年末恒例の読書報告です。2021年は95冊でしたが、22年は数えてみると40冊。あれ? なんか半減ですね。
マンガとかピッコマとか
なんでこんなに読書量が減ったかというと、考えられるのは引っ越しの影響でしょうか? 人は環境が変わると行動も変わるもので、意外なところに影響が出るものです。それから、けっこうマンガとかWebのなろう小説、それからピッコマを読んでたというのもあります。
マンガではグラゼニが良かったですね。華やかに見えるプロスポーツの世界を、カネの視点から見つめるマンガ。年俸何億円という選手も、30代なかばでやってきてしまう引退に向けて大変なんだなぁと思ったり。
ピッコマは、韓国発の無料マンガアプリです。面白いのは、ストーリーがだいたい「なろう小説」の系統だということ。主人公が(トラックとは限らないけど)死んでしまうと昔にタイムリープして、さらに特殊能力も持っていて、無双するという話が多いのです。
さらにこの主人公が性格のいい正義の味方というわけでは必ずしもなくて、好き勝手やるダークヒーローがけっこう多いんですね。有る種ワンパターンではあるのですが、なかなか面白い。
こちらの「Retry」なんて、主人公が強いのはいいんですが、とにかく歯向かう敵を簡単に殺してしまう。許すとか慈悲とか辞書にないくらい、敵対したら一族郎党皆殺し。なんかすごいマンガです。
こちらの「領主様のコインは減らない!?」もけっこう面白い。主人公が活躍する舞台が、現実世界の学校のほかに、他の次元の人達とオンラインで交易できる場所というのがあって、2つの世界で無双を重ねていくのが新しい感じです。
昔からマンガの定番ストーリーはジャンプで、それは「最初は弱かった主人公が、周りのメンバーとの友情を重ねながら成長していく」というものでした。ところがなろう系を源流とするピッコマ系のストーリーは、とにかく最初から強い。世界最強なのです。何も苦労することもなく、余裕を持ちながら少しずつ「俺の強さを見せてやる」という感じで、ある意味カタルシスはあっても、成長を一緒に楽しむという視点はありません。
でも誰しもが「もう一度生まれ変わったら、世界最強になりたい」という、願望というか夢想があるわけで、それを現実のものにしている主人公に感情移入できるのは、お手軽なエンターテイメントなんだろうとも思います。
40冊の内訳は? ビッグデータ
さて、やっと2022年に読んだ本の紹介です。まずはこちら。現代は、インターネットにおける検索や膨大なアクセスログが分析できるようになり、これまで調べようがなかったことが明らかになってきました。
例えば、
- 米国では「天気」より「ポルノ」の検索のほうが多い
- ゲイ・ポルノ検索率(およそ5%)は米国のゲイ人口規模を概ね正確に表している
- 男性はギターのチューニング法、オムレツの焼き方、タイヤの交換方法を調べるよりも頻繁に、ペニス増大術を調べている
- 男は女性をイカせる方法と同じほど自分にフェラチオする方法を調べている
またもっと重大なことも、ビッグデータからわかります。例えば、
米国において対極的な政治信条を持つ人々が同じニュースサイトに接する確率は約45%だった。つまりインターネットは完全分断的よりも完全非分断的のほうにはるかに近い。リベラルと保守は、ウェブ上でいつも出くわしている。
(実生活の偏りと比較した上で)
つまり実生活より仮想空間のほうが、自分と対極的な視点を持つ人物と共存しやすいのだ。
とか、
人気のある暴力映画が公開された週末には、実際には犯罪は減っていた。そう、人気のある暴力映画が公開され、無数の米国人が残虐な犯罪シーンを目にしている週末には、犯罪は大きく減っていたのだ。(ただしこの理由にはいろいろな解釈があります)
ビッグデータの重要性が叫ばれて久しいのですが、その威力は意外と知られていません。特に「因果関係を明らかにできる無作為抽出対照試験をいつでも、格段に容易に実施できる」ようになったことは、これまでとは時代が違うレベルの変化ではないでしょうか。
エネルギーを考えなおす
2022年はエネルギー問題の年でもありました。原油価格が高騰しガソリンは上がり、電気代も2倍近くになっています。でもエネルギーっていったい何でしょうか? 人類にとってエネルギーとは何を意味しているのでしょうか。
それを解き明かすのが「エネルギーの人類史」です。はっきりいって大部です。エネルギーというと石油とか電気だと思いがちですが、上巻は人間が食べる食糧生産から話は始まります。というか、上巻はずっとその話です。
人類にとってエネルギーとは食料であり、まずは労働によって入力したエネルギーより、生産によって出力するエネルギーのほうが多くなることが重要でした。そうなって初めて余剰エネルギーができ、さらにエネルギー効率を上げることができるからです。
