「FIRE卒業」が話題になっています。いったんはFIREし、仕事を辞めたものの、もう一度働きたくなったので「FIREを卒業します」というツイートが発端のよう。これに対して、
- 無職が再就職するだけ
- 貯金使い切った
- 食っていけなくなったから社畜に戻る
なんて反応が挙がっています。これをどう見るか。
噂話の目的
橘玲は著書『バカと無知』の中で、人が噂話をする目的を次のように書いています。
噂話の目的は、自分より上位のものを引きずり落とすと同時に、下位のものを蔑んで自分をより目立たせることだ。
そのため、「正義」を盾に自分より優れたものを蹴落とす、最近だと「キャンセルカルチャー」が大流行になります。ネットの炎上の多くは、大企業や有名人、地位が高いと言われている人を引きずり落とす方向のものとなるわけです。
もう一方が「最貧困」や「ホームレス」で、自分よりも下の境遇の人を見ることで、自分が恵まれていることを確認させてくれる娯楽になります。下層の人を蔑むカルチャーは、生活保護の人を揶揄するところにも見ることができますね。
FIREは上位存在から下位存在へ
こうした文脈で見ると、FIREした人が「卒業」することへの反応もわかりやすくなります。そもそもFIREが話題になったのは、「資産があり働く必要がない」という立ち位置への憧れからでした。
もともとは巨額の資産を作って初めて実現できた早期リタイアですが、生活費を切り詰めて投資を実行することで、ものすごい額の資産を作らなくても仕事を辞められる――。これが昨今のFIREブームの根幹でしょう*1。
このように、目指すべき上位の存在であるFIREは、引きずり落とす対象になります。その方法としては、
- そんな少しの資産じゃ持たない
- そんな投資方法じゃ失敗する
といった手法に関するものから、
- 人生のコストをそこまで切り詰めて楽しいか?
- 結婚とか子供とかに魅力を感じないのか?
といった考え方までいろいろですが、これは大企業や政治家に対して文句をいうのに似ています。
そんな上位の存在者のFIRE民が、自ら「卒業して働き始めます」と宣言したら、「失敗!失敗!」と連呼するのは当然です。
そして、こうなるとFIRE者は上位の存在から下位の存在に変化します。いったんFIREした人は、ある意味キャリアが途中で途切れていますから、通常のサラリーマン的な出世のレールからは外れています。さらにいったんFIREしたわけで、それ以前よりは資産額も減少しているからです。
下位の存在については、徹底的に蔑む。これがSNSで起きていることの、不都合な内面じゃないでしょうか。
みんな人のことが好きね
では、お前はどうかって? いや、FIREしようがFIRE卒業しようが、FIRE失敗しようが、どうでもいいんじゃないでしょうか。ぼくは、FIは手に入れましたが、完全退職はしていません。ただし、キャリアから降りたわけで、セミリタイヤ、SemiREtireなわけです。
これが人に誇れるようなことだとは思っていないし、そもそも働ける状態なのに退職するのは、社会に寄生している状況だともいえます。それでも、働くのが当たり前という常識には疑問を持ちますし、人にとってやりたいことは様々で、それを他人がとやかくいわない自由というのは、人にとって最も重要なことだと思うのです。
なので、申し訳ないが、ぼくは自由にさせてもらうし、他人についてもお好きにどうぞというスタンス。
FIREが話題になって、FIREしやすい投資商品が用意されたり、FIREに適した運用管理系サービスが出てくるのは歓迎です。さらに、FIREが社会に認知されることで、ある程度受けいられたら、さらにいいですね。そういう意味ではFIREという概念を応援していますが、個別のFIREした人が、その後どういう生き方をしようと、それを型にハメてああだこうだいう必要はないと思うわけです。
*1:なので、世間ウケするのは、3000万とか5000万くらいでも仕事を辞めてFIRE、という話です。ぼくのように、資産があっても楽しい仕事を継続します、という人は、いまいち世間にウケません。