退期にはどの手法のアクティブ運用も、如実にアルファが生まれています。つまり、インデックスに勝っているわけです。
もちろん、いつが景気後退期でいつが計画拡大期なのかは後付で決まる部分も多く、いまが景気後退期なのかどうかがわかっていれば、それだけで一儲けだよ、という点もあります。
それでもこれが面白いのは、トレーダーが正確な判断に基づいて売買している一方、何も考えず機械的に買い付ける人がカモとなることで、トレーダーはプラスサムゲームにいる可能性もあるという点です。
これはオプションにも当てはまります。トレーダーの枠内でみればゼロサムなのに、現物と組み合わせてヘッジに使ったりする投資家がいるために、完全なゼロサムからは違った形になります。
だからといって、それが期待値や中央値のプラスを意味するわけではないのですが。
*1:ただし直感に基づく投資と、TOBとかIPOとか優待とかアービトラージ系の投資を除く。