本書では、牛と馬はどちらのほうがエネルギー効率がいいか(食べる餌と労働力をカロリーで比較する)なんてことが、何ページにも渡って書かれています。
近年のエネルギー問題を調べたいなら、もっと時事に即した本はあるでしょう。でも、もっと根源的に、人類にとってエネルギーとは何なのか? を考えるに、ここまで根源に触れる本はないでしょう。ひさびさにアカデミックな面白さを感じる本でした。
物理学のミステリー
続いては「プロジェクト・ヘイル・メアリー」。『火星の人』とか『アルテミス』の著者が書いたといえば、分かる人には分かるでしょうか。
ペトロヴァ問題と呼ばれる災禍によって、太陽エネルギーが指数関数的に減少、存亡の危機に瀕した人類は「プロジェクト・ヘイル・メアリー」を発動。遠く宇宙に向けて最後の希望となる恒星間宇宙船を放った……。
というストーリーのハードSFなのですが、実は中高生でも分かる科学トリビアが散りばめられているのが、アンディ・ウィアーの小説の特徴です。主人公は、記憶喪失の状態で物語は始まります。
グレースは、真っ白い奇妙な部屋で、たった一人で目を覚ました。ロボットアームに看護されながらずいぶん長く寝ていたようで、自分の名前も思い出せなかったが、推測するに、どうやらここは地球ではないらしい……。断片的によみがえる記憶と科学知識から、彼は少しずつ真実を導き出す。ここは宇宙船〈ヘイル・メアリー〉号――。
意識を回復させた主人公は、ある実験を行うことで、ここが地球上ではないことを明らかにするのです。さて、その実験とは……。
ハードSFというと、古くは相対性理論、新しめだと量子力学とかをモチーフにしたものが多く、スケールは大きいものの、けっこう難解なところがありました。プロジェクト・ヘイル・メアリーは、後半に行くにしたがってスケールは大きくなりますが、冒頭から散りばめられたトリビアは、『火星の人』を思い起こさせる、読んでいてワクワクしてしまう一冊なのです。
さらっと紹介
ここからは今年書評でも紹介した本たちです。
まず『そのビジネス課題、最新の経済学で「すでに解決」しています。』は、なぜ企業がリピーターよりも新規顧客を優遇するのか? とか、NFTを限定発行してオークションにかける場合の最適な数量はいくつか? とかを、現代の最新経済学で解くというものです。書評はこちら。
『波瀾の時代の幸福論 マネー、ビジネス、人生の「足る」を知る』は、かの有名な投資信託バンガードの創業者が、仕事とは何か? について語ったもの。素晴らしい仕事哲学だと思いました。書評はこちら。
『つみたて投資の終わり方』は著名FPが、積立ではなく取り崩しの方法について書いた薄い本。FIREする人だけでなく、だれでもいずれはこれを気にしなくてはなりません。書評はこちら。
金融の中でも金貸しは儲かる仕事の典型です。その筆頭サラ金が、どのように生まれ、なぜ凋落したのか。それを歴史から紐解くドキュメンタリー。書評はこちら。
2022年の話題といえば、何よりもインフレだったわけですが、果たしてインフレとは何なのでしょうか? 教科書的にではなく、現在の経済学の限界にも触れながら、物価について解説した良書です。書評は3本も書きました。こちらとこちらとこちら。
1992年刊行の「FIREのバイブル」です。ただ面白いのは、FIREという言葉を使わず、FIの重要性を説きながらも、REについては重視していないところ。FIerという表現がぴったりくる必読の一冊でした。書評はこちら。
よく投資は心理戦だと言われます。技術や理論よりも、心の制御が大事だと。ではさて、人の心はお金をどのように捉えてしまうものなのでしょうか。書評はこちら。
Voicyにハマった
もう1つ、2022年はVoicyにハマった年でした。VoicyってただのPodcastでしょ? とか思っていたのですが、テクノロジーというよりもエコシステムが大事だと気づかされました。課金機能と専用アプリを用意することで、著名人が定期的に音声コンテンツをアップするのです。
Voicyを聞くきっかけとなったのが、久々のちきりんでした。もう10年くらい前、ちきりんとは間接的に仕事で関わったことがあって、頭いい人だなぁと思っていたのですが、「最後の本」という『自分の意見で生きていこう』も読み、定期的にVoicyを聞いています。
ちきりんVoicyについては、このブログでも何度か取り上げました。あれ、6本も書いているんですね。さすがちきりん、トピックの選び方の波長が合っている感じです。
